消費増税の軽減税率制度開始に伴い、店内飲食と持ち帰りの価格を統一するのは、牛丼チェーンのすき家と松屋、ケンタッキーフライドチキンなどだ。店内飲食では実質値下げとなる。

 消費増税を前に値下げしたのはニトリ。9月6日、288品目を値下げした。ダイニングテーブル、ソファ、ベッドなど大型家具を最大20%割引。「無印良品」を展開する良品計画も8月末から約1100品目を順次値下げした。「10月1日以降も価格は変えません」とアピールしている。良品計画は2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられた際も同様の対応をした。

値札を変更する手間が省けることも大きいとしている。

 西日本を中心に全国1000店舗を展開するドラッグストア大手、コスモス薬品も、医薬品や日用品などで税込み価格を据え置く。対象となる商品は金額ベースで売上高の3~4割を占めるという。ケンタッキーフライドチキンは「オリジナルチキン」など主力商品の税込み価格を据え置く。マクドナルドが10月に売り出す低価格の新商品の「スパイシーチキンバーガー」は税込み200円。おてごろマックシリーズの新たなラインナップだ。

「マックらしいお得感」を前面に打ち出す。

 ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス(PPIH)は9月14日から30日まで、食料品や酒などを除く商品全体の7割程度を対象に、本体価格から一律8%値引きするセールを実施した。トイレットペーパーなどの日用品や家電製品が売れた。PPIHは「過去最大規模の消費者還元」(阿部博史取締役)と説明した。店長の裁量で価格を決めているドンキが全国の店舗で一斉に値引きに踏み切ったのは異例だという。

 店内飲食と持ち帰りの価格を分ける吉野家は、お得感を演出する。

10月1~15日に牛丼など主力メニューの本体価格を10%値引きする。吉野家は当初、還元に参加する予定だったが、システムの改修が間に合わず断念した。

 外食チェーン大手はスーパーやコンビニエンスストアの弁当などの、いわゆる「中食」(消費税率8%)を意識した価格戦略を練っている。飲食料品には軽減税率の8%が適用される。コンビニ大手のほとんどの店舗は政府のキャッシュレス決済への還元に参加し、利用客は2%の還元を受けられる。

 増税前に値下げラッシュが起こっているのは異常事態だ。

「長崎ちゃんぽん」のリンガーハットは8月1日からランチメニューに餃子5個とご飯、スープ、漬物で税抜き370円の「格安セット」を投入した。人気の「ちゃんぽん」と餃子5個のセットの定価を700円から690円に下げた。

デフレ不況が再燃の懸念

 過度な価格引き下げ競争が広がれば、デフレ不況が再燃しかねない。客足をつなぎ留めるために値段を上下させるのは、企業にとってはデメリットも大きいが、各社とも“目先の利益”の確保に血眼になっている。

 株式市場では「増税耐久力」が試されている。サイゼリヤの株価が9月下旬、年初来高値を連日更新した。

同社は子連れにも人気の低単価のファミリーレストランを展開している。10月からの消費増税に合わせて実施される「幼児教育・保育の無償化」の恩恵を受けるというのだ。無償化で余裕が生じ、余ったお金を外食に回すというシナリオが描かれている。「消費増税の耐久力のある銘柄」(消費関連業界担当のアナリスト)との評価を得たのが株価上昇につながった。

 同様の切り口で、すかいらーくホールディングスの株価も堅調である。テイクアウトに強みを持つカレーの壱番屋は8月に高値を更新した。

個人消費が低調なのは、給料が上がらないからである。もともと40~50代の給料は頭打ちになっていたが、働き方改革によって残業代が減って、さらに手取り賃金が下がった。給料が下がれば消費に回すお金の余裕がなくなる。残業代が減り、消費税が上がる。さらに老後に2000万円ためなければならないとなれば、サイフのひもが緩むわけがない。

 軽減税率は富裕層によりメリットが大きい、との指摘がある。鶏肉と牛肉を買おうとする場合、牛肉を買う人のほうが絶対額で得をする仕組みだからだ。経済ジャーナリストの荻原博子氏は「一人ひとりが生活を守るために、カネを使うな」「これだけ先が見えず、デフレの時代。借金を減らして現金を増やすことが一番大切」と提唱する。消費税率が10%になるのを機に、人々の節約傾向が強まるかもしれない。

(文=編集部)