精神・発達障がいのある人の求職件数が年々増加する一方で、企業の多くはいまだに身体障がい者の採用を中心に想定しており、結果としてミスマッチが生まれている。

こうした課題に向き合うべく、障がい者就労支援サービス「ワークリア」を展開するレバレジーズが人事担当者向けの体験型研修「VRで見えない障がいを疑似体験」を開催。
業界平均の約2倍という定着率を支えるノウハウを、VR体験とともに提供した。

「見えない障がい」を可視化する、驚きのVR体験


ワークリア事業サービス責任者の津留有希子さんは冒頭、研修開催の背景を次のように語った。

「日本には現在約1143万人の障がい者の方がいますが、実際に就業できているのは10%に満たない状況。一方で企業側も、2.7%への引き上げを前にどう体制を作るべきかという大事なフェーズにあります。今回は特に、人口が増えている『見えない障がい』(一見、障害に見えにくい障害)にフォーカスし、雇用のノウハウを持ち帰っていただければと思っています」(津留さん)

同事業部マネージャーの石井若菜さんは、厚労省データをもとに市場動向を説明。新規求職申込件数では精神障がい者が大きく増加しており、ワークリアの予測によると2032年には身体障がい者との割合が逆転する見込みだという。

しかし企業側の採用は、依然として身体障がい者に偏りがちだ。発達障がい者の雇用は最も進んでおらず、石井さんは「発達障がいは珍しいものではない。周囲との関わり方のミスマッチが“生きづらさ”を生んでいる」と指摘。企業側=環境を作る側の工夫の重要性を強調した。

発達障がいの理解を深めるために今回の研修で用意されたのが“VR体験”だ。参加者はゴーグルとヘッドホンを装着し、3つのケースを体感した。

1つ目は「聴覚過敏」。
面接の場面で、周囲の会話や物音が面接官の声と同じ大きさで耳に入ってくる。何を話しているのか必死に聞き取ろうとするうち、面接官の表情が曇っていく。焦りや不安までリアルに伝わる設計だ。

2つ目は「視覚過敏」。車移動中、差し込む日光や周囲の光が強い刺激となり、視界が安定しない。視覚情報が洪水のように押し寄せ、集中力が削がれていく感覚を体験する。

3つ目は「ADHDの特性」。資料作成中に上司の声が気になり、打ち合わせ場所を検索し始めたかと思ったら、またいつの間にか別の情報へ意識が移る。次々と関心が切り替わる脳内の様子が可視化され、参加者からも驚きの声が上がった。

「配慮」ではなく「調整」という発想の転換


第2部では、具体的なマネジメントの工夫が紹介された。登壇したのは、自身も当事者であり、現在は180名以上のメンバーを率いる濱渦遥香さんだ。

例えば、「適当にやっておいて」という指示について、濱渦さんは次のように指摘する。

「健常者の方は場の空気から完成度を推測できますが、当事者にとってはそれが難しい。
『適当』と言われると100通りの正解が浮かんでフリーズしてしまったり、失敗を恐れて完璧を目指しすぎて疲弊したりしてしまいます。やる気がないのではなく、頑張りたいからこそ正解を探して迷子になっているだけなんです」(濱渦さん)

「お手すきの時でいいから」という言葉も、パニックの引き金になりかねないという。

「手すきという概念がなく、ずっとその業務を放置してしまうか、逆に頼まれた事実が頭を占領して最優先の業務を放り出してしまうか、極端なパターンに分かれます。解決策は時間と優先順位の定量化。『水曜の15時まで』『5分で終わる作業』と数字で伝えることで、本人は取り組みやすくなります」(濱渦さん)

「わからなかったら聞いてね」という声かけも同様だ。何がわからないかを整理すること自体が難しい場合がある。「手順3で止まったら呼んでね」と具体的なルールを設けることで、行動に移しやすくなると濱渦さんは解説した。

組織を強くする、レバレジーズ独自の仕組み


レバレジーズはこの2年で組織規模を180%拡大しながら、高い定着率を維持している。その背景には、環境を能動的に変えていく柔軟な発想がある。

サングラスやノイズキャンセリングヘッドホンの使用、リモートワークの導入は、特別な対応ではなくパフォーマンス向上のための手段と位置づける。体調に応じて業務難易度を選べる「コンディション連携型シフト」や、特性に合わせて業務を組み合わせる「ハイブリッドタスクシフト」も導入している。

さらに特徴的なのが、当事者自身が更新を続ける「生きたマニュアル」だ。
工程を写真で可視化し、曖昧な表現を排除。これにより教育コストを抑えつつ、ミスを減らし、業務品質を底上げしているという。

この日の研修に参加した人事担当の女性は、「想像でしかなかった状況を実体験として学べて、視点が大きく広がりました」と語る。特に聴覚過敏の再現度の高さに驚いたようで、「ヘッドホンを通じて耳から入る情報に集中でき、非常にイメージを持ちやすかったです」と振り返った。

日頃からDE&I推進に取り組んでいるそうだが、「相手の状況を知っているようで知らない、思い込みをしていた部分があったことに今日気づかされました」と吐露。今後は「そうした自分の中の壁を取り払い、一人ひとりとしっかり向き合ってコミュニケーションを深めていきたいです」と決意をにじませた。

研修終了後の取材で、津留さんは「調整」という言葉の意味を改めて強調した。

「眼鏡も、そもそもは調整のための道具ですよね。眼鏡がなければ仕事ができない人でも、眼鏡があれば活躍できる。障がい者雇用もそれと同じで、環境の調整や外部の支援を入れるだけで、能力を最大限に発揮できるようになります。これからの日本は人手不足。やる気のある障がい者の方はたくさんいますし、事務処理能力が非常に高い方も多い。
その強みを活かさない手はありません」

障がい者雇用を法定雇用率の達成にとどめず、競争力向上の一手にできるかどうか。その鍵は、個人に適応を求めるのではなく、組織がどれだけ柔軟に調整できるかにある。VRで得た体験は、多くの参加者にとって強い原体験となったはずだ。見えなかったものが、見えるようになる。その変化こそが新しい組織づくりにつながっていくだろう。
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