髙橋氏は著書『60歳からの知っておくべき財政学』で、国民が正しく知っておくべき「国のお金」の正体について説いている。今回は本書から一部抜粋し、災害時の増税がいかに経済を破壊するのか、そしてなぜ「100年かけて返す国債」の方が正解と言えるのかを解説。
■「借金を返さなくていい」は国家破綻への入り口
国債をめぐる議論にはよく極端な意見が混じる。国債は将来世代に多大な負担をかけるという主張がある。その一方で、政府は自国通貨を発行できるから借金を返す必要はない、いくらでも国債を発行していいという「現代貨幣理論(MMT)」のような荒唐無稽な理論も存在する。
これはどちらも誤りである。
そもそも、世の中に借金を返さなくていいなどという理屈が通用するはずがない。借りたお金には必ず返済義務がある。利子についても約束どおり支払うのが当然である。国債も同様で、民間金融機関が保有する国債であれ、日銀が保有する国債であれ、政府は利払いと償還(元本返済)の義務を負っている。
もし日銀が民間金融機関から国債を買ったら、単に政府の返済先が日銀に変わるだけで返済義務がなくなるわけではない。
国庫納付金は政府にとって税外収入となり、政府が日銀に支払った利子が最終的に国に戻るという仕組みである。ここで重要なのは、「戻ってくる」という事実と「返済義務がない」という主張を混同してはならないという点だ。
政府は日銀に利子を支払うが、それが最終的に納付金として国に戻るため、財政上の実質的負担にはならないというだけの話である。返す必要がないのではなく、払った分が戻ってくるので財政に影響がない、というのが正しい理解だ。
利払い同様に、元本(償還)についても政府には返済義務がある。ただし、償還にあたって政府はしばしば新発国債の発行で資金をまかなうため、外見上は借金を返していないように見える。
しかし、実際には借り換えによる返済が行われており、返さなくていいという話ではない。
より正確に言えば、政府には国債の償還義務があるが、その資金を新規国債の発行で調達しているため、財政的な負担にはならないということである。
仮に、本当に政府が「国債の返済義務はない」と宣言したらどうなるか。それは「借金だけして元本返済も利子の支払いもしない」と言っているのと同義だ。
そんな国の国債を誰が買うのだろうか? 誰も買わなくなれば日本国債は市場で余り、需給バランスが崩れてそれこそ暴落し、結果として日本はデフォルト状態に陥るだろう。
政府に支払い義務がないと宣言すること自体が、国際的には事実上のデフォルト宣言と見なされる。それほど危険で無責任な考え方なのである。
国債制度の基礎を知らないままに荒唐無稽な理論を広めることは、国際社会において日本の信頼を危うくしかねない。
■災害時の増税ほど愚かな政策はない
国債を毛嫌いする風潮が根強いが、国債を否定すれば増税すべきだという短絡的な論理に陥るだけだ。実際、東日本大震災後の2014年に行われた消費増税はその典型例である。
政府は「復興財源が必要だから、国民全体で痛みを分かち合うために増税する」と説明したが、これは財務省の常套手段といわざるを得ない。
震災直後、国会も国民も“絆”という言葉と共にこのロジックを受け入れてしまったが、本当に災害復興を目指すなら最も効果的なのは国債発行だった。
災害時の増税ほど愚かな政策はない。被災地が大打撃を受けているのに、人々の消費意欲は冷え込み経済全体が萎縮する。本来は被災していない地域の経済力で被災地を支えるべきところ、その経済力まで奪ってしまうのが増税なのだ。
言い換えれば、災害で倒れている人を助けようとする他人の足を引っかけて転ばせるような行為である。
災害時に税収が落ち込むのは当然で、だからといってさらに増税する国など聞いたことがない。むしろ経済活性化のために減税するのが世界の常識だ。
■100年債こそが「世代間の公平」を実現する
災害復興の財源として最も適しているのは国債、しかも100年債や500年債といった「超・長期国債」である。
ここで「借金を後世代に押し付けるのか」というお決まりの批判が出るのは予想される。しかし、冷静に考えれば、災害が起こった世代だけで復興費をまかなうほうが不公平だ。
大規模災害は100年に一度、あるいは500年に一度の出来事である。それならば、復興費用を100年、500年かけて世代を超えて分担するのが自然な考え方だ。これが「課税の平準化理論」と呼ばれる基本的な経済理論である。痛みを分かち合うというなら、超・長期国債のほうがはるかに公平だ。
髙橋 洋一(たかはし・よういち)プロフィール
1955年東京都生まれ。数量政策学者。嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。
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