愛用する腕時計を手がかりに"人生の時"を語ってもらうインタビュー連載『夢を刻む、芸人の時計』。テレビでおなじみのあの芸人は、どんな若手時代を過ごし、ブレイクの瞬間を迎え、どうやって未来を刻んでいくのだろうか? そのストーリーに迫る。


本稿で話を聞いたのは、お笑い芸人のケンドーコバヤシさん。1972年7月4日生まれ、大阪府大阪市出身で、NSC大阪校11期生。

学生時代から「お笑いエリート」、それでも「芸人エリート」ではなかった

――初めて自分で買った時計を覚えていますか?

高校生のときに買ったG-SHOCKですね。はるか昔のことなので忘れてますが、まぁその頃から時計は好きだったんでしょうね。アルバイト代で買える1万円くらいのモデルだと思います。

その後、お笑い芸人を目指してたNSC養成所時代には、カラータイマーみたいな感じで、ワーンワーン、ってアラーム音が鳴る謎の時計を買いました。お笑いの舞台でもボケの1つとして使ってましたね。そのうち壊れちゃって、今はもう手元にもないんですがカ

――高校生のときは、どんな生徒でしたか?

ごくごく普通のラグビー部の生徒でしたね。学校には内緒でバイクで行けるところまで行って、そこから歩いて登校してるような高校生です。家にいるよりバイクで走ってる方が好きだったんで、あまりお笑い番組も見てなかったかな。ただ深夜ラジオは好きで、ダウンタウンさんの番組はめっちゃ面白くて聞いてました。

実はオレ、小学校、中学校、高校、バイト先と、各場所で友だちに「オレと一緒によしもと行かへん?」って誘われてるんですよ。
だから子どもの頃から「オレってそういう人やねんな」って思いはありました。でもお笑い番組を見ていなかったんで、養成所に入ったばかりの頃は、自分の知識のなさにビビりました。周りはお笑いオタクばっかだったんで。焦りはなかったんですが、「やっぱ皆んなちゃんと勉強してから来てんねんな」とは思いました。

――初めてお笑いの舞台に上がったのはいつ頃ですか?

養成所時代です。5週連続勝ち抜きでレギュラーになれるオーディションライブとかで、オレと中川家だけ5週間で一気に行っちゃって。そこでデビューできなくてお笑い辞める人が9割っていう世界だったんで、挫折は経験しなかったですね。「お笑いって楽勝やな」と思いました(笑)。

自分で言うのもなんですが、型破りなむちゃくちゃなコントをやってました。そのときの相方は、元ハリガネロックのユウキロックです。どちらもネタを書けたので、今週オレ、来週お前、って交代しながら書いてました。ユウキロックはちゃんとウケのとれるネタ、オレはもう叩きつけるような「おぉ、新しい」って思ってもらえるようなネタを書いてました。


――芸人を辞めようと思った時期はありましたか?

あります。そのコンビが解散したときに、気が抜けてしまって。でも先輩たちに飲みに連れて行ってもらって、皆さんに「お前はお笑い続けたほうが良い」って言うてもらったんで、「プロでやってる先輩たちにここまで言われるなんて、オレって大したもんだな」って思って。そこから、また続ける気持ちになりました。

――また舞台に戻られてからはどんな時間を過ごしましたか?

次の相方は、養成所でそこまでウケてへんかったけど変なことを考えられる奴がいたんで、声をかけてコンビを組みましたね。そのときは5週間と言わず、1週間くらいで劇場の人が「やっと帰ってきてくれたな」って言ってレギュラーにしてくれて。「どこまでエリートやねんオレは」って思いましたね(笑)。だから、実生活の面では苦労が続きましたけど、お笑いに関しては苦労したことはないです。

でも「芸人エリート」ではなかったですね、追っかけが1人もいなかった。出待ちの子らも、皆んな「うわぁ」って言ってすげぇ避けてましたね。

その出待ちの中にいた子の1人が、ニッポンの社長のケツの奥さんなんですよ。この前、皆んなで一緒にメシを食いに行ったんですが、当時のことを聞いたら「ほんまに怖くて。見た目も怖いし、ネタも怖いし、あんなの中学高校の女の子で近寄る子はいないですよ」って言われました。
確かに、めちゃくちゃ尖ってたし、お客さんへの態度も悪かった。生き方を間違えてましたね。あの頃の自分をいま見たら、尖り過ぎててダサくて見てられないでしょう。でも気付いた頃にはもう手遅れだったんで、そのキャラのまま来ましたが。
結婚後はワンオペ育児も経験「1日で気が狂いそうになった」

――ご結婚されて時間の使い方も変わりましたか?

そうですね。先日は、奥さんを休ませたいと思ってワンオペ育児も経験してみました。「散髪行ってマッサージ行ってサウナ行ってこいよ」って送り出したんですが、1日で気が狂いそうになりましたね(笑)。普段はオレが家を空けることが多いんで、申し訳ないなぁって思います。

――最近、「時間が足りない」と思ったことはありますか?

これは昔から思ってますね。幼稚園の年長の頃から思ってるんじゃないかな、「時間ないわ」って。アウトドアも好きだし、インドアも好き。両方を楽しむには時間が足りないんです。
子どもの頃は「もっと虫を捕まえたいし、もっと友だちとゲームしたいし、もっと1人でボーっとしたいし」ってずっと思ってましたね。
ストーリーに惹かれて腕時計を収集、「ノーチラス」や「ロレックス」スポーツモデルもコレクション

――いま大切にしている時計は、どんな時計ですか?

これ、一見オーデマ・ピゲに見えるでしょう? でもオーデマ・ピゲではなくて、アメリカのブローバというメーカーの「ロイヤルオーク」なんです。幻の時計と言われてます。

もともとブローバにいたジェラルド・ジェンタというデザイナーが辞めて、オーデマ・ピゲで「ロイヤルオーク」を出したんですが、ほな「あいつウチの社員やったんやから、ウチでも作る権利あるやろ」って、ブローバが勝手に作ったモデルなんです。そのパチモン感というか、めっちゃ面白いストーリーやなと思って。まぁ諸説あるらしいんですが。

ただ、これを買ったときは「オモテを知らないままにウラだけを知るのも恥ずかしいな」とも思いました。そこで「いま世間に認められつつあるオーデマ・ピゲのロイヤルオークってやつを買ってから、これ買おう」って決めて、実際にそうしました。誰に何を言われるでもなく、自身のプライドの問題ですけど。

当時2万円で買いました。この前、調べたら安いところでも15万円くらい、店によっては100万円を超えているところもありました。先見の明があるとしか言いようがないですね。


――腕時計を購入する際のこだわりはありますか?

よく「いまはスマホがあるんだから、時計なんかいらんやろ」とか言う人がいますが、そういうの、あんまりカッコ良くないなって思ってて。そんなん無駄やんって言われると余計に欲しくなる。だから天の邪鬼なんでしょうね、人の逆をいくというか。そんなこんなで、当時は他にも珍しい時計をいろいろ買ってたんです。同じジェラルド・ジェンタがデザインしたパテック・フィリップの「ノーチラス」も、あのときすでに100万円は超えてましたが買ってて。いま査定に出したら1,000万円を超えてました。ロレックスのスポーツモデルも当時38万円で買ってます。確か2008年、2009年くらいのことです。

――時計を買いだした頃の、はじめの1本はどんな時計だったんですか?

高級時計ではないんですが、ルミノックスの時計でした。テレビ番組でアメリカの軍人にインタビューする機会があって、話題の中にルミノックスが出てきたんですね。堅牢性があって、ストリートファイトで人をぶん殴っても壊れないというような話で「オレのための時計だな」と思って買った記憶があります(笑)。7~8万円したと思います。


そのあと、エルヴィス・プレスリーが愛用していたハミルトンの「ベンチュラ」を買って、それ以降、どんどん買っていきました。「ベンチュラ」といえば、いまでもバンドマンのアイコンになっているくらいの時計ですね。

――どんなときに時計を買いますか?

記念日に買うとかはなくて、ちょっと見てカッコ良かったら買います。海外のカジノで大勝ちしたときに、その200万円をそのままぶち込んで買ったり。いま家に時計が何本あるか、自分でも把握できてないです。

買うときはデザインも好きですけど、その時計が持つストーリーに惹かれて買ってますね。さっき紹介したブローバのロイヤルオークも、「オーデマ・ピゲのパチモンやん」って言われたら「お前ら分かってないな」ってなるあの感じ。わかる人にだけ伝わる感覚が気持ちいいですね。

「鋼の心」を陰で支える腕時計、今後欲しいものは?

――ご自身にとって時計とは、どんな存在ですか?

たまたま朝、バタバタしていて時計をつけ忘れて家を出ようもんなら、不安になるんですよね。「鋼の心を持つと言われているオレが、こんなオロオロすることあんねんな」っていう。それこそスマホがあるから要らないと思うんですが、ちょっと所在ないというか、そわそわしちゃいます。だから、「自分に必要なもんなんや」って思いますね。何回も「いま何時だ?」って左腕を見ては「あ、時計忘れたんやった」ってなっちゃいます。

――今後、手に入れたい時計はありますか?

あります。でも言えないです。これ言うと、真似する人がいるんですよね。オレが「こいつええ芸人やな」って思うやつが真似してくれたら良いんですけど……。ちょんまげラーメンのきむが、オレがよく買ってる服屋をInstagramで調べてそこで服を買ってることが分かって、嫌になりました(笑)。それ以来、オレがいま狙ってるものは公表すんのやめとこうって思って。でもいま、めちゃくちゃ欲しい時計があるんですよ。

――大好きな時計と共に、これからどんな時間を刻んでいきたいですか?

さっき話したように価値が跳ね上がった時計もあるので、スキャンダルを起こしたとき、それで食いつなぐしかないな、と思います。資産として時計を見てます(笑)。全部を一気に売っぱらって、どこかアジアに行って暮らす方法もありますよね。皆んなが欲しくて買えない時計も持ってますから。背に腹は代えられないです(笑)。

――お忙しいところ、ありがとうございました。

取材:葉山澪
構成/撮影: 近藤謙太郎

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