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Text by 山元翔一
Text by 村尾泰郎
Text by 平木希奈



2021年、春。突如として現れ、鮮烈な印象を残したA_o。

その正体は、ROTH BART BARONの三船雅也と、当時まだ解散前のBiSHのメンバーであったアイナ・ジ・エンドだということが明らかとなった。2021年、夏のことだった。



嵐のように去っていったA_oと、その2人が残した唯一の歌“BLUE SOULS”。その物語にはまだ続きがあった。アイナ・ジ・エンドが岩井俊二の新作『キリエのうた』の主演に起用されたのだ。きっかけとなったのは、ROTH BART BARONのライブだった。

A_oとして歌うアイナ・ジ・エンドを岩井俊二が目撃したのだ。



今回CINRAでは、三船雅也と岩井俊二の対談を実施し、A_oから『キリエのうた』へ至る物語を紐解いた。そしてその先でふたりに、お互いの創作の奥底にあるものについて語り合ってもらった。



音楽の正体は劇薬——ROTH BART BARON×岩井俊二対談。A_oから『キリエのうた』へ至る「歌」と映画の話

左から:岩井俊二、三船雅也(ROTH BART BARON)



ー岩井監督はROTH BART BARON(以下、ロット)の音楽とどんなふうに出会ったのでしょうか。



岩井:うちで働いていたスタッフが三船さんと学校の同級生で、ロットの曲をいろいろ聴かせてもらったんです。自分が好きな世界だったので、すぐに気に入りました。



僕はムーンライダーズが好きなんですけど、メンバーの鈴木博文さんがMio Fouというユニットをやっていて、ちょっとロットとテイストが似ている気もして。ブラスセクションが入っていたり、柔らかないい音が鳴ってるところとかもいいなと思いました。初めて三船さんと会ったのはライブのあとだったかな。



三船:そうでしたね。いろんなアーティストとコラボレーションする『HOWL SESSION』っていうロットのライブ企画でSalyuさんと一緒にやったときに岩井さんが来てくれたんです。



音楽の正体は劇薬——ROTH BART BARON×岩井俊二対談。A_oから『キリエのうた』へ至る「歌」と映画の話

ROTH BART BARON(ロット バルト バロン)
シンガーソングライターの三船雅也を中心とする日本のフォークロックバンド。

2023年より日本・東京とドイツ・ベルリンの2拠点で活動している。2021年には、アイナ・ジ・エンドとの「A_o」による“BLUE SOULS”がポカリスエットのCMをきっかけに話題に。2022年は、『ベルリン国際映画祭』で「アムネスティ国際映画賞」を受賞した映画『マイスモールランド』の劇伴音楽と主題歌を手がけた。2023年10月には8枚目のオリジナルアルバムを発表し、同年11月より全13公演の全国ツアー『ROTH BART BARON TOUR 2023-2024「8」』を開催する。



三船:ライブ後に楽屋で初めてお会いしたんですけど、岩井さんは最近手に入れたカメラを持って来ていて、音楽の話じゃなく、そのカメラの話で盛り上がりました(笑)。岩井さんが撮った写真を見せてもらったりして。



ー三船さんも写真を撮りますもんね。三船さんはどんなふうに岩井監督の映画と出会ったのですか。



三船:最初に岩井さんの映画を見たのは小学校のころかな。母が映画好きでケーブルテレビに加入してて、家で『スワロウテイル』を見たんですけど、「うわあ、大人の世界を見てしまった」とすごく衝撃を受けました。



そのあと、岩井さんの作品をいろいろ見ていくんですけど、美術学校に通っていたとき、友達とつながるときの共通項に岩井さんの作品があって。そのときの友人の一人が、さっき話に出てきた岩井さんの事務所で働いてる子だったりするんですよね。



ー振り返ってみて、『スワロウテイル』のどんなところに惹かれたんだと思います?



三船:「円都」(※)という街はリアルだけどファンタジーも入っていて、大人な世界だけど子どもにもアクセスしやすいところがあったんです。この世のどこにもないようで、どこかにあるかもしれない場所。子どものころって現実と空想が明確に分かれていないところがあるじゃないですか。だから、受け入れやすかったのかもしれないですね。



ーROTH BART BARONの音楽もそういうところはありま すね。現実と幻想が交差した不思議な場所というか。



三船:そうですね。たしかにそんなところはあります。



岩井:なんか架空の街っぽいよね。北欧っぽい石畳があって、革命前夜みたいな空気が漂っている。



ー監督の最新作『キリエのうた』の主演にはアイナ・ジ・エンドさんが起用されていますが、そのきっかけはROTH BART BARONのライブ 配信で、A_oのパフォーマンスを見たことだったと伺っています。



岩井:それまでにアイナさんのことは知ってはいたんです。ポカリスエットのCMを見て「いい曲だな」と思っていたし、『ミュージックステーション』(テレビ朝日)でちらっとお見かけしたこともありました。



でも、しっかり彼女を見たのがロットのライブだったんです。彼女の表情や指先の細かい動きを見ているうちに、そのとき脚本を書いていたキリエのイメージにぴったりだと思ったんですよね。



ー三船さんは『キリエのうた』を観てどんな感想を持ちましたか?



三船:うーん、なんか客観的に見るのが難しかったですね 。



岩井:アイナちゃんのことが心配だったんじゃない?



三船:今年の春にフェスでアイナちゃんに久しぶりに会ったんですけど、ガラッと様子が変わってて、表現力が格段に上がっていたんですよ。会ってないあいだもマメに連絡は取っていて「いま、(『キリエのうた』の)撮影でギターを練習してるんです」とか話は聞いていたんですけど、びっくりしました。



1~2年のあいだに何があったんだろう? って思って、でも映画を観て納得しました。主演を一本やったからなんだって。そうじゃないと、あんな表現力は出せない。それにしても、こんなに変わるのか! って驚きました。



ー監督は撮影を通じてアイナさんの変化をどう感じていましたか?



岩井:撮影の途中で、「自分はこの映画の主役なんだ」って気づいたポイントがあったみたいで。そういうことをちゃんと自分で口にするようになっていったんです。



最初のころは恐る恐るでしたね。広瀬すずちゃんについていくのがやっと、みたいな。でもつながった映像を見たりするうちに、自覚が湧いてきたような雰囲気はありました。



ー今回、アイナさんは主役を演じるだけじゃなく、歌もつくらなきゃいけない大変な状況でした。キリエのオリジナルソングに関しては、監督から何かリクエストはあったのでしょうか。



岩井:自由に書いてもらいました。アイナさんの『THE END』(2021年)というアルバムを聴いたときに衝撃を受けて、ぜひ書いてほしいと思ってはいたんですけど、主役だし、あまり負担はかけられないと思ってこちらからは言い出せなかった。



そしたら、本人から「できれば曲もつくりたい」と言ってきてくれて。デモテープを聴くと、やっぱりすごいんですよ、独創的で。デモの段階で、彼女の頭のなかで完成した曲が鳴っているのがわかりました。



三船:アイナちゃんは感受性の塊みたいな人だから、アイデアがいっぱい浮かんでくるんだと思います。これまでは BiSHとかA_oとかグループの一部だったので、「アイナ・ジ・エンド」として何かをアウトプットするようになったのは本当に最近のことだったと思うんですよね。ようやく自分なりの表現を意識するようになったときに、映画という大きな流れに乗って曲として表現できるようになったんじゃないかと思います。



ー岩井監督の作品は音楽が重要な役割を果たしています。『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』、そして、『キリエのうた』に関しては女性シンガーという共通点もありますが、岩井作品で流れる音楽について三船さんはどんなふうに感じています?



三船:たしかに岩井さんの作品は音楽がキーになっていますよね。映画音楽が必要なときって、たいていは映像が弱いシーンだったりするじゃないですか。でも、岩井さんの作品は逆で、音楽ありきで絵ができている気がする。この3作に関しては、女性シンガーがファム・ファタールというか、物語の象徴的な存在になっているんじゃないでしょうか。



—監督は音楽の使い方で意識されていることはありますか?



岩井:音楽の役割に関してはあまり自覚したことがないんですけど、音楽がない映画もずっと音楽は鳴っているんですよ。実際に音楽が鳴っていなくても、そこに通底音みたいなものがないと映画のテンションが下がってしまう。



オーケストラも、静かだな、と思っても演奏は続いているじゃないですか。自分の作品も、映画がはじまって終わるまで休みなく演奏が続いている。効果音も含めて、何かしら音が鳴っているっていう感覚なんです。



ーたしかに岩井監督の映画はオーケストラを聴いているような感じがしますね。映画の緩急や構成に音楽的なものを感じます。そして、そこから登場人物の息遣いが伝わってくる。特に青春映画の場合、10代のみずみずしい感覚が伝わってきますが、それは監督のなかに10代のときの感覚や経験がいまも鮮烈に記憶されているからなのではないか、と思うのですがいかがでしょうか。



岩井:そうですね。18歳のころに映像を撮りはじめたんですけど、それ以降は「モノをつくる人生」になったんですね。何かを見聞きしたり、体験したりすると、「これは映画に使えるぞ」と思ってしまう。そう感じる以前の18年間、無垢な時代に体験したことは素材の宝庫というか、重要な財産になっていますね。



音楽の正体は劇薬——ROTH BART BARON×岩井俊二対談。A_oから『キリエのうた』へ至る「歌」と映画の話

岩井俊二(いわい しゅんじ)
1988年よりドラマやMV、CMなど多方面の映像世界で活動を開始。1993年『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』がテレビ作品にも関わらず『日本映画監督協会新人賞』を受賞。初の長編映画『Love Letter』は、アジア各国で熱狂的なファンを獲得。2012年には、東日本大震災復興支援ソング『花は咲く』の作詞を担当するなど活動は多彩。その後も、日・米・カナダ合作映画『ヴァンパイア』、長編アニメーション『花とアリス殺人事件』、中国映画『チィファの手紙』など、国内外を問わず表現の場を拡げている。最新作 『キリエのうた』が現在公開中。



ーROTH BART BARONの歌も三船さんの少年時代の感性が息づいているように思います。新作『8』のテーマは「ジュブナイル」と自身の少年性に向き合った作品になっていますが、なぜこういうテーマにしたのでしょうか。



三船:去年、ベルリンに引っ越したんですけど、ベルリンで暮らしはじめて言葉が通じなくなってしまったんです。住む場所を変えたら、日本で培ってきた経験がリセットされた。



スーパーで気軽に買い物ができなくなってしまうし、駅で切符の買い方もわからない。「人生イチからやり直しだな」と思ったら、子どものころの感覚が呼び起こされたんですよね。子どものころは何かひとつできるようになると「できた!」という感動があった。



パンデミック3部作(※)では日本に向き合って作品をつくったので、今度は自分に向き合ってつくってみたらおもしろいんじゃないかと思ったんです。



岩井:三船さんのそういう体験は、僕も20代のころにしたことがありました。当時、東京少年というグループのミュージックビデオを担当していたんですけど、突然、解散しちゃったんですよね。それでレコード会社から「解散ビデオをつくってくれ」って言われて、どうしようかと考えた結果、ベルリンで撮影することにしたんです。



僕は撮影の1か月前にベルリンに入って、一人でベルリンを徘徊しながらビデオの原案を考えたんですけど、そのとき三船さんと同じような体験をしたんです。全部リセットされるような感覚を。



三船:そうなんですか! 僕はベルリンに引っ越したとき、ギターを1本だけ持って行ったんです。それでベルリンの家の近くの公園で、天気がいい日にギターをポロポロ弾きながら新作の曲をつくりました。そういうことをすると日本では変人扱いだけど、向こうでは誰も気にしない。



犬の散歩をしているお姉さんが「いいね!」って声をかけてくれたり、現地のミュージシャンが話しかけてきて友達になったり。こんなふうに穏やかな気持ちでギターを弾けるなんて、ミュージシャンとしてデビューしてから一度もなかった。



音楽の正体は劇薬——ROTH BART BARON×岩井俊二対談。A_oから『キリエのうた』へ至る「歌」と映画の話



三船:そのとき、なんだか10代のころに戻った気持ちになったんです。ギターをはじめたときには、これがいいことなのか悪いのか全然わからなくて。でも、何もわからないっていうのは幸せなことなのかもな、って思ったんですよね。



ー自分がリセットされる、というのは、社会との関係がリセットされるということでもありますよね。岩井監督の作品もROTH BART BARONの音楽も、社会と関係をうまく結べない人々を、あるいは社会からはみ出してしまった人を描くことが多い気がします。そういった人たちに共感するところがあるのでしょうか。



岩井:自分の場合、そういう人たちに憧れているところがあるんです。以前、高齢者の最期を描いたルポルタージュを読んだんです。



家庭で暮らしている人、施設で暮らしている人、いろいろ紹介されていたけど、自分にはホームレスが一番いいと思えたんですよ。「最近、岩井を見ないな」ってみんなが探したら、道端で死んで無縁仏になってた、みたいな最期がいい気がして。



ーそういえば昔、岩井さんがムーンライダーズ“ニットキャップマン”(※)のミュージックビデオとしてつくった短編映画『毛ぼうし』は、そんな内容でしたね。



岩井:そうそう(笑)。ホームレスに憧れる、なんて言うと不謹慎だと言われるかもしれないけど、僕は真剣に憧れているんです。「この星が自分の家」って言えるような生き方に僕は自由を感じる。僕は憧れているものしか描きませんからね。「気の毒だな」という気持ちで映画はつくれない。



音楽の正体は劇薬——ROTH BART BARON×岩井俊二対談。A_oから『キリエのうた』へ至る「歌」と映画の話



ーキリエの人生も見方によっては不幸ですが、歌のためだけに生きている自由な人生だとも言えますよね。



岩井:そうなんですよ。たとえば雨が降ってて、窓から外を見ているとするじゃないですか。そのうち「長いこと雨に打たれずに生きてるな」と思って、なんだかもったいない気がしてくる。ちょっと雨に打たれなきゃなって思うんですよね。でも最近の世の中って、「雨に濡れなくて当たり前」みたいな風潮が強まってきてる。



三船:そうですよね。濡れなくて済むようになるぶん、何かが失われていくような気がする。岩井さんの映画に出てくる人々にとっての「いてもいい場所」って、いまの世界にはなくなってしまったかもしれないですね。



今回、僕はベルリンの公園でつくった曲を、そこで出会った人たちと一緒にアルバムにしました。もちろん、ロットのメンバーも参加していますけど、その成り立ちを考えるとキリエのことが他人ごとに思えないんですよね。クライマックスの公園でのライブシーンの編成も含めて。



岩井:ああ、なるほど(笑)。



三船:岩井さんのように僕の憧れが曲に反映されているとしたら、それは「世界が変わることへの憧れ」かもしれませんね。



岩井:ロットの歌どおりに世界が変わるとしたら、相当大変なことになると思いますよ。それを映画で描くだけでも、とんでもないものになる。



三船:えっ、そうですか?



岩井:今回、映画を撮って思い知ったことがあって。音楽って耳ざわりがよくて美味しいお酒みたいなところがあるけど、その正体は劇薬なんです。だから、『キリエのうた』のように音楽から紐解かれていく物語を映像化すると、ちょっとやそっとじゃ済まない。



今回の物語も最初はコメディタッチの短編だったんですけど、アイナちゃんの歌が共鳴するようなステージをつくろうと思っているうちにスケールの大きな話になったし、ついに震災に向き合うことになったんです。ロットの歌はかなりの劇薬だから、映画に使ったら大変なことになると思う。戦争や革命の匂いがしているし。



いつの時代も、革命家はピュアな気持ちで「時代を変えたい」とメッセージを送りますよね。でも、彼らは殺されて、彼らの言葉を受け取った別の人間が悪用して戦争を起こしたりする。最初に「この社会はおかしい」「もっとよい世界があるはず」という革命的なイメージを生み出すのは、音楽や文学がいちばん得意とするところだと思いますね。



ー音楽といえば、映画には鈴木慶一さん、安藤裕子さん、大塚愛さん、七尾旅人さんなど、いろんなミュージシャンがキャストとして出演されていました。七尾さんは歌も歌っていましたが、七尾さんの歌もかなりの劇薬ですよね。



岩井:七尾さんの歌はやばかったですね。動物園から動物が逃げ出す歌なんですけど、七尾さんが歌いはじめたら、撮影していた天王寺動物園の猿たちが突然吠え出して怖くなりました(笑)。



―先ほど、アイナさんの歌が物語を変えていった、という話が出ましたが、そういうことはこれまでにもあったのでしょうか?



岩井:『スワロウテイル』も『リリイ・シュシュのすべて』も歌を入れたことで、物語が大きく変わっていきました。そのことを今回思い出したんです。



『リリイ』が一番いい例で、一度脚本を書き上げたんですけど、何か大きなピースが足りないと思って撮影に入れなかった。小林(武史)さんに曲はたくさん書いてもらっていたんですけど、その曲に見合う物語をつくり切れていないと思ったんですよね。小林さんにそのことを説明すると、「曲はできているのにね」って小林さんが1曲ずつ聴かせるんですよ。それがもう、つらくて(笑)。



三船:うわー、大変だ。



―小林さんとしては諦められないですよね。



岩井:そこで小林さんと「何とかできないか」って相談して、まずインターネット小説と音楽のコラボみたいな感じで発表したんです。



そしたら、「リリイのファンだ」と自称する一般の人たちから、いっぱいリリイに対する言葉が届くようになった。それを読んでいるうちに、リリイ像が自分のなかで固まっていき、歌に見合う物語が 生まれて、ようやく映画に到達することができたんです。



ー岩井さんが『リリイ・シュシュのすべて』をつくられたのは30代後半で、いまの三船さんの年齢とも近い。『スワロウテイル』の成功で大きな注目を集めていた時期でしたが、当時はどんな気持ちで仕事に向き合っていたのでしょうか。



岩井:どうだったのかなあ。自分を俯瞰で眺める余裕はなかった気がしますね。とにかく、目の前の仕事をこなしていくしかなかった。夢のなかでも映画の編集をしてうなされるような日々でした。でもそうやって無理やりでも作品をつくり続けていくと、思いがけないものができたりもするんですよね。



たとえば『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(1995年)や『花とアリス』(2004年)は忙しくてオファーを何度も断ったんですけど、どうしてもやらなくてはいけなくなってスケジュールの合間にねじ込んでつくったんです。でも、追い詰められたときって、ギュッと思いがけないものが出てくるんですよね(笑)。だからいまでは全部やってよかったなと思ってます。



三船:じつは僕も『キリエのうた』に出ないかって誘っていただいたんです。でも、ちょうど『HOWL』をつくっているときで、生半可な気持ちでは受けられない、と思って泣く泣く諦めたんです。それと岩井さんの作品に参加するなら音楽を作ることでも関わりたかったし。



岩井:でも一方で、やりたいと思っていた作品ができなかったからこそ生まれた作品もありますからね。ずっと『ラストレター』(2020年)の続編をつくりたいと思って、その企画が通らなくてつくりはじめたのが『キリエのうた』なんです。『ラストレター』の続編の企画が通っていたら『キリエのうた』はできていなかった。



そういうことって、自分でコントロールできないじゃないですか。一生懸命、創作活動を続けていると、どこかで作品が生まれる。でも、それがいつ、どんなタイミングで生まれるのかわからないのがおもしろいというか。だから日々、いい作品がつくれるように精進し続けるのが大事なのかもしれないですね。



三船:作品は生まれてきてしまうものですよね。今回はご一緒できませんでしたが、僕らがアイナちゃんと共演したことから縁がつながって『キリエのうた』ができたと思うとすごく嬉しいですね。



岩井さんが映画を通じて僕に何かを投げかけてくれたから、僕はそれを受け取って音楽をつくることができた。だから、僕の音楽には岩井さんの遺伝子が入っているんです。その音楽を通じて岩井さんに恩返しすることができた。



岩井:僕もロットの曲を聴いて、そこに浮かんでくる街の風景にインスパイアされてるしね。



三船:嬉しいです。そうやって、いろんな影響が混ざり合って新しい作品がつくられていくんでしょうね。これからもどんどん作品を、劇薬をつくり続けていきたいと思います。



音楽の正体は劇薬——ROTH BART BARON×岩井俊二対談。A_oから『キリエのうた』へ至る「歌」と映画の話