現実の死を設計する“暗殺コンサルタント”を描く

7日にスタートするWOWOW『連続ドラマW コンサルタント―死を執筆する男―』(毎週日曜22:00~/WOWOWプライム・WOWOWオンデマンド、全6話 ※第1話無料放送・配信)。韓国の作家イム・ソンスン氏の小説を原作に、ミステリー小説家志望の青年・伊崎耀(伊藤健太郎)が、謎の男・黒川秋峰(GACKT)に引き込まれ、現実の死を設計する“暗殺コンサルタント”へと変貌していくダーク・サスペンスだ。

メガホンを取ったのは『リング』『スマホを落としただけなのに』など、数々のヒット作で知られる中田秀夫監督。
韓国文学の映像化、緻密な暗殺トリック、ホラーとは異なる“浮き加減”――この作品とどう向き合い、何を大切にしながら演出したのか。インタビューは、作品の話はもちろん、創作への姿勢、そして監督という仕事の本質にまで及んだ。

○「現代のニュースと、どこかかぶる」 韓国文学に感じたリアリティ

原作小説を初めて読んだ時、中田監督は「どう料理するかが難しい作品だと思った」という。

「主人公の主観で進んでいく小説なので、映像化する時にどう見せるかは難しいなと思いました。ただ、テーマとしては非常に面白かったんです」

作品の根底にあるのは、現代資本主義への鋭い視線だ。

「資本主義が行き着いた先というか、人の命が経済的利益のために軽んじられることは、決してフィクションの中だけの話じゃないですよね。世界情勢を見ても、誰かが犠牲になって利益を得る構造は現実に存在している。だから、この作品で描かれていることも、特別な話には感じなかったんです」

さらに原作者のイム氏についても、「ブラックユーモアというレベルを超えている」と語る。

「現場で少しお会いしたのですが、もともと映画の助監督や脚本家として活動されていた方だそうなんです。だからなのか、『これ、実際に起きていることじゃないか』と思わせるような冷めた視点がある。現代社会に対する観察眼の鋭さを感じました」
○『刑事コロンボ』から『ゴルゴ13』まで…監督を魅了した完全犯罪の世界

本作で描かれる“完全犯罪”というテーマについて尋ねると、中田監督は少年時代の記憶を振り返り、こんなエピソードを明かしてくれた。

「完全犯罪ものは割と昔から好きでしたね。
『刑事コロンボ』もそうですし、中学生の頃には、自分で密室完全犯罪小説みたいなものを書いていたんです」

完成した原稿を教師に見せたところ、思いがけない反応が返ってきたのだという。

「担任の美術の先生だったんですけど、『中田くん、これいいよ』と言ってもらえて(笑)。うれしかったですね」

“暗殺”というモチーフ自体についても、監督の思い入れは深い。

「僕らの世代だと『ゴルゴ13』はやっぱり金字塔ですよね。あとは市川雷蔵さん主演の『ある殺し屋』とか」

だが、『コンサルタント』が描く世界は、従来以上に高度なテクニックが求められた。

「『ゴルゴ13』のような凄腕スナイパーが暗殺を遂行する場合は、当然“殺された”という事実が残っていいわけです。でも今回は、病死や事故に見せかける。そのリアリティをどう担保するかという意味で、通常の暗殺ものとは違う面白さがありました。実際、『自殺に見せかけて、実は他殺ではないか』と言われてきた事件もありますよね。そういった過去の有名な事件を思い浮かべると、『ひょっとして…』と考えてしまう。少し不謹慎かもしれませんが、知的好奇心をくすぐられるところはあります」

「なくはない」が一番怖い…追求したリアリティ

そう監督が語るように、本作における大きな見どころとなっているのが、思わず「実際にありそうだ」と感じてしまうほど具体的で緻密な暗殺プランの数々だ。もっとも中田監督は「もちろんフィクションなので、どこかでは嘘をついている」と笑う。

「実際にもしもその仕事に従事している方が見たら、『いや、さすがにそれはあり得ないですよ』といった部分もきっとあるにはあると思います。
でも少なくとも一般の視聴者の方が見た時に、『もしかしたらあるかもしれない…』と思えるラインは狙いました」

そのため撮影前にはロケ地の候補を回り、設定の裏付けとなる情報も集めたという。

「『これだと視聴者の気持ちが離れてしまうんじゃないか』とか、『このやり方は少し無理があるんじゃないか』とか。戸田山(雅司=脚本)さんにも何度か修正していただきながら作っていったんです。というのも、この作品には『実はこうでした』という種明かしが何度も出てきますし、黒川の視点から見た裏側も描かれる。そこがしっかりしていないとドラマ全体が締まらなくなってしまうので。その部分にはかなり気をつかいました」

とはいえ、完全なるリアリズムを目指したわけでもないのだという。

「以前、WOWOWでやらせてもらった『連続ドラマW正体』が、地面にしっかり足をつけている作品だとしたら、今回の『コンサルタント』は10センチ、15センチくらい浮いている感じ。一方、僕のホラー映画は大体3メートルくらい浮いていますから(笑)」

今回のドラマで中田監督が目指したのは、“現実と虚構の間にある恐怖”だった。

「ファンタジーではないけれど、完全な現実でもない。その間にある不安を描きたかったんです。『あったら怖いよね、ゾクリ』という感覚を、なるべく突きたかった」

話題は自然と『リング』へと移った。公開当時、映画の完成がギリギリまでずれ込み、取材陣は事前に映像を観ることがかなわず、脚本だけを読んでインタビューに訪れていたという。


「みんな笑っていましたよ。『監督、テレビからお化けが出てくるってどんな感じなんですか?』って(笑)」

中田監督自身も笑顔で応じていたが、内心は穏やかではなかった。

「こっちも笑って答えていましたけど、内心は『クソッ!』と思っていました(笑)。だって、あそこの瞬間が怖いと思ってもらえなかったら、映画として成立しないですから」

現実には起こり得ない恐怖を信じさせるホラーと、現実に起こるかもしれない不安を描く『コンサルタント』。アプローチは異なっても、人をゾクッとさせたいという思いは共通している。

○「天性の勘がある人」伊藤健太郎が見せた変化

主人公・伊崎耀を演じた伊藤健太郎について、中田監督は「天性の勘がある人」と評する。特に印象的だったのはクランクイン初日だった。物語冒頭の伊崎と、そこから何もかも大きく変わってしまった最終盤の伊崎を同日に撮影することになったが、中田監督は細かな指示を出さなかったという。

「別に僕が細かく注文したわけじゃないんです。でも口調から何からちゃんと変わっていた。これでいいよね、という演技を自然にやってくれたので、天性の勘がある人だなと思いました」

リハーサルを重要視しつつも、現場で俳優と対話しながら作っていくのが中田監督のスタイルだ。

「僕は役柄については、あまり事前に詰めて話すタイプじゃないんです。
リハーサルをやりながら少しずつ。伊藤くんもそうでしたね」

一方、伊崎を裏社会へ導く黒川を演じるGACKTについても、中田監督は高く評価する。

「ベテランの俳優さんでも音を上げそうな量のセリフなんです。しかも説明しなきゃいけない内容が多い。だから撮影前はこちらもいろいろ方策を考えていたんですよ」

だが、いざ現場に入ると心配は杞憂に終わった。

「何の問題もなかったです。彼のプライドがそれを許さないところもあったのか、長いセリフも全てきちんと入っていましたし、作品のテーマにも共感してくださっていた。実は、“黒川が杖をついている”という設定は、GACKTさんからの提案なんですよ」

現場では、伊藤健太郎と同じく、まずGACKTの演技を見つめることに集中したという。

「もちろん監督ですから、現場で舵を取ることは必要なんですけど、今回は何も言わなくてもすでにちゃんと成立していた。お互いの信頼関係で進められたと思います」

「監督なんて薄皮一枚」大島渚さんから受け取った演出論

取材の終盤、話題は映画監督という仕事そのものへ及んだ。中田監督は、かつて大島渚監督から聞いた言葉を振り返る。

「脚本をしっかり作って、キャスティングが終わったら、監督の仕事は7~8割終わっている、と大島さんはおっしゃっていたんです」

若い頃は、「いや、そんなことないだろう」と反発する気持ちもあった。
しかし今は、その意味が少しずつ分かるようになったという。

「これは別に謙遜でもなんでもなくて、本当に監督なんて、“薄皮一枚”なんですよ。もちろん、『その薄皮一枚が大事なんだ』と言われれば、ありがたいんですが(笑)。そういう意味では、映画でもドラマでも、結局どこかで自分の色は出るだろうと思いながらやっています。ただ、『絶対こうでなければならない』という考え方はあまりないですね」

かつて中田監督が助監督を務めていた頃、「台本に目線の向きらしき矢印が書いてあるだけで、ほとんど何も言わない大御所の監督」と、「こと細かく演技指導をするタイプの、長回しで有名な監督」という、その対照的な監督たちの背中を見て演出を学んだのだそう。

「例えば神代辰巳監督は、俳優の演技に満足できないとき、『もうちょっと何かないか』とだけ言うんです。これが役者にとっては一番きつい(笑)。僕はどちらかというとよくしゃべるほうなんです。でも、しゃべらない演出への憧れはずっとあります」

だからこそ、信頼できる俳優には委ねたい。

「もちろん、全然違うことをやったら言いますよ。伊藤くんやGACKTさんのように『やれるな』と思う俳優には、できればあまり言いたくないというか。その方がうまくいくことが多いと思っています。
今回はそれが体現できたと言えるかもしれません」

○主人公の葛藤「つい自分に置き換えて考えてしまう」

物語は後半に向かうにつれ、伊崎の内面へと深く踏み込んでいく。自らが書いたシナリオによって現実に人が死んでいる。その事実を知りながらも、作家として成功したいという夢は手放せない。その葛藤について尋ねると、中田監督は笑いながらこう切り出した。

「つい、自分に置き換えて考えてしまいますね。僕もハリウッドに居た頃は似た心境だったかも知れないですね(笑)」

もちろん冗談めかした言い方だったが、その後に続いた言葉は印象的だった。

「伊崎は自分が考えた完全犯罪のプロットを3本完成させるわけです。それは黒川から与えられたミッションでもあるけれど、同時に『ミステリー作家として、世に出たい』という長年の夢をかなえるための最大の挑戦でもある。最初は彼も『こんなもの書けないよ』と思っていたかもしれない。しかし、結果として書き上げてしまう。そして『暗殺コンサルタントをやるのか、やらないのか』という究極の選択を迫られる。もちろん『断ったらどうなるんだろう』という恐怖心もあったろうと思います。だから僕は彼が単純に闇落ちしたとか、ダークサイドに堕ちたとは思わないんです」

だからこそ、「後半は罪悪感との戦いになっていく」のだという。

「4話、5話、6話と物語が進むにつれて、彼の人間性が見えてきます。『おお、そう来たか』と思ってもらえる展開になっていると思います」

“完全な暗殺”を描くはずだった青年は、やがて自らの罪と向き合うことになる。その結末を見届けた時、果たして我々は何を思うのか――。物語の続きがどうにも気になるところだが、中田監督自身もまた、視聴者の反応を楽しみにしているようだった。

渡邊玲子 映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍する俳優・映画監督・クリエイターのインタビュー記事やレビュー、コラムを中心に、WEB、雑誌、劇場パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。 この著者の記事一覧はこちら
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