観光業界では「若者の旅離れ」という現象が注目されていましたが、直近のデータではその傾向が変化していることが分かりました。ではいったい、どの世代が旅行業界に影響を及ぼしているのでしょうか。


内藤英賢さんの著書『観光ビジネス 旅行好きから業界関係者まで楽しく読める観光の教養』では観光業界の実態を詳しく解説しています。

今回は本書から一部を抜粋し、「旅離れ」の現状について最新の情報をご紹介しましょう。

■若者の旅離れなんてウソ!
「若者の旅離れ」この言葉は今や常識的にとらえられ、若者は内にこもり、旅をしなくなり、高齢者が元気に旅をしている。日本の旅行マーケットが盛り上がらないのは「若者が旅をしないせいだ!」というのは半ば当たり前のこととして、観光業界ではとらえられてきました。

ところが、2025年度版の「観光白書」を見ると、それは全くのウソであることが分かります。2024年に国内旅行に行った世代で一番多いのが20代で(60%以上)、最も旅行に出ていないのが70代以上(70%が一度も旅行に出かけていない)であることが分かります。

つまり、問題だったのは「若者の旅離れ」ではなく、「高齢者の旅離れ」だった訳です。理由はこちらも観光白書に掲載がありますが、健康上の理由が70代になると一気に跳ね上がることが分かります。60代までは健康上の理由は最も低いにもかかわらず、70代になると圧倒的1位に躍り出ます。

■深刻な高齢者の旅離れ
2025年において、この70代以上というのはいわゆる「団塊の世代」と呼ばれる世代であり、長らく日本の人口の最大ボリュームゾーンであり、経済の中心でした。

「アクティブシニア」という言葉を記憶している人も多いと思いますが、ちょうど10年ほど前、この団塊の世代が大量に退職を迎え、「旺盛な消費欲」「安定した年金と退職金」「退職後にできた余暇時間」を背景に、旅行マーケットを牽引してきました。

それが、10年の時が流れ、健康上の理由で旅行マーケット(旅行マーケットのみではないですが)から退場しようとしています。
このことは、日本の観光ビジネスを考える上で非常に重要なポイントになります。

そして、「少子高齢化」と呼ばれる日本の人口動態から見ても分かるように、少し極端な言い方をすれば「日本人の日本国内旅行マーケットは今後、上がることはない」のです。

事実、観光庁の出している「日本人の延べ宿泊者数」において、2025年は、台風の影響がなかった8月を除き、1度も2024年を上回っていません(もちろん、人口動態のみならず、経済状況など様々な要因で旅行マーケットは一時的には上下することはあります)。

2025年1月~6月の実数字だけで見ると、上半期のみで1000万人泊が消失しています。私が全国を回って聞こえてくるのも、2024年までと明らかに違う。動きが悪い、という悲観的な感想です。

さらに深刻なのが地方観光地のマイナスの足が早いということです。日本全体が毎月数%減っている中で、消費地である首都圏や関西商圏から遠くなる観光地(北海道/沖縄を除き)の減少スピードは一層深刻です。

同じく観光庁の宿泊統計ですが、秋田県や島根県はともに10%近い減少率となっています。旅行客数と人口は当然ながら比例しますので、人口減少スピードが早い地方の方が旅行マーケットの縮小も大きくなるのは必然と言えます。

■危機感を覚えて今から手を打つ
そうは言っても、まだ緩やかなので、多くの観光事業者が「何となく去年より悪いなあ」「その内また上向くだろう」程度の感覚値でおりますが、数年後にこれは大変なことになると危惧しています。

ですので、全国の観光地を長年に渡り、見てきた身として勝手ながら危機感を覚えて、今から手を打ちましょうとお伝えしている次第なのです。


これまでに挙げたデータは、あくまでも「今までと同じようなことをしていると」という未来なので、行動を起こせば未来を変えることができます。

また、団塊の世代の市場撤退のインパクトは単なる数字上の減少だけではありません。消費行動、マーケティング、好みなどが全く異なるということなのです。

団塊の世代の消費行動は良くも悪くも「昭和型消費モデル」で、一例をいえば、団体旅行的な価値観で、「テレビや新聞折り込みで情報を仕入れ」「観光地に行くと、なるべく名所を多く見て回って」「旅館では温泉に入って、会席を食べて、寝る」「ご近所さんや職場に箱菓子のお土産を買う」的な消費モデルです。

この消費モデルがなくなり、新たな消費モデル/消費ニーズに合わせることが大事になっています。

内藤 英賢(ないとう・ひでさと)プロフィール
合同会社Local Story代表。早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱UFJ銀行に入行。退職して、吉本興業の養成所(NSC)を経て約3年半芸人として活動。その後、観光業界へ転身し、株式会社アビリブに入社。株式会社プライムコンセプトの創業にも参画し、取締役副社長COOなどを歴任。宿泊施設や観光地のマーケティング・ブランディングを中心に300以上のプロジェクトを手がける。現在は地域活性化やDMO支援、講演活動など幅広く活躍している。

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