MCUとは、マーベル・コミックを原作にした、同じ世界線で繰り広げられるヒーロー映画の総称。
近年では、実力あるインディーズ映画監督の発掘にも力を入れており、タイカ・ワイティティやライアン・クーグラーといった知られざる才能を世に知らしめてきた映画シリーズでもあります。
今回は第1作から欠かさず、劇場でシリーズを追ってきた筆者が、そんなMCU作品の魅力をご紹介!
※この記事では、シリーズ第13作『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』から、『ブラックパンサー』に至るまで、フェイズ3と分類されるMCU作品 前半6作品の魅力をご紹介します。
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【フェーズ3 前半】
・『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)
・『ドクター・ストレンジ』(2016年)
・『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年)
・『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)
・『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)
・『ブラックパンサー』(2018年)
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--{『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の魅力}--
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の魅力
© 2021 Marvel
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』は、『アベンジャーズ』メンバーに内部分裂が起こるシリーズ屈指の問題作。『キャプテン・アメリカ』シリーズの第3作でありながら、新旧含めたヒーローが入り乱れるストーリーにファンが熱狂した一作です。
ストーリー
平和を守る「アベンジャーズ」の戦いは、アメリカ国内のみならず全世界に広がり、多くの人々を救ってきた。だがその反面、国境を軽々と飛び越える戦いがもたらす被害も甚大になってゆく。やがて、世界中で巻き起こるアベンジャーズを危険視する声。ついに彼らは、国際的な政府組織の管理下に置かれ、無許可での活動を禁止される。アイアンマンとして数多くの人々を救いながらも、一般市民を危険に晒したという罪の意識を持つトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)は、これに賛成。しかし、自由を重んじるキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)は、そんなトニーに失望する。両者の対立がエスカレートする中、事態は大きく動く。ウィーンの政府組織の本拠地でテロ事件が発生。その犯人としてキャプテン・アメリカのかつての親友、ウィンター・ソルジャーことバッキー・バーンズ(セバスチャン・スタン)が指名手配されたのだ。アイアンマンと彼を支持するブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)は、政府組織の指示を受けてウィンター・ソルジャーの捜索を開始。その頃、キャプテン・アメリカは、過去を共にした親友バッキーか、それとも未来を共にするアイアンマンたちか、二つの友情の間で葛藤していた。そんな彼に味方するのは、ファルコン(アンソニー・マッキー)、ホークアイ(ジェレミー・レナー)、スカーレット・ウィッチ(エリザベス・オルセン)たち。アイアンマンの傍にも、ウォーマシンこと長年の友人ローズ(ドン・チードル)、その戦いを支え続けた人工知能ジャーヴィスが進化したヴィジョン(ポール・ベタニー)がいた。さらに、復讐のためにウィンター・ソルジャーを追うブラックパンサー(チャドウィック・ボーズマン)もこれに加わる。こうして、アイアンマンとキャプテン・アメリカを中心に、アベンジャーズを二分する壮絶な戦いが幕を開ける……。
アベンジャーズ、内部分裂の危機!
本作の見どころは、何といっても、アベンジャーズのメンバーが二手に分かれて、内戦を繰り広げるショッキングな物語でしょう。
これまでの罪悪感から政府の管理下での活動を選択するトニーと、大切な親友を助けるために自由を選択するスティーブ。
『アベンジャーズ』シリーズでの戦いを通して、当初の人物像とは大きく反転した2人のヒーローが各自のチームを組織し、ぶつかり合う展開は衝撃的です。
また、彼らのチーム分けやクライマックスで明らかになる"ある真実"、物語の顛末も含めて、意外性のあるストーリーテーリングはMCU屈指のクオリティ。
そのため、シリーズを追いかけてきた人ほど、本作の驚きと切なさに胸が熱くなる一作です。
群像劇でルッソ兄弟の才能が開花
本作の監督を務めたのは、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』に続き、MCU2本目となったアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟。
インディーズ時代に手掛けた『Pieces』でスティーブン・ソダーバーグ監督に見出され、彼とジョージ・クルーニーが製作を務めた『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』でもメガホンをとった二人。
この当時からも、アンサンブル劇を得意としていた彼らが、ついに本作で才能を開花。
約10人を超えるヒーローたちの人物描写や戦いをテンポよく配置し、見事にヒーロー群像劇としての物語を構築。
この才能は、続く『アベンジャーズ』シリーズの第3、4作目にも活かされ、彼らの名前がハリウッド映画業界で不動のものとなっていきます。
スパイダーマン&ブラックパンサー エピソード0
複数のヒーローたちによる活躍を描きながら、のちに単独作が作られる2大ヒーロー、ブラックパンサーとスパイダーマンを手際よく描き切った脚本の采配にも感服させられます。
父の死をきっかけに、急遽、ブラックパンサーとして本格的に活動を始めるティ・チャラ国王と、アイアンマンのスカウトによって、密かなヒーロー活動を進展させるスパイダーマンこと、ピーター・パーカー。
サブストーリーながらも確かな存在感を残す彼らの描き方は絶妙で、直結する各シリーズの第1作を観たくなるような内容になっています。
系統を継ぐ『ファルコン&ウィンターソルジャー』
本作の物語は、そのまま『アベンジャーズ』第3作や各ヒーローの単独作品に繋がりますが、劇中のキーキャラクター・ジモや、シャロン・カーターといった一部の人物たちは、ドラマ『ファルコン&ウィンターソルジャー』で再登場します。
こちらの作品では、MCUシリーズの一つの到達点となった『アベンジャーズ/エンドゲーム』のその後を舞台に、キャプテン・アメリカの良き相棒・ファルコンとウィンターソルジャーの2人が新たな脅威に立ち向かう様子を描いています。
アベンジャーズ3作目の公開を前に”アベンジャーズ2.5”とでもいえるオールスター映画になった『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』。
『キャプテン・アメリカ』シリーズの一段落という点でもまとまった内容になっており、シリーズを追ってきた人であれば、必見の問題作です。
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--{『ドクター・ストレンジ』の魅力}--
『ドクター・ストレンジ』の魅力
© 2021 Marvel
『ドクター・ストレンジ』は、魔術師に転身した元天才外科医のヒーロー・ドクター・ストレンジを主人公にしたヒーロー映画の第1作。MCUシリーズとしては通算14作目を数え、 名優・ベネディクト・カンバーバッチが主演を務めた初のマーベル映画となりました。
ストーリー
天才脳外科医のスティーヴン・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)は容姿も知能も秀でており、プライドの高さから傲慢になっていた。しかしある日交通事故に遭い、両手の機能を失ってしまう。突如外科医としてのキャリアを絶たれた彼は、あらゆる治療を試すうちに財産を使い果たした。完治の手立てが見つからぬまま富も名声もなくしたストレンジは、最後の望みをかけ、どんな傷も治せる神秘の力を操るという指導者エンシェント・ワンを頼る。不思議な力を目の当たりにし、栄光を取り戻すため、その日から想像を絶する厳しい修業に取りかかるストレンジ。悪用すれば人類の脅威となりえるその魔術が、彼の運命を大きく変えていく。
ベネディクト・カンバーバッチによる新ヒーローの誕生
公開以前には、ドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」で人気を博し、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』や『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』の出演などで注目を集めたベネディクト・カンバーバッチさんの起用も話題になりました。
彼が演じたのは、交通事故で輝かしいキャリアを絶たれてしまった傲慢な天才外科医・スティーヴン・ストレンジ。
その人物像には、アイアンマンことトニー・スタークと共通する部分もあり、彼らが共にシャーロック・ホームズを演じていることで、当時のファンが盛り上がったというエピソードもありました。
(ロバート・ダウニー・Jrは映画『シャーロック・ホームズ』で主人公を演じています。)
霊界もの映画の代表・ スコット・デリクソン
本作のメガホンをとったのは、『エミリー・ローズ』、『フッテージ』、『NY 心霊捜査官』など、悪魔やオカルトを題材にしたホラー系統の作品を数多く手掛けてきたスコット・デリクソン監督。
原作の神秘主義的思想に共感したという監督ゆえに、劇中ではトリッキーな映像表現が目立ちます。
アストラル体と呼ばれる霊体に変身してしまう主人公やトラウマ級のトリップ表現、過去の作品群でも霊界ものを描いてきた監督ゆえに、見たことのない映像の数々に圧倒されてしまいます。
幻覚ブームに生まれた魔術師
本作の原作が連載され始めたのは、1960年代のサイケデリックブームの真っ只中。
サイケデリックとは、LSDなどのドラッグによるトリップ状態になると見える幻覚を指す言葉で、ビートルズの楽曲でも有名なサイケデリック・ロックにも影響を与えた概念です。
そのため、劇中では、サイケデリック・ロックを代表するPink Floydの「Interstellar Overdrive」が使用されるシーンや、まるでトリップ状態を再現したかのような独特な映像が登場。
また、本作の悪役で闇の魔術にこだわるカエシリウスが持つ過激思想は、ヒッピー文化の過激派代表とも言える人物・チャールズ・マンソンと通ずる部分があるとも言われています。
(近年では『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも彼が描かれていました。)
ヒッピー文化は、サイケデリックブームと避けては通ることは出来ない同時代の文化であり、連載当時のアメリカの世情を知っていると、より楽しめる作品でもあるのです。
圧倒的な映像マジック
上空へと歪んでいく街の描写や劇中のトリップシーンなど、『インセプション』や『2001年 宇宙の旅』といった名作SFにも引けを取らない圧巻の映像表現が印象的な作品でもあります。
世界中に繋がっている不思議な屋敷・サンクタム・サンクトラムや、まるでペットのように愛らしい変わった赤マントなど、独特な世界観も本作の魅力の一つで、クライマックスのバトルシーンには驚きの視覚表現も用いられています。
MCU他作品との繋がり
本作でドクターストレンジが身に着けることになる重要アイテム・アガモットの目は、シリーズを通じて登場している無限の石・インフィニティ・ストーンの一つ。
ラストには、シリーズファンには嬉しい意外な人物が登場するほか、ドクター・ストレンジの右腕として活躍したベネディクト・ウォンは、マーベルの最新作『シャン・チー/テン・リングスの伝説』への出演が発表されています。
ちなみに、主人公・スティーヴン・ストレンジの名前は、MCU第9作『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』にも登場。
劇中で実行されるインサイト計画の標的としても挙げられているため、気になった方は、こちらの作品を改めて確認しても良いのかもしれません。
マーベル映画としては初の魔術師ヒーローを描いた『ドクター・ストレンジ』。
特殊な設定でありながらも、シリーズ初心者でも鑑賞可能な単独作品でもあるため、ベネディクト・カンバーバッチさんのファンの皆様には、ぜひ、観て欲しい一作です。
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--{『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』の魅力}--
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』の魅力
© 2021 Marvel
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの第2作であり、MCU通算第15弾となった作品。前作の活躍を経て、宇宙に名を知らしめた個性豊かなメンバーたちの活躍を描きます。
ストーリー
小遣い稼ぎで仕事を引き受けた宇宙のはみ出し者チーム、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーは、なぜか黄金の惑星の艦隊から攻撃を受け、宇宙船ミラノ号は壊滅寸前に。その危機を救ったのは、ピーター(クリス・プラット)の父親を名乗る謎の男エゴ(カート・ラッセル)と、触れただけで感情を読み取れるマンティス(ポム・クレメンティエフ)だった。次第にエゴに魅了されていくピーターとチームの間には、亀裂が生じてゆく。そこへ宇宙海賊の襲撃が。さらに、銀河全体を脅かす恐るべき陰謀が交錯し……。
主人公・クイルの父・エゴ登場
本作では、前作で所在が明らかにならなかった主人公・ピーター・クイルの父・エゴが初登場。
前作で疑似家族の物語を描いた本シリーズの内容を深めるように、意外な真相が明かされる物語にも注目です。
彼を演じたのは、『遊星からの物体X』や『バックドラフト』などで知られるカート・ラッセルさん。
ジェームズ・ガン監督は初期の代表作『ニューヨーク1997』が幼少期のお気に入りだったそうで、その人柄に惹かれたことから彼の起用を決めたそうです。
トロマ映画の系譜を継ぐ男・ジェームズ・ガン
大学時代、『悪魔の毒々モンスター』などで知られるB級映画スタジオ・トロマ・エンターテインメントで『トロメオ&ジュリエット』の脚本を執筆し、カルト的な評価を受けたジェームズ・ガン監督。
それゆえ、監督の作品には、一見、気持ちが悪いものの愛着が湧いてしまうクリーチャーや、強烈なエログロ描写、際どい下ネタなどが登場します。
本作は、全年齢対象のエンターテインメント映画ということで、そのカラーを抑えてはいるものの、作家性は大爆発。
劇中に登場するエゴの造形物や絶妙な婉曲表現で大人の事情をかわした下ネタ表現など、監督の作品を知っていれば知っているほど、見えてくるクセの強い部分も……。
このような過激な一面から、自身の過去ツイートが掘り出された際には、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』第3弾を降板せざるをえなくなったジェームズ・ガン監督ですが、現在は復帰。2023年には公開が予定されています。
さらにパワーアップした楽曲の数々
印象的なオープニングクレジットで流れるElectric Light Orchestra「Mr. Blue Sky」など、本作では約14曲に及ぶ70年代前後の名曲がセレクト。
物語を彩る楽曲の数々には、前作以上にワクワクが止まりません。
そして、アベンジャーズへ……
本作の物語を経て、ついに、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々はアベンジャーズに合流することになります。
また、本作で、注目すべき点は、スタン・リーさんの役柄でしょう。
スタン・リーさんは、原作漫画で数々のヒーローを生み出してきたマーベルの生みの親とも言うべき存在で、過去のマーベル作品にもカメオ出演を果たしてきた人物。
しかし、本作の役柄は特殊で、ある意味、これまでの登場シーンが一つに繋がるような裏設定が明かされます。
第1作を経て、一躍、人気キャラクターとなった ならず者集団によるSF映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』。
ジェームズ・ガン色増し増しの内容のみならず、ホロリと感動する意外な展開にも注目してほしい一作です。
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--{『スパイダーマン:ホームカミング』の魅力}--
『スパイダーマン:ホームカミング』の魅力
『スパイダーマン:ホームカミング』は、MCUシリーズとしては初となった『スパイダーマン』シリーズの1作目。過去に2度ハリウッドで映画化された同名作品とは異なり、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に登場した新スパイダーマンが活躍し、アイアンマンも登場する一作です。
ストーリー
ニューヨーク。15歳の高校生ピーター・パーカー(トム・ホランド)は、スパイダーマンとして部活のノリで街を救い、ヒーローを気取っていた。そんなピーターを真のヒーローに導こうとするアイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)。だがある日、巨大な翼を持つ空飛ぶ怪物が街に出現。退治に乗り出そうとしたピーターは、スタークから「アベンジャーズに任せておけ」と制止される。子ども扱いが我慢できないピーターは、スタークの忠告を振り切って戦おうとするが……。
湿っぽさとキラキラ系の間をいく新たなスパイダーマン像の誕生
これまで、本作を含め、3度に及ぶハリウッドの実写映画シリーズが製作された『スパイダーマン』。
過去作を振りかえると、その主人公の描き方は多種多様です。
『スパイダーマン』シリーズ(2002年~)は、少し陰湿な描写が印象的。
自己との葛藤や、親友・恋人への嫉妬心が強調されたこのシリーズでは主人公のダークな側面が浮かび上がっていました。
一方、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(2012年~)は、キラキラした主人公の恋愛模様が印象に残ります。
輝かしい青春を謳歌し、恋に人助けに忙しい好青年として描かれた主人公は、前シリーズで描かれた内向的な主人公とは、全くの別人。
それを踏まえて、本作を考えると、ちょうど真ん中をいくような主人公の設定が特徴的です。
内向的ではなく、友人関係も良好だけれど、好きな子には臆病な理系男子のピーター・パーカー。
彼がスパイダーマンになった経緯を思い切って割愛した変更も斬新で、アベンジャーズの一員として、立ち位置を調整した新たなスパイダーマン像が確立されていました。
80年代映画へのオマージュを盛り込んだジョン・ワッツ
本作のメガホンをとったのは高校時代から映画を制作し、イーライ・ロス監督に認められ、ハリウッド映画業界にのし上がったジョン・ワッツ監督です。
『クラウン』、『COP CAR コップ・カー』など、本作とは関わりが遠いスリラー・ホラー映画を手掛けてきた監督ですが、今回の製作にあたっては、さまざまな80年代映画をリサーチ。
そのため、劇中では『ブレックファストクラブ』や『フェリスはある朝突然に』といったジョン・ヒューズ作品のオマージュが登場するほか、主人公の演技指導として、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマイケル・J・フォックスや『卒業白書』のトム・クルーズを参考にしたそうです。
アイアンマンの弟子・スパイダーマン
本作では、初のMCU版スパイダーマンということで、アイアンマンの弟子・見習いヒーローという側面が強調されています。
アイアンマンがスーツを提供している設定があるほか、ピンチの時には、彼が助っ人として登場するなど、全体的に頼りない主人公。
しかし、それらの設定は、本シリーズの続編となる『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』を鑑賞すると、思わぬ意味合いを持つことになります。
名優・マイケル・キートンによる悪役・ヴァルチャー
本作の悪役・ヴァルチャーを担当したのが、マイケル・キートンさん。
過去には、DCコミックス原作の『バットマン』で主役のヒーローを演じ、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』では落ちぶれた元ヒーロー役者を演じた彼。
それゆえ、空を飛ぶ悪役という今回の配役は、まさしく、彼のハマリ役と言えるでしょう。
ちなみに、2022年に公開予定の『ザ・フラッシュ(原題)』では、バットマンとして復帰することが決定。
また、スパイダーマンと世界観が繋がると噂される『モービウス』でも登場が決定し、同タイミングで両会社の作品に出演する数少ない俳優になるかもしれません。
『アイアンマン』からの影響
本作は、第3作目で一旦の完結を迎え、『アベンジャーズ』シリーズでの活躍が主となった『アイアンマン』が、珍しくクローズアップされた作品と言えます。
アイアンマンことトニーのお抱え運転手・ハッピー・ホーガンが再登場するほか、ラストには意外な登場人物の出演も……。
また、本作のストーリーの根幹にアイアンマンことトニーの存在が深く関わっており、ある意味では『アイアンマン3.5』とも言うべき、アフターストーリーとなっています。
MCUの中で生まれ変わった新たな人気ヒーロー・スパイダーマンの活躍を描いた『スパイダーマン:ホームカミング』。
過去のスパイダーマン映画と比べると、80年代のティーン青春映画としての側面が強く、若干、物足りなさも感じるかもしれない本作ですが、シリーズ作品としては欠かすことの出来ない一作です。
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--{『マイティ・ソー バトルロイヤル』の魅力}--
『マイティ・ソー バトルロイヤル』の魅力
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MCU第17作かつ『マイティ・ソー』シリーズ第3作となった『マイティ・ソー バトルロイヤル』は、アカデミー賞ノミネート監督・タイカ・ワイティティ監督の出世作ともいえるマーベル映画。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』には登場しなかったソーとハルクの2大ヒーローが未知の惑星で大波乱を巻き起こします。
ストーリー
アベンジャーズの一員として、地球を守るために戦ってきたソー(クリス・ヘムズワース)の前に、邪悪な敵・ヘラ(ケイト・ブランシェット)が現れる。ソーの最強武器ムジョルニアを簡単に破壊するヘラの圧倒的なパワーによって、宇宙の果てまで弾き飛ばされるソー。遠く離れた星で囚われの身となったソーは、脱出するため、絶対王者として君臨するチャンピオンとの1対1の命がけのバトルに挑むことになる。だが、彼の前に姿を現したチャンピオンは、かつて共に闘ったハルクだった。果たして、ソーの運命は……?
最強最悪の破壊神・ヘラ登場!
本作の注目ポイントは、最強の女性悪役・ヘラが登場することでしょう。
彼女を演じたのは、アカデミー主演女優賞の獲得経験もある実力派女優・ケイト・ブランシェットさん。
意外な過去を持ち、単なる悪役では終わらない魅力的な役柄を圧倒的な表現力で実現しています。
コメディとシリアスの融合・タイカ・ワイティティ
本作の監督は『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』などの作品で、低予算映画時代からコメディ映画の実力を認められていたタイカ・ワイティティさん。
しかし、本作を鑑賞しても分かる通り、監督の真髄はコメディとシリアス展開を混ぜ込んでいく独特のバランス感覚と言えるでしょう。
その手腕は続く監督作『ジョジョ・ラビット』で更に洗練され、第92回アカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネート、結果、アカデミー脚色賞を受賞する結果を達成することになりました。
ちなみに、監督は、本作の公開を心待ちにしていたファンに向けて、コミコンイベント(アメコミ映画の最新情報なども発信されるポップカルチャーの祭典)にて、ドキュメンタリータッチの短編作品『チーム・ソー』を特別上映。
シュールな世界観が受けたことから、全3作品が制作され、それらはソフト版での特典などとして収録されています。
「ラグナロク」の意味とは?
本作の英語版タイトル『Thor: Ragnarok』において、サブタイトルとなった「ラグナロク」とは、北欧神話における終末を指し示した言葉。
果たして、この言葉が、どのような意味を持つのか。
本作の主題歌として使用されたレッド・ツェッペリン「移民の歌」の歌詞がどのような意図を持っているのか。
それらを想像しつつ、クライマックスに待ち受ける衝撃の展開を楽しんでほしいです。
アベンジャーズへ直結するラスト
本作では『ドクター・ストレンジ』のラストシーンが本編に繋がっているほか、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』以降、出番のなかったソーとハルクが『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の間に何をしていたのかが明かされます。
また、本作のラストシーンは、そのまま、アベンジャーズシリーズの第3作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』へと繋がっていく構成。そのため、本作を観た後は、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が観たくて仕方がなくなってしまいます!
『マイティ・ソー』シリーズの第3作にして、過去作とは大きく異なる作風で描かれた『マイティ・ソー バトルロイヤル』。
MCU作品を観ていると嬉しい小ネタの数々や、主人公たちに衝撃的な運命が待ち受ける物語は、かなりファン向けな内容ではありますが、それも含めて、熱心なファンなら満足度が高いであろう一作です。
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--{『ブラックパンサー』の魅力}--
『ブラックパンサー』の魅力
© 2021 Marvel
『ブラックパンサー』は、MCUの第18作初の黒人ヒーローによるマーベル作品。ヒーロー映画にブラックカルチャーを取り入れた斬新な物語が高く評価され、スーパーヒーロー映画としては初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされる快挙を成し遂げました。
ストーリー
アフリカの秘境にある超文明国家ワカンダ。国王ティ・チャカが亡くなり、その息子ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)が新国王に即位、国の守護者ブラックパンサーとなる。同じ頃、ワカンダを狙う謎の男エリック・キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)は、武器商人ユリシーズ・クロウ(アンディ・サーキス)と手を組み、行動を開始。大英博物館からすべてを破壊するパワーを秘めた希少鉱石ヴィブラニウム製の武器を盗んだ2人は、ワカンダへの潜入を目論むが……。
現実世界でもヒーローだったチャドウィック・ボーズマン
本作の主人公・ティ・チャカ/ブラックパンサーを演じたのは、チャドウィック・ボーズマンさん。
劇中での名演から、一躍、ブラックカルチャーを代表するアイコン的存在になった彼ですが、その裏側には思わぬ事実がありました。
実は、ブラックパンサーとして初登場した『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の時点で、大腸癌を発症。
「自分ごとで世間を騒がせてはいけない」という母の教えを貫き通した彼は、シリーズの一区切りとなる『アベンジャーズ/エンドゲーム』までブラックパンサー役を全うし、2020年、43歳の若さでこの世を去ったのです。
突然の報道は全世界のファンに衝撃を与え、多くの人々が悲しみに暮れましたが、彼の勇姿が私たちの頭から消えることはありません。
惜しくも受賞は逃したものの、第93回アカデミー賞では『マ・レイニーのブラックボトム』で主演男優賞にノミネートされ、その生きざまは多くの人々に夢を与えたといえるでしょう。
ブラックカルチャー映画の風雲児・ライアン・クーグラー
本作のメガホンをとったのは、ブラックカルチャー映画の風雲児・ライアン・クーグラー監督。
黒人監督という立場から、自身に関する強い問題意識を持ち、黒人の銃殺事件を基にした『フルートベール駅で』や、ロッキーシリーズの続編で黒人青年の挑戦を描いた『クリード チャンプを継ぐ男』を描くなど、独自のキャリアを積んできた実力派監督の一人です。
彼の作品でよく見られるテーマが「世代間の違い」や「父と子の関係性」とも言われており、本作でも、その傾向は強く見られます。
主人公・ティ・チャラと父・ティ・チャカ、本作の悪役となるキルモンガーと父・ウンジャダカ。
まるで鏡のように対比できる彼らの運命には、アメリカにおける黒人問題の歴史を想起させられるのです。
ブラックカルチャーからの引用
登場人物が住む部屋の内装にブラックカルチャーの影響が見てとれるほか、劇中では、さまざまな部分で過去のアメリカ社会におけるアフリカ系アメリカ人の歴史が想起させられます。
巨大な隕石の力で高度なテクノロジーが発達した王国・ワカンダには、アース・ウインド&ファイアーのMVなどに代表されるアフロフューチャーリズム。
(精神的な故郷を失った黒人が自らのルーツを宇宙に求めたユートピア的な思想。)
また、人々の共存を願う穏健派の主人公・ティ・チャラと、急進的な行動を求める過激派の悪役・キルモンガーの2人の対立には、公民権運動や人種差別撤廃運動の指導者となったキング牧師とマルコムXの関係が反映されているのです。
娯楽映画として純粋に楽しめる作品でありながら、これらの文脈を知っていると、より楽しみ方が広がるのはまさしくMCU作品らしい魅力といえるでしょう。
007×ライオンキング
公開当時は『007』シリーズや『ライオンキング』とも比較されて語られていた本作。
確かに、その部分に着目すると両作と『ブラックパンサー』にはさまざまな類似点が見受けられます。
007に関しては、過去のインタビューで監督が「本作をMCU版のジェームズ・ボンドにする」という趣旨の発言をしていたことからも影響は明白。
世界的なスパイ活動を行うワカンダの設定はもちろん、主人公の相棒的役割で最新兵器を提供する妹・シュリの存在は、まさしく、007の相棒・Qに通ずるもの。
また、劇中で、主人公と仲間たちがカジノに潜入するシーンからは、ダニエル・クレイグ版ボンドを彷彿とさせられるでしょう。
一方、『ライオンキング』に関しては、王座を賭けた血縁通しの争い、アフリカの雄大な自然を切り取った映像美が類似点と言えるでしょう。
実際に本作の製作総指揮を担当した人物は『ゴッドファーザー』を参考にしたと言及しているため、直接的な影響は受けていないかもしれませんが、部族の調和を描いた家族ドラマとしては通ずるものが多いのかもしれません。
予測不可能な続編
主演俳優の突然の逝去に続編製作が止まるかと思われた本シリーズ。
しかし、続編の脚本はすでに完成し、現段階でキャスト陣の続投も決定しているとのこと。
果たして、作品を象徴する大きな存在を失ってしまったシリーズが、どのような展開を迎え、何を私たちに伝えようとしているのか。
2022年に公開が予定されているという最新作にも期待が高まります。
人気映画シリーズMCUの第18作となり、世界的な大ブームを巻き起こした『ブラックパンサー』。
単なる娯楽作品では終わらない社会的なメッセージや、批評性も含めて、ヒーロー映画やマーベル作品を観たことのない人にもオススメしたい一作でした。
『ブラックパンサー』はDisney+ (ディズニープラス)で配信中です!
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(文:大矢哲紀)