世界最大のプロレス団体WWEの大スターとして名を馳せ、映画界に参入すると、“世界で最も稼ぐ俳優”にまで上り詰め、あっという間に押しも押されもせぬスターとなったドウェイン・ジョンソン。ひとたびジョンソンが画面に登場すると、プロレス時代からの鍛え上がられた肉体に思わず目が行きがちだが、それは単に見事な肉体であるだけでなく、たとえ理屈を超えた設定にあてられてもまったく違和感を覚えさせない強靭な肉体であり、同時に俳優としての器用さも併せ持っている点は、強調しておきたい。

今夜、2019年の大ヒット作『ジュマンジ/ネクスト・レベル』が地上波で初放送されるにあたり、これまでジョンソンが出演した作品をたどりながら、彼のアクション俳優としての “すごさ”を考えたい。

【写真】若い! 「ザ・ロック」名義の頃のドウェイン・ジョンソン

アーノルド・シュワルツェネッガーの正式な継承者

 みなさんはもうお忘れかもしれないが、かつてドウェイン・ジョンソンはアーノルド・シュワルツェネッガーから直々に跡目を任されたことがあった。ジョンソン初期の主演作、『ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン』(2003)。当時のジョンソンは世界最大のプロレス団体WWEの大エース、「ロック様」ことザ・ロックとして、世間的には知られていた。映画の中盤ごろ、飲み屋の裏かどこかでふとシュワルツェネッガー(本人役で唐突に特別出演)とすれ違うロック様。ふたりの目が合った瞬間、シュワルツェネッガーは若き新スーパースターの肩にポンと手を置き、そして黙って頷いた。言葉のやり取りは一切なかったが、全世界のアクション映画ファンはここに新旧肉体派ヒーローの世代交代を、王座の継承を確かに目撃して、思わず目頭を熱くした。
 
 とはいえジョンソンは何となく怪訝(けげん)な顔をしていたし、後を託して去ったはずのシュワルツェネッガーもそれから何年かして映画界に復帰したので若干複雑な心境になった。それはそれとして、明らかに規格外の肉体と比類なき存在感を誇るドウェイン・ジョンソンが、ゼロ年代以降のアクション映画界を背負って立つ人材であることは当時から誰の目にも明らかだった。

■コメディで見せる芸達者ぶり

 しかもジョンソンには俳優としての器用さがあった。ゴリゴリの肉弾路線は言うまでもなく、子どもたちが楽しめるようなアクション・コメディ作品に主演しても、常に入場料以上の満足感をお土産に持たせる。たとえば『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(2017)、およびその続編『ジュマンジ/ネクスト・レベル』(2019)を観てみよう。
主人公の少年がビデオゲームのなかで手にしたアバター、というのがジョンソンの役どころだ。見た目のうえでは信じがたいほど屈強な肉体を誇る、絵に描いたようなゲームの主役キャラクターではあるけれども、あくまで中身はその辺のショッパイ高校生である。立派すぎる外見と間抜けな内面のギャップが大いに笑いを呼ぶが、これを嫌味なく成立させるあたりがジョンソンの巧さだろう。

 かつてシルヴェスター・スタローンもシュワルツェネッガーもコメディに挑戦したことがあった。シュワルツェネッガーの『ツインズ』(1988)しかり、スタローンの『刑事ジョー/ママにお手上げ』(1992)しかり。肉弾アクション・スターが演じる間抜けな姿、という落差が各作品の見どころだった。結果的に上手くいったりそうでもなかったり、いろいろあったが、いずれの場合においても各人のぎこちなさは無視できない要素としてそこにあった。だがシュワルツェネッガーから後を託されたドウェイン・ジョンソンは、そうした不器用さを微塵(みじん)も感じさせない芸達者ぶりをいつでも発揮していた。どんな役柄であっても安心して見ていられる。こちらに忖度を要求しない巧さ。それはジョンソンがベビーフェイス(善玉)とヒール(悪役)のどちらにも属さないプロレスラー「ロック様」として全世界を魅了した、そんなキャリアによって培われたものだと思う。

■リングでもスクリーンでも輝きを発揮できた逸材

 プロレスラーから俳優に転じた先人といったら、たとえばハルク・ホーガンがいる。
主演作『ゴールデンボンバー』(1989)、それに『マイホーム・コマンドー』(1991)はいずれも傑作だが、ホーガンがその後映画界に名を残すスター俳優になれたかと問えば、残念ながら答えは否と言わざるを得ない。ザ・ロックと同世代のWWEスーパースター、“ストーンコールド”スティーブ・オースティンやトリプルHも映画界に進出して、各々アクション映画の主役を張ったこともあるが、やはりその後が続かなかった。リングの上で異常なほどに光り輝いていたからといって、誰しもがその魅力を映画館のスクリーンで完全に発揮できるかといえば、必ずしもそういうことではないのだ。

 WWE発の映画スターとしてドウェイン・ジョンソンに続き得る存在といえば、近年『ワイルド・スピード/ジェット・ブレイク』、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(ともに2021)で気を吐いたジョン・シナだろう。後者のスピンオフたる主演ドラマ『ピースメーカー』(2022)しかり、暴力的なまでにビルドアップされた肉体と堅物感あふれる顔面のコンビネーションからは独特の危なさが匂い立っている。超筋肉派の性格俳優として新たなジャンルを切り拓くシナのこれからには大いに期待が持てる。と思いつつ、ジョン・シナがプロレスラーの出自を超えて俳優の一枚看板を掲げるに至った、その道をたどればそこにはやはりドウェイン・ジョンソンがいるのである。硬軟問わずありとあらゆる役柄を器用に演じつつ、その見事すぎる肉体でもって今日は観にきてよかったと、オーディエンスに謎の満足感を与える。そう、やはり肉体の説得力を無視するわけにはいかない。

■荒唐無稽を受け入れさせる、理屈を超えた強靭さ

 たとえばジョンソンが巨大ゴリラと肩を並べ、巨大ワニや巨大狼と激闘を繰り広げる『ランペイジ 巨獣大乱闘』(2018)を思い出したい。世に怪獣映画は数多あれど、そこに登場する人間たちはいつでもモンスターたちの足もとで右往左往するばかりだ。主演俳優が怪獣と互角のタッグを組み、一緒に戦ってみせる作品がどれだけあっただろうか。
「巨大ゴリラと肩を並べ」と普通に書いてしまってから、それをやってのけて一切の違和感を覚えさせないあたりにジョンソンの異常性があると気づく。

 異常といえば『ランペイジ』にはあまりに異常な展開があった。同作の中盤で、ジョンソンは脇腹を撃たれて倒れてしまう。主人公がそれだけの目に遭えば物語に少なからぬ影響がありそうなものだが、この人はそれから2分ほど後に「急所を外れたから大丈夫だ」と言い切って、戦線に復帰する。外れたも何も脇腹はだいたい急所だと思うのだが、何しろドウェイン・ジョンソンのことだからその説明で納得するほかないのである。またこの傷が、その後劇中において何かしらのハンデになるかといえばそうでもないから思わず慄然とする。

 というか土手っ腹に銃弾を受けてピンピンしている主人公…という描写の異常性にやっと気がついたのは、何となく『ランペイジ』を二度めだか三度めに観直していたときのことだった。つまり少なくとも初見において、自分はそれをごく当たり前のこととして受け入れていたのである。まあジョンソンであればそういうこともあるだろうと。

 ここで脇腹を撃たれたのが、誰でもいいがたとえばティモシー・シャラメであったなら、と考えてみる。シャラメはもちろん素晴らしい俳優だ。しかしシャラメに「急所じゃないから大丈夫だ」と言われても、大丈夫なことあるか! すぐ入院しなさい、と誰しも言わざるを得ないだろう。
翻ってジョンソンはどうか。ついさっき結構な大けがをしたことさえ観客に忘れさせてしまう。あるいは大勢に影響がなさすぎて、物語上そもそもけがを負う描写すら必要だったのかどうか考えさせられる。行き過ぎた荒唐無稽をふと受け入れさせる。そんな理屈を超えた強靭さを、ドウェイン・ジョンソンという存在はその全身から発散させているのだ。これはやはり他に類を見ない存在だと思う。ジョンソン現在49歳。硬軟をいっさい問わず、どんな役柄でも必要以上に楽しませてくれる存在として、あと100年ぐらいは頑張ってほしいものである。(文・てらさわホーク)

 映画『ジュマンジ/ネクスト・レベル』は、フジテレビ系「土曜プレミアム」にて4月30日21時放送(15分拡大)。

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