新型BMW「Z4」がデビューした。先代Z4の生産が終了してから約2年の沈黙があり、絶版車として葬り去られるのか、機が熟するのを待っているのかなど、さまざまな憶測が飛び交った。

だが、Z4は確かに再デビューした。ロードスター専用車として長きにわたって歴史を紡いできたBMWが、ロードスターのラインナップをやめるわけはないと誰もが確信をしていたが、約2年の歳月は決して短くなかったといえよう。

 その約2年の歳月のなかで、Z4にまつわるエポックなニュースが飛び交った。「トヨタ自動車『スープラ』と基本パッケージを共有する」との話題が駆け巡ったのだ。

 それは事実だった。トヨタが数年ぶりに復活させたスープラは、BMW製の直列6気筒エンジンを搭載し、BMWが開発したプラットフォーム(車台)に搭載する。
ボディやインテリアのデザインは、それぞれが独自で筆を振るうものだが、ハード面の基本パッケージはBMW製をともに分け合う。Z4とスープラは血を分けた「二卵性双生児」の関係なのである。

 実際に、トヨタのスープラ開発陣が頻繁にBMWの開発拠点であるミュンヘンに足を運んでいる。都合よく、スープラの開発拠点としてドイツのToyota Motorsport GmbH(TMG)がケルンにある。BMWの優れた技術とノウハウは、トヨタにとって魅力的に映ったわけだ。BMWにとっても開発費の軽減になる。
お互いにウィン-ウィンの関係を築けると判断したのである。

 ここで気になるのは、Z4とスープラは、ただバッジとルックスを安易に変えただけの兄弟車なのかという不安である。「走り味」の違いが大いに気になるところだ。

 Z4は、2シーターロードスター(オープンカー)である。クーペ(2人乗り車)のルーフを切り取っただけのオープンモデルではなく、ロードスター専用車である点が特徴だ。年収1500万円以上の裕福なアクティブ紳士をターゲットとしている。


 一方のスープラは、はっきりとした屋根を持つスポーツクーペである。想定年齢はZ4より低く、“ヤンチャ”な若者に照準を合わせているようだ。実際には、かつてのスープラを知る昭和シニアを裏ターゲットとしていると想像するが、若者のハートを掴めるか否かが成否の鍵を握る。

●DNAは同じなのに、まったくの別物

 どちらもワインディング(曲がりくねった道)を軽快にかけ抜けることが魅力のスポーツカーであることに違いないが、ターゲット層が違うのなら味付けも異なるはずだ。

 BMWはZ4をレースに投入する気配はない。「M4」や「M8」、あるいは「M2」といった大小さまざまなモータースポーツベースモデルを手にしているBMWが、ロードスターをサーキットに持ち込むとは考えづらい。
一方のトヨタは、自動車ショーの発表のその席で声高々に、スープラをモータースポーツで活用することを宣言している。ロードカーとしての味付けはともかく、育て方はまるで背を向けるように異なっているのだ。

 両者を実際に走らせたところ、違いは歴然としていた。ちなみに、スープラはプロトタイプを試した。エンジンは基本的に共通しているから、加速フィーリングは酷似している。Z4はBMW伝家の宝刀、絹のように滑らかに吹け上がる様から「シルキー6」と呼ばれる直列6気筒フィールを披露するし、スープラも同様に滑らかに高回転まで吹け上がる。


 しかし、フットワークは別物だ。どちらもコーナリングを得意とすることに違いはないが、Z4は乗り心地とハンドリングのバランスが紳士的なのに対して、スープラは鼻息荒くヤンチャに駆け回る。ドリフト御用達とも思えるほど、テールハッピーだ。コーナーではタイトロープを渡るかのようにスリリングで、ドライバーの腕が試される。限界域では特に神経質な性格をあらわにした。

 エンジンとプラットフォームが共通でも、それぞれの開発陣が変わるとここまでキャラクターが異なるものかと、あらためて育ての親と環境がクルマに与える影響の重さを感じた次第である。


BMWが開発した2名乗車のロードスターと、トヨタが手掛けたクローズドピアスポーツを俎上に載せて、購入の選択に迷う方は少ないと想像する。それでも、両者が二卵性双生児としてDNAが共通していることに思いを馳せるのは楽しい。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)