どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。

 さて、前回の記事【“豪腕”飯島三智氏と“お嬢様”のジュリー喜多川氏…SMAP解散を回避できた可能性】ではジャニーズ事務所の世代交代についてお話しましたが、今回はそのほかの事務所について、ぼくが知っていることをお話していきたいと思います。

 芸能事務所の世代交代で最近モメているところといえば、ご存じオスカープロモーション。昨年から今年にかけて忽那汐里ちゃん、ヨンアさん、岡田結実ちゃん、さらに事務所の看板女優である米倉涼子さんなど、所属タレントが続々退所し、注目を集めています。

 オスカーでは数年前から事務所の社員も続々退社しており、その数は160人ほどいた社員のうちなんと約3割にも上るといわれています。こんなに大量の人材が流出するって、相当のことですよ! これは、古賀誠一元社長(現・代表取締役会長)の娘婿である堀和顕専務によるパワハラまがいの社内改革がきっかけとなったと報じられています。もともと、“オスカー帝国”と呼ばれる大事務所を一代で築き上げた古賀誠一会長のカリスマ性で成り立っていたような事務所ですからね。古賀会長は、「いずれ堀氏を社長に」と考えているようですが、さて、今後どうなるのか……。この先、さらなるタレントの退所が続くのか、業界でも注目されています。

就任当初は批判も多かったホリプロ現社長

 それに対して、世襲が比較的うまくいったように見えるのが、綾瀬はるかちゃん、深田恭子ちゃん、石原さとみちゃんなどが所属するホリプロと、日本の芸能事務所の草分け的存在であるナベプロ(=渡辺プロダクション)。

 ホリプロの現社長である堀義貴氏は、創業者である堀威夫氏の次男で、音事協(=日本音楽事業者協会)という芸能事務所で構成される業界団体のトップも務めている方です。いまとなっては業界内外から全幅の信頼を寄せられ、このような地位にある堀社長ですが、2002年の代替わりのときには、実は内部からめちゃくちゃ反発があって、「あんなボンボンが来てもダメだ!」なんていわれ、社内でも反発が強かったんですよ。まあ、なんてったって社長就任当時はまだ30代でしたしね……。

 でも、やっぱりビジネスマンとして非常に優秀な人だったから、社内改革など進めていくなかでしっかり結果を出して、いまや芸能界を引っ張っていく存在にまでなっている。

どんな会社でも、新しいトップが就任する際には反発があるのが当たり前。それを実力で押し戻して、新しい体制を作れるかというところが重要なんですよね。

 それに堀社長は以前Twitterで、「私もいいおじさんですが、芸能の仕事に誇りを持って生きています。エンターテインメントのない世の中など想像できません。」とつぶやいていたほどエンターテインメントに愛を持っている方。映画『リトル・ダンサー』(2000年、BBCフィルムズ)を基にした『ビリー・エリオット』という有名なブロードウェイミュージカルがあるんですが、「子どもが主人公であるため原則20時までしか出演させられない」「高額な制作費をまかなえるロングラン上演できる劇場がなかなかない」など、当初、日本で上演するにはいくつもの高い壁があったんです。でも、この作品に惚れ込んだ堀社長が“どうしてもやりたい”と苦心し、2017年に『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』として日本版の上演が実現したのは非常に有名な話。堀社長はそれくらいエンタメが好きだし、情熱もある人だから、人がついてくるんでしょうね。

ナベプロ創業者は、芸能界のカリスマ“トップ・オブ・トップ”

 ナベプロは、この業界では知らない人はいないであろう“昭和芸能界の父”・渡辺晋氏(1987年に逝去)が1955年に創業した芸能事務所グループで、現在は晋氏の奥様である渡邊美佐氏がグループ代表、長女の吉田美樹氏(渡辺ミキ、ワタナベエンターテインメント社長)が代表取締役会長、次女の渡邊万由美氏(トップコート社長)が代表取締役社長を務めています。

 芸能事務所の創業者や社長は、カリスマ的存在である人がほとんどですが、この渡辺晋氏こそ、そんなカリスマのなかでもトップ・オブ・トップ! 芸能界の一番のドンであったことは間違いないでしょう。だからこそ、その“奥様とお嬢さん”というのは、軽く扱ったり裏切ったりしていい存在ではないことを、周囲のみながわかっているんですね。

 長女の渡辺ミキさんは、すごくカジュアルに接してくれるいい方なんですが、自分がやりたいタレントに関しては現場にガンガン口を出してくるタイプなので、社内からの評判はあまりよくないかもしれませんね……(笑)。

非常に美しい、女優・杏の所属事務所社長

 次女の渡邊万由美さんは、菅田将暉くんや松坂桃李くん、中村倫也くんら今をときめく俳優たちを多数擁するトップコートの社長も兼任。

昨年11月には『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)で密着ドキュメンタリーが放送されたこともあり、ご存じの方も多いかもしれません。あの番組では、菅田将暉くんと食事しているところや、ドラマ『偽装不倫』(日本テレビ系)撮影中の杏ちゃんの様子を見に行くなどのシーンが放送されましたが、あれは、本当に本当に、彼女の仕事のほんの一部。当たり前だけど、芸能事務所トップの真の仕事なんて、絶対にテレビには映せないですよ(笑)。

 それこそ、あの時期の杏ちゃんは夫の東出昌大くんの不倫で悩んでいた時期だと思うし、そういうギリギリの話も、おそらく万由美社長とは当然してるわけじゃないですか。あと、テレビのプロデューサーとご飯食べて、「うちの事務所の○○がいいのよ~」なんて密談をしてるところなんかも、絶対に放送できない(笑)。芸能仕事の一番大事な部分って、やっぱり映せないですよね。

 万由美社長は、もともとは芸能界に興味はなかったのに、成り行きで芸能界で生きていくことになってどんどん成功している……という不思議な方ですね。先述の『プロフェッショナル』内では自分のことを「人見知り」などと語っていましたが、とても美しい方なので、表舞台に出てくださいとNHKのスタッフに言われて、「いやいやいや……」と遠慮しながらも結局は出ちゃうタイプ(笑)。

芸能界は、「人」が商品となる特殊な業界

 さて、ここまでいくつかの事務所のケースを紹介してきましたが、そもそも、芸能事務所のトップが世襲である必要は、当然ながら本来はないんですよね。実際、そうではない事務所ももちろんたくさんあります。結局は、ビジネスのセンスや人を束ねる力がないと、芸能事務所のトップを務めるのは難しいでしょうし。

 でも、芸能界の仕事って、やっぱり“人”なんです。

前回の記事【“豪腕”飯島三智氏と“お嬢様”のジュリー喜多川氏…SMAP解散を回避できた可能性】でもお話しましたが、タレントも事務所のスタッフも、結局はトップの人柄に着いていくのだということは、この業界で働いていると、強く実感させられます。それはタレントにもマネージャーにも少なからずいえることで、「この人と仕事がしたい」「この人に着いていきたい」と思わせる“人たらし”こそが、この世界で成功するんですよね。特にマネージャーでそういう優秀な人というのは、業界でほんの一握りなので、優秀なマネージャーは常に不足しています。

 繰り返しますが芸能界は、そういうふうに、“人”を基本にしたビジネス。なぜって、人そのものを“商品”にしなければいけない、そういう意味では少々特殊な業界ですからね。だから、もちろんいまでこそ、アミューズ、エイベックス……と株式上場している芸能プロもありますが、やっぱりどこか“昔気質”である部分が残っており、ゆえに、人との繋がりや仁義を大事にする風潮はほかの業界より強いと思います。だからこそ、芸能事務所のトップには世襲が多いのでしょうね。

(構成=白井月子)

●芸能吉之助(げいのう・きちのすけ)
弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める、30代後半の芸能マネージャー。趣味は食べ歩きで、出没エリアは四谷・荒木町。座右の銘は「転がる石には苔が生えぬ」。

編集部おすすめ