『グレムリン』本当は血まみれ残酷ホラーだった！　完成版にも残された“隠し味”とは

白い雪が舞うクリスマスにお騒がせ害獣が大発生。静かな町に大パニックの珍騒動を巻き起こすヒット作『グレムリン』が、今夜の金曜ロードショーに登場！ 日本では1984年の年末に封切られ、同時期公開の『ゴーストバスターズ』『ゴジラ』と共に、題名の頭文字を取って正月特撮映画「３Ｇ決戦」と話題をまいた本作、意外にも当初はゴリゴリのハードホラー企画だったという。【写真】モグワイがかわいい！ 『グレムリン』（1984）フォトギャラリー 本作の出発点は後に『ホーム・アローン』を監督するクリス・コロンバスが学生時代に書いた脚本。ニューヨークで倉庫を改造したロフトに住んでいた彼は、ベッドから腕を垂らして就寝中、床を這うネズミが指先に触れて飛び起きることが度々あった。夜中にこっそり体をかじりにくる小動物のイメージは、子供の頃に車を整備する父が話してくれた“機械を故障させる妖精”と重なり、『グレムリン』と題した脚本が一気に書き上がった。 物語の幕開けは、いつも安上がりな食事を求めて出かける馴染みのチャイナタウン。賑やかな雑踏の奥、妖しい路地裏の骨董品屋に世にも奇妙な生物が飼われている。かわいい外見に思わぬ危険を秘めた動物の名は「モグワイ」。中国語の辞書を引き、「悪魔」に当たる言葉を選んだ。 完成した脚本はエージェントを通じて映画業界に送られたが、見事なまでに反応なし。ところがある日、コロンバスに1本の電話がかかってくる。取り次いだルームメイトは「スティーヴン・スピルバーグから」だという。半信半疑で「あんた誰？」と応対すると、電話口から「本人です（笑）」と返答があった。脚本を気に入ったので、LAで打ち合わせをしたいと。予期せぬサプライズに興奮しながら、コロンバスは再び疑問を抱いた。『グレムリン』はR指定上等の残酷ホラーだ。そんな企画を天下の大衆娯楽王スピルバーグが本当に映画化するのか？ 製作会社アンブリンを自ら立ち上げたスピルバーグは、舞い込むシナリオを片っ端から読み漁っていた。だが、『グレムリン』はひと味違った。駄菓子屋のようなコメディホラーで、悪魔的なユーモアと独創性に溢れていた。確かに第一稿は血まみれだった。主人公である少年の母親はグレムリンに殺されて生首が階段を転がり、愛犬は食われてしまう。ファーストフード店が襲撃され、売り物のバーガーには一切手をつけず、人間だけがかじり殺される。 しかし、スピルバーグは際どい要素を残しつつ、より観客ウケする映画を志向。当初はすべてのモグワイがグレムリンに変身する設定だったが、善玉の「ギズモ」は残して、主人公の相棒にしようと提案した。これでエモーショナルな共感が生まれ、全身茶色のモグワイに白い毛を混ぜてモフモフの２色カラーにすることで見栄えもグッと洗練された。討論と改稿を重ねるたび、映画の質がどんどん向上してゆく。新人脚本家のコロンバスはハリウッドの底力に感嘆した。 スピルバーグはサブカル色の強いホラー映画が得意な気鋭、ジョー・ダンテを監督に指名。脚本を郵便で受け取ったダンテは「宛先が間違ってるのでは？」と戸惑いつつ、自ら絵コンテを描き、無数のパペット操演を指揮し、細かなギャグや楽屋オチを散りばめて、何度観ても発見がある密度の濃い娯楽作を目指した。 もちろん、改稿による“ゆがみ”も生じた。主人公は青年に変更されたが、彼の親友は子ども（『スタンド・バイ・ミー』の名子役コリー・フェルドマン）のまま。母親とグレムリンのドロドロ台所バトルも異様な後味を残す。可憐なヒロイン（フィービー・ケイツ）が突然、過去のトラウマを語り出すシーンも衝撃的だ。彼女が告白するクリスマスの忌まわしい記憶は、悲劇でありながら滑稽で反応に困る。しかし、スタッフの間でも賛否が分かれたこの場面こそ『グレムリン』を象徴する瞬間だと、ダンテ監督は笑って明かしている。単純に割り切れない感覚の数々が映画に特別な輝きを与える。歳月を経ても色褪せない『グレムリン』の奇妙な隠し味に、ぜひご注目を。（文・山崎圭司） 映画『グレムリン』は、『金曜ロードショー』（日本テレビ系）にて今夜12月16日21時放送。