大逆転負けを喫した張本にとって生涯忘れることができない試合となっただろう(C)Getty Images

 卓球発祥の地、ロンドンで行われた世界卓球。第1回大会からちょうど100年後となる今大会、日本男子は1969年ミュンヘン大会(ドイツ)以来、57年ぶりの優勝をかけて中国との決勝に臨んだ。

実はミュンヘン大会は中国は文化大革命のため不参加であり、中国が参加した大会での優勝は1959年ドルトムント大会(ドイツ)まで遡る。しかしこの大会では中国と直接対戦しておらず、中国に勝った大会となるとさらに遡って1957年ストックホルム大会(スウェーデン)となる。実に69年前、「卓球ニッポン」と言われた時代である。

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 それ以来の偉業がかかっていた決勝戦だったが、日本は大打撃戦の末に敗れた。それは中国卓球の底力を思い知らされた一戦だった。

 第1試合、張本智和が対戦したのは梁靖崑。通常は1回しか出番のない第3試合に置かれることが多い選手だが、張本と分がよいためかトップに持ってきた。その梁靖崑に対して張本は出足から積極的に攻めて2ゲームをもぎ取った。こういう時の張本は物凄く強い。しかし、第3ゲームから歯車が狂い始める。梁靖崑は威力100%の決め球を打たず、90%のボールをミスなく延々と返し続けるスタイルだが、これに対して張本のボールがわずかに外れ始め、9-11、11-13と2ゲームを接戦で落とす。非常に嫌な流れだ。

 しかし最終ゲーム、張本は開き直ってスパートをかけて7-2と大きくリードする。誰もが日本の先制を確信した。「目を瞑って全部スマッシュすれば勝てる」のではないかと思うほどの点差だ。しかし梁靖崑の恐ろしさ、中国の底力はここからだった。張本のボールがわずかに外れて1本また1本と梁靖崑が追い上げ、気がつけば8-11。張本が1点取る間に9点を取られる大逆転負けだった。張本にとって生涯忘れることができない試合となっただろう。卓球は恐ろしい。

 第2試合の松島輝空は、世界ランキング1位の王楚欽から第1ゲームを奪う。第2ゲームもジュースとなる大接戦だったが10-12で落とし、そこからは勝機がなく1-3で敗れた。世界ランキング1位の実力を見せつけられた。しかし松島は、19歳とは思えない堂々たる戦いぶりだった。

 第3試合の戸上隼輔が対戦したのは世界ランキング6位の林詩棟。力の差は否めなかったが、それでも第3ゲームを11-7ともぎ取った。最後は1-3で敗れて69年ぶりの中国越えはならなかったが、2016年クアラルンプール大会以来、10年ぶりの銀メダルは素晴らしいの一言だ。

 それにしても今大会は、劣勢をものともせずに逆転する中国の底力を見せつけられた大会だった。中国はグループリーグで韓国とスウェーデンに敗れ、準決勝のフランス戦でも実質3-2のギリギリの試合を勝っている(そこでも梁靖崑が最初の2ゲームを3点と1点で落としてから3ゲームを逆転勝ちしている)。これだけ強い中国だからこそ乗り越えることに価値があるとも言える。彼らが自壊してその力が落ちるのを待つのではなく、頂点にあるうちに雪辱を期待したい。それは次回の2028年福岡大会かもしれない。

[文:伊藤条太(卓球コラムニスト)]

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