空から恐怖の大王が落ちて来なかった、あの7の月までだったでしょうか。夏の暑さがまだマシだったのは。
自転車用品情報2024、私は四本淑三です。今回の話題の中心といたしますのは、前回に引き続き現代の自転車生活者に与えられた試練を乗り越える物品。中でも今回の試練は人類全般にかかる大問題と言えましょう。
夏が暑い。とにかく最近の暑さは尋常ではありません。昨年は北海道ですら35度超えが続き、夏の間は自転車がさっぱり売れなかったとショップの方が嘆いておりました。昔から「30度を超えたら体力を消耗する一方だから走らないほうがいい」なんて言われてきましたが、今どきそんな悠長なことを言っていたら夏は走れません。
では暑さに対する人類の対応力が昔より向上したのかと言えばそうでもない。暑熱順化を頑張ったところで限度はあります。30度超の気温でロングに出たらあっという間に熱中症です。それでも隙あらば自転車に乗りたい。少しでも気持ち良く乗りたい。
そうした破れかぶれな覚悟を持って購入したいのが今回の物品です。
流行りの3Dサドルは涼しいはず
最近流行りの自転車用パーツのひとつに、3Dプリンタで成型した通称「3Dサドル」があります。液体ポリマーに紫外線を当てて成型したパッドを持ち、部位によって反発力や沈み込み量など面圧を自由に設定できることから、今までにないフィット感をもたらすというのが売り文句です。
ただし、そうしたコンフォート性能と引き換えですと言わんばかりにお値段はお求めにくい。このタイプのサドルで良く知られているのは、アナトミックサドルの先駆けでもあるスペシャライズドの「Mirror」サドルですが、これが5万円台。最近になって普及版の「Power Pro with Mirror」も発売されましたが、それも4万円台前半。そうした人気高額商品の常としてどこからともなく湧いてくる模造中華品ですら、なかなか1万円を切りません。
個人的にロードバイクにはセラSMPの「Nymber」が文句なく使えていることから、3Dサドルに心惹かれるものはありませんでした。が、夏が近づくと共に気になり始めたのです。「あのサドル、ちょっと涼しいのではないか」と。
まず見た目からして座面メッシュのオフィスチェアを想起させます。自転車の場合は走行中にラム圧を受けますから、それを上手く通してくれたらベンチレーション効果も期待できるのではないか。
従来の穴あきサドルでも空冷効果は期待できますが、いわゆるデリケートゾーンの中心のみ。荷重を支える左右の坐骨周辺の風通しは良くありません。そこに風があたると、ちょっと良いのではないか。ペダルを踏んでいる身体側は毎分百回近く動いて熱を発しているわけで、そこにちょっとでも風があたると、そこそこ涼しく感じるのではないか。
いや、その程度のことに5万はどうなんだ? でもそのちょっとの差で熱中症で死に目に遭うとしたら? そこへ至る閾値が少しでも緩くなった結果として死なずに済んだとしたら? 高くはない。そうだ、決して高くはないのであーる。
「セライタリア NOVUS BOOST EVO 3D」
というわけで物欲が勝利した結果、購入に至ったのがセライタリアの「NOVAS BOOST EVO 3D」でした。人気のスペシャライズドにしなかったのは、坐骨の当たる部分がカバーに覆われたような形状で、通気性イマイチに見えたからであります。
とはいえいずれも使った経験はありませんから、何を選ぶにしても一か八か。だったら、そこはアミアミ丸出しのセライタリアでしょうと。レギュラーのNOVAS BOOST EVOはMTBで使っていたので、相性面でのリスクが低そうという個人的な理由もありました。
この製品にはカーボンベースで軽量な「KIT CARBONIO」税込価格6万8200円と、樹脂ベースにチタンレールの「Ti316」税込価格5万1150円のバリエーションがあり、私が買ったのはもちろん安い方。それがAmazonアウトレットで3万5386円で売られていたのが決定打となり、ひとたまりもなくポチったのでした。
パンツを脱いだら分かる効果
さて、その結果ですが、今のところ乗っていて「おお、これは涼しい!」と感じるほど劇的な効果はありません。体感値としてはなんとなく風が通っているような気もしないでもないという微妙なところですが、家に帰ってパンツを脱いでみると一目瞭然。パッドにできたオーストラリア大陸のような汗染みが前より1/3は小さくなっている。あるいは薄くなっているといった具合。これは気化して放出された水分量が増えた。だから気化熱を多く獲得しているぜ、ということです。やったぜ。
乗り心地は、可はあれど不可はなし。前端から中央部にかけては座面が柔らかくある程度の沈み込み量があり、後端へ行くほど硬いという設定。ベース中央部のしなり具合などは、レギュラーのNOVAS BOOST EVOと変わらん印象です。とりあえず水平に設定して、サドル高を上げ過ぎなければ、痛くも痒くもないポジションが出せるイージーさも同じ。
後端がキックアップした形状のセラSMPに比べると、ペダルを蹴り出すように回しても踏みごたえを感じないのは物足りません。
気になるのは耐久性です。革サドルのように座面が馴染んでくる感覚もあるので、逆に言えばパッドの底付きが早い可能性があります。それに3Dプリンタの事情で使える材料も限られるのでしょうが、座面が真っ黒なので日向に放っておくと熱い。光造形の樹脂ゆえ劣化も気になるところです。
ただこのサドル、最近になって3万円台後半で売る通販店が増えてきました。高いと言えば、まだまだ高い。でも私がそうだったように、暑さを言い訳にして物欲に屈するには十分なお値段です。夏の本番はまだこれから。皆様くれぐれもご自愛ください。