―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに読者の悩みに答える! 今回は心臓疾患を患って以来、後悔の念に苛まれるようになったという60歳男性の悩みについて。自らも心臓カテーテル治療を受けた佐藤優が丁寧に答える。

心臓疾患になった自分について後悔しています

★相談者★ハイキャップ(ペンネーム)無職 60歳 男性

 後悔の念に苛まれています。6年前に心臓疾患になり、その後も不整脈に悩まされています。病気をする前は後悔をするような人間ではなかったのですが、病気をしてからは「あのとき、ああすればよかった」とか「なんであのときに別の選択肢を取らなかったのか」とか「今の自分ならそうしているのに」とか、頭の中で過去のやり直しのシミュレーションを毎日しています。過去は変えられないのは当然承知です。今飲んでいる心臓疾患の薬の副作用でしょうか? それとも私は欲が深いのでしょうか? それとも何か精神的な問題なのでしょうか? 佐藤先生のご意見をお聞かせ願えたらと思います。

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佐藤優の回答

 私も心臓疾患を持っています。4年以上不整脈が出ていたので、’25年7月に心臓カテーテル・アブレーション治療を受けました。この治療は、右脚の鼠径部からカテーテルを入れて、不整脈の原因となる左心房の電気信号を出している箇所を焼きます。私は、常時不整脈が出ている状態が続いていたので、成功率は30%程度と言われていました。幸い治療は成功して、脈も正常に戻ったのですが、12月に再発してしまいました。以前のように重い荷物を持ったり、階段を上り下りするときに息苦しくなることはなくなりましたが、疲れやすいです。それから毎日、血液抗凝固剤を飲んでいます。そのせいで深爪をしたときに血が止まらなくなることがあります。
交通事故に遭遇すると、出血多量で死ぬ可能性が高まります。

 私は腎臓移植手術も受けているため、一生、免疫抑制剤を飲まなくてはなりません。この薬を飲み忘れると、自分の免疫が移植腎を壊してしまいます。免疫が低下している関係で、普通の人では深刻にならない病気でも命に関わることがあります。1月には尿路感染症(膀胱炎)の菌が腎臓に及んでしまい腎盂腎炎になりました。このときは敗血症になって死ぬ危険があったので、入院して治療しました。抗生剤の点滴で治りましたが、副反応で腸内細菌のバランスが変になり、しばらく下痢が続きました。ですから、あなたの不安は、他人事とは思えません。

 ここで重要なのは、私たちが動物であるという現実から目を逸らさないことです。生物学者の中村桂子先生はこんな指摘をしています。

〈ライフステージという考え方の利点の一つは、健常者と弱者、正常と異常という区別がなくなることです。通常社会の中で弱者とされるのは、乳幼児、老人、病人、身障者などです。
しかし、ライフステージという視点で見ると、これはステージの一つです。一人として、乳幼児、老人、病人にならない人はいない。身体障害もそうです。いつ誰がどのような状態になるかわかりません。このようなステージは必ずあるものとして社会システムを組み立てるのは当然で、福祉社会と改めていうものではないわけです。〉(『生命誌とは何か』264頁)

 加齢とともに病気や障害が出てくるのは当たり前です。その制約のなかで精一杯、生きていけばいいのです。私が尊敬するチェコの神学者ヨゼフ・ルクル・フロマートカは「信仰がある者は常に前を見る」と言います。くよくよするよりも、これからできることについて考えることをお勧めします。

★今週の教訓……制約のなかで精一杯、生きればいいのです

「あのときこうすればよかった」と毎日後悔してしまう60歳男性へ。佐藤優が自らの闘病経験を語りながら贈る言葉
生き物すべての歴史と関係を知り、生命の歴史物語を読み取る学知として「生命誌」を提唱する著者が、その基本的な考え方と展望をまとめた一冊。’14年刊
※今週の参考文献 『生命誌とは何か』中村桂子 講談社学術文庫

―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。
’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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