久しぶりに銚子電鉄を訪問するため東京駅からJR総武本線を完走する特急「しおさい」に乗車した。現在では、千葉県内を目的地とする特急でしか見ることができない255系特急電車がメインで使用されるのが「しおさい」だ。

製造からほぼ四半世紀、同じ頃にデビューした251系「スーパービュー踊り子」、E351系「スーパーあずさ」など仲間の特急電車が相次いで引退しているので、255系が元気な姿を見せてくれるのも、あとどのくらいなのだろうか?引退が発表されると乗るのも撮るのも大騒ぎとなる昨今、静かなうちにゆったりした気分で乗っておきたいと思う。



■255系で銚子までのゆったり旅

 出発は、東京駅の総武快速線・横須賀線が発着する地下ホーム。朝のラッシュアワーがそろそろ終わるころとはいえ、千葉方面からやってくる快速電車からは大勢の人が吐き出され長いエスカレータは「密」な状態だ。それに逆らうように地下ホームに降りていくと、2番線には9両編成の「しおさい」がすでに横付けとなっていた。



 丸みを帯びた先頭のフォルムは今もって斬新なスタイルだと思う。黒い前面に比して、サイドは屋根から窓下にかけてが房総の砂浜を思わせる白、裾に黒帯があり、その下は太平洋を思わせるオーシャンブルーに塗られている。

ドア付近が黄色い塗装でアクセントのようになっているが、黄色は千葉の県花なのはなをイメージしているようだ。





 コロナ禍のせいばかりではなく、高速バスやマイカーとの競争もあって、車内は空いていた。もっとも、満員で「密」な状況よりは好ましい。指定席に腰をおろしたのだが、隣は空いたままであるし、2人連れを除けば、窓側にひとりづつ、それも一席おきくらいに座っている程度だった。



 ほぼ定刻に発車。長い地下トンネルを出ると、左上には両国の江戸東京博物館が見える。

前衛的なすみだ北斎美術館の脇を過ぎると、東京スカイツリーが建物の間に見え隠れする。錦糸町駅に停車、ちょっとだけ乗客が増えた。





 ここからは複々線の一番左側の線路を快走する。小岩を過ぎると、江戸川を渡って千葉県に入り、市川、船橋、津田沼と快速電車の停車駅はすべて通過。特急電車らしい俊足を誇り、錦糸町駅を出て21分で千葉駅に到着した。



 千葉駅を発車すると、内房線、外房線方面の線路と分れ、左に大きくカーブ。

「しおさい」の前方の車両がよく見える。ところどころで緑の林が目に付くほかは、ぎっしりと住宅が立ち並んでいる。相変わらず、電車は心地よいスピードで走り抜ける。四街道駅を通過し、物井駅あたりから、広々とした田園地帯が目に入ってくる。短いトンネルを抜けると佐倉駅に停車。東京駅を出てから、ここまで40分ジャスト。
表定速度83㎞/hは健闘しているといっていいだろう。





 ただし、この先は総武本線は単線となり、停車駅も増えるので鈍足になり、列車の雰囲気もがらりと変わるのだ。



 佐倉駅を出ると、しばらくは複線の成田線の脇を遠慮するように進む。支線の成田線が堂々たる複線で本線格の銚子行きの線路が単線とは逆のようだが、成田空港へ向かう路線の方が列車本数が多いのでやむを得ない。やっとのことで成田線と分れると、雑草に覆われたか細い単線の線路をスピードを落として走る。何だかわびしくなるけれど、快適な特急車両からローカル線ムード一杯の車窓を楽しめるのは、ある意味贅沢なことかもしれない。





 



 佐倉駅から銚子駅まで65.2㎞を「しおさい3号」は65分かけて走る。表定速度は60㎞とがくんと下がる。停車駅も6駅、飯岡~銚子間を除けば一駅おきに停車する。佐倉~八街(やちまた)間は2駅通過になっているけれど、榎戸駅では対向列車とすれちがうため運転停車。相手が特急なら納得だが、何と普通列車を待つとは情けない。列車ダイヤ上、やむを得ないとはいえわびしい話だ。



 八街は駅名標の脇に「日本一の落花生の郷」とあるように、落花生で有名なところだ。ピーちゃん、ナツちゃんというキャラクターのイラストが楽しい。





 成東駅では東金線が分岐する。このあたりからは、広々とした平野の中を軽やかに走っていく。各駅の構内の線路の敷き方が昔のままなので分岐するあたりがカーブになっていて、減速を余儀なくされる。高速で突っ走らないところが逆にローカル線らしい風情を醸し出し「乗り鉄」には好ましい。ムードはよいけれど、長距離バスとの競争で苦戦する理由のひとつであろう。



 横芝駅、八日市場駅、旭駅と停まるたびに乗客が三々五々降りていく。車両の前方に座っていたので気が付かなかったけれど、車内を振り返ってみると閑散として相当寂しい状況になっていた。



 飯岡駅を発車すると、列車は築堤を上っていく。飛行機が離陸するときのような車窓風景だ。遠くまで見渡せ思わず見とれてしまう。上り切ったところでトンネルに突入。闇の中を走るのは佐倉駅の手前以来だ。





 トンネルを抜けると、これまでのある意味単調だった平野の風景とは一転して山岳地帯を走る。といっても険しさはあまり感じない緩やかな丘陵地帯である。それでも、旅の最後に車窓の「山場」を迎えるとは、「しおさい」の旅もなかなかのものだ。丘の向こうには風力発電の風車が複数立っている。人工的なものではあるけれど、山が険しくないので、逆にアクセントになっていて目立つ。





 山を下りて再び平野に差し掛かると、左手から単線の線路が近づいてくる。佐原方面からやってきた成田線だ。合流して単線のまま並走する。成田線の銚子行き電車が先を走っていたのだが、さすが特急は軽々と追い越してしまう。向こうは松岸駅に停車するので減速していたのだ。線路は松岸駅を過ぎると単線になる。「しおさい」は成田線の普通電車を追い抜いた形でそのまま銚子駅ホームに滑り込んでいった。





 ホームに降り立つと、意外に多くの乗客が改札口に向かって歩いていた。指定席車両は閑散としていたが、自由席は、ほどほどに混みあっていたようだ。GO TO トラベルを利用して犬吠埼などに向かう観光客であろうか?平日だったので、中高年の女性グループやシニアの夫婦が目に付いた。



 跨線橋を渡って、隣のホームの先端にある銚子電鉄の乗り場へ。「しおさい」の旅は終わったけれど、銚子電鉄の短いけれど楽しい旅の始まりである。