佐川急便を傘下にもつSGホールディングス(HD)と日立物流は9月24日、経営統合を見送ると発表した。SGHDは日立物流が保有する佐川急便の発行済み株式の20%分すべてを875億円で買い取る。
佐川急便は宅配便大手。日立物流は3PL(物流の一括請負)首位。2016年3月、資本・業務提携を決め、将来の経営統合を視野に入れていた。新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に物流が停滞するなど経営環境が一変したことを統合見送りの理由に挙げている。
これで日本通運に次ぐ陸運業界第2位企業の誕生はなくなった。
日立物流の株価は下落、SGHDは上昇と明暗を分ける経営統合の見送りは明暗を分けた。発表翌日の9月25日の東京株式市場。日立物流株は一時、前日比220円(6.2%)安の3350円まで下落した。
一方、SGHD株は一時、前日比700円(14.7%)高の5470円まで上げた。その後も上昇を続け、10月20日に上場来最高値の5830円をつけた。3月13日に年初来安値(1977円)をつけており、7カ月あまりで2.9倍の水準に達した。株価上昇にはいくつかの要因が重なった。
まず業績。巣ごもり消費によって宅配事業が好調なだけではない。日立物流株の売却で売却益を計上する。SGHDは2021年3月期の連結純利益を前期比32%増の625億円に上方修正した。日立物流株の売却益は75億円。日立物流から取得することになる1億株の自社株の評価益が25億円出るため、合計100億円の利益が上乗せされる。
9月末の中間配当で10円の特別配当を実施。
2013年、SGHDに大きな転機があった。宅配便業界最大手、ヤマトホールディングス(ヤマト運輸)に追いつき追い越せとばかりに、インターネット通販大手のアマゾン・ジャパンの配送を引き受け、宅配便個数を増やしてきた。ところが、取扱荷物の急増でドライバーの不足が深刻化し経営を圧迫した。13年、アマゾンとの値上げ交渉が決裂、アマゾンの宅配から撤退した。
新たな収益源を求めて企業間物流に着目した。
SGHDは17年12月13日、東証1部に新規上場した。初値は公開価格を17%上回る1900円。初値ベースの時価総額は6083億円だった。SGHDは上場に当たって新株を発行していない。資本調達なしにIPOに踏み切った理由について町田公志社長(当時)は「時価総額が欲しかったから」と話す。
SGHDと日立物流は水面下で経営統合を検討していた。株式市場で公正な時価総額が決められていれば、株式交換方式による合併交渉を迅速に進めることができる。SGHDが株式を上場したのは日立物流との統合に備えてだった。初値ベースの時価総額6083億円は日立物流のそれ(約3000億円)の2倍。
ところが、新型コロナで両社の経営環境は一変した。宅配便が膨らみSGHDの時価総額は今や1兆7738億円(10月22日現在)。初値ベースの2.9倍となった。日立物流のそれは3901億円(同)。SGHDの企業価値は日立物流の4.5倍。これだけ差が広がると日立物流が完全にSGHDに飲み込まれることになる。しかし、SGHDは佐川急便を完全子会社にすることを選択して、日立物流との経営統合を見送った。
日立物流がSGHDと手を組んだのには、お家の事情があった。日立物流の親会社、日立製作所が非主力の上場子会社を連結決算から外す動きを見せたからだ。上場子会社を売却して“親子上場”を解消する。
ところが、日立物流とSGHDの統合交渉は破談となった。
紙おむつの原料の高吸水性樹脂で世界首位の日本触媒と三洋化成工業は10月21日、2021年4月に予定していた経営統合を中止すると発表した。両社は19年5月に経営統合を発表し、世界シェアを高める考えだった。だが、日本触媒の業績悪化を受けて統合時期を延期。19年7月以降、日本触媒は3度目の業績予想の下方修正を迫られた。
時価総額は日本触媒が2154億円に対して三洋化成は1058億円(10月22日時点)。業績が悪化したとはいえ日本触媒の時価総額が三洋化成を大きく上回る。日本触媒の筆頭株主は住友化学である。これでは統合比率が決められない。両社は統合後の新しい社名まで決めていたが、三洋化成側から経営統合の中止を申し入れた。
コロナの前と後で企業を取り巻く環境が激変した。
(文=編集部)