新海誠監督の『君の名は。』や、片渕須直監督の『この世界の片隅に』などの劇場アニメ作品に参加し、ジャンルを横断する活動で注目を集めてきた日本画家・四宮義俊。
そんな彼が、自身のオリジナル脚本によって、ついに長編アニメーション監督デビューを果たした。
老舗の花火工場を舞台に、三人の若者たちが”幻の花火”を巡って繰り広げる青春ストーリー。その行方とは――。
2024年・第77回カンヌ映画祭併設のアヌシー・アニメーションショーケースにも選出され、さらには、2026年・第76回ベルリン国際映画祭「コンペティション部門」に正式出品されるなど、世界的な注目を集める本作について、制作秘話や見どころを四宮義俊監督に語ってもらった。

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――四宮監督にとって、長編アニメーションのデビュー作となります。
四宮 アニメの仕事を始めた頃から、いつか自分の監督作を作りたいという思いがありました。企画として考え始めたのは2016年頃ですね。当時の社会問題と、自分が生まれ育った故郷の風景や記憶を重ね合わせながら、「今の時代」を描けたらと思って企画を練っていきました。

――どのようにして、本作のストーリーを思いついたのでしょうか?
四宮 きっかけは、自分がアトリエにしている建物の目の前にあった原っぱが、ある日突然、巨大なソーラーパネル群に変わったことでした。今でこそネガティブな側面が語られることも多いですが、当時はまだその風景をどう表現したらよいか分かりませんでした。
そんな風景を見て、娘が「あれって海?」と言ったんですね。「そういうふうに見えるのか」と、新鮮な驚きがありました。
地元で昔泳いでいた本物の海は埋め立てられてなくなってしまったのに、ソーラーパネルの”海”は広がり続けている。その対比を物語として描いたら面白いんじゃないか、そしてそれを”花火”という特別な存在に昇華できないかと、試行錯誤しながら形にしていったのが、この物語です。

――アーティストという立場から、イラストボード中心の制作かと思いきや、脚本にもかなり力を入れられていますね。
四宮 僕は日本画やファインアート寄りの人間ですが、商業アニメとの大きな違いは「物語がある」という点だと思っています。観てくれる方に物語をきちんと届けたい、というのは自分が勝負したかったポイントの一つです。
絵を描くことは呼吸するようにできる一方で、物語作りはそうはいかない。だからこそ、そこは特に大切にしようと考えました。

――劇場映画化が決まったときのお気持ちは?
四宮 シナリオや設定、自分で声を吹き込んだ自作のVコンテ(ビデオコンテ)を作り、当時お付き合いのあった会社さんに持ち込みを続けていましたが、企画が通るまでにはずいぶん時間がかかりました。その分、映画化が決まったときは、描きたかったテーマが時代に追い越されてしまうのではないか、という焦りが強くて。嬉しさ以上に、「一刻も早く作り始めたい」という気持ちの方が大きかったですね。

――『花緑青が明ける日に』というタイトルは、監督が考えられたものですか?
四宮 いくつかあったタイトル案の中から、この映画にふさわしいものを選ばせていただきました。当初は劇中の一要素にすぎなかった「花緑青」という色を拾ってもらえたのは嬉しかったですね。
僕が最初に付けていたタイトルは「新しい夜明け」でした。英題「A NEW DAWN」として残っています。

敬太郎とカオルに不可欠だった、萩原利久と古川琴音の声

――この作品を彩る三人のメインキャラクターは、どのように生み出されたのでしょうか?
四宮 テーマの一つに「帰郷」がありました。そこから、「地元に残り続けている人」「外に出ていった人」「地元で就職した人」という三つの立場に当てはまるキャラクターを作ろうと考え、生まれたのが帯刀敬太郎、式森カオル、チッチ(帯刀千太郎)です。
初期段階では、敬太郎とカオルを双子にする案もありました。髪型が似ていたり、猪突猛進な性格が共通していたりするのは、その名残ですね。二人を支える存在として配置したのがチッチで、敬太郎との関係性も、友人から兄弟へと変化していきました。その組み替えには苦労しましたが、結果的には良い形に落ち着いたと思います。

――敬太郎は、どのようなキャラクターですか?
四宮 久しぶりに地元へ戻ったときに、「やっぱりすごいヤツだな」と再認識される存在。地元に埋もれていた可能性の塊として描いています。ニヒルでアナーキーな面と、コミカルなシーンとの温度差が重要なキャラクターですが、スタッフから「可愛い」という反応があったのは意外でした。その声を受けて、表情や顔つきを少し可愛い方向へ修正しています。
楽しく描けたポイントでもあるので、ぜひ劇中で注目してみてください。

――カオルについては?
四宮 引きこもりがちな敬太郎を外へ連れ出そうとする幼なじみとして、彼とは正反対の、アクティブで自己顕示欲の強いキャラクターにしています。リアクション担当でもあるので、驚いたり怒ったりと感情が目まぐるしく変わる表情や、立ったり座ったりといった動きの多い芝居は、特に意識して描きました。

――チッチについてお聞かせください。
四宮 市役所での仕事、弟の敬太郎、幼なじみのカオル。そのすべての間で板挟みになる、一番葛藤の多いキャラクターです。物語の構造上、彼が主人公になってしまう可能性もあったので、一歩引いた立ち位置の狂言回しとして配置しています。兄弟設定にしたことで、敬太郎のキャラクター性もより浮かび上がるだろうと考えました。

――三人のキャスティングで、特に重視したポイントは?
四宮 敬太郎には、しっとりと遠くまで届く声が必要でした。萩原利久さんの声には透明感があり、セリフが少なくても自然と心に入ってくる落ち着きがあります。少年のようなあどけなさも表現してもらえるのでは、と感じました。
カオルは、叫びや怒り、モノローグなど多彩な声の表情が求められるキャラクターです。
明確な個性と実在感の両方を持っている方として、古川琴音さんにお願いしました。アフレコ後は、自然と古川さんの声をイメージしながらカオルを描いていたような気がします。
チッチ役の入野自由さんは、声優としての経験も豊富で、この三人をまとめる存在としてぴったりだと思い、お願いしました。

背景美術とキャラクター、その調和にこだわって

――アフレコ現場の雰囲気はいかがでしたか?
四宮 萩原さんも古川さんも、アニメ声優は初挑戦でしたが、気迫が伝わってくる体当たりの演技をしてくださいました。スケジュールの都合で掛け合いができない場面も多かったのですが、疑問点や提案を積極的に出してくださって。監督としては初心者同士のような部分もありましたが、ディスカッションを重ねることで芝居の質を高めていけたと思います。

――映像制作において、特に大切にしたことは?
四宮 背景美術とキャラクターのハーモニーですね。そこが自分の個性を最も活かせる部分だと感じていました。一枚絵を描くことが出発点なので、手描きの風合いは残したかった。密度を詰めすぎると余韻が失われてしまう気がして、見せるところはしっかり見せ、抜くところは抜く。そのメリハリとバランスを意識しました。

――監督として現場に立ってみて、感じたことは?
四宮 打ち合わせの多さには本当に驚きました(笑)。
これまでは個人制作に近い感覚で、「自分が分かっていればいい」と思っていた部分もあったんですが、集団制作ではそうはいかない。伝えたつもりでも伝わっていないことが本当に多くて。「伝えるべき言葉を、確実に伝え続ける」ことこそが、監督の仕事なんだと痛感しました。他者の才能をどう作品に取り込んでいくか――それがアニメーション制作において最も重要なことだと、日々感じていました。。

――劇場で観るからこそ体感できる、本作ならではの魅力とは?
四宮 劇場鑑賞を前提とした画面レイアウトやスケール感、特に色彩には強くこだわりました。これらは劇場用にセッティングされているので、家庭用のモニターでは再現できません。つまり、僕が本当に表現したかった色を体感するには、劇場で観ていただく必要があるということです。
今の自分が出せるすべてを注ぎ込んだ、まさに”劇場でしか味わえない映像体験”になっています。ぜひ映画館の大きなスクリーンで、この作品を受け取ってもらえたら嬉しいです。

【PROFILE】
四宮義俊(しのみやよしとし)
1980年生まれ。日本画家として絵画を軸に、立体、映像など多彩な創作活動を行う。
実写映画やアニメーション映画の美術や特殊シーン演出を担当、『君の名は。』(新海誠監督・回想シーン)、『この世界の片隅に』(片渕須直監督・水彩画)等に参加。渋谷スクランブル交差点での四面連動ビジョン放映で話題になった「トキノ交差」や「冒険隊~森の勇者~」(眉村ちあき)MVで監督を務める。本の装丁、広告、CMなど各種メディアに携わる一方で、日本画家として培った素材研究をベースに異質なマテリアル同士やジャンル同士を媒介・融合させながら作品を制作し続けている。
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