SDGsの認知度の向上とともに、企業の取り組みへの関心も高まっている。
今回は、その調査の「SDGsの取り組みの評価が高い業界別ランキング」(※1)から、「機械・金属」「電気・電子」の業種に絞ってランキングを紹介する。
※1 調査を行ったのはブランド総合研究所(調査概要https://news.tiiki.jp/articles/4685)。アンケートは全国の調査モニターより、年代(20代、30代、40代、50代、60代以上)と性別で均等に回収。2021年7月25日~31日にかけてインターネットで調査を実施した。各企業の回答数をそれぞれ1000人ずつ回収し、不完全回答および信頼性の乏しい回答を除く計1万8403人の有効回答を得た。なお、選出した210社は、原則として消費者が評価しやすいブランド名を優先している。
「あなたは各社がSDGs(持続的な開発目標)への取り組みをしていると思いますか」との設問に対し5段階で回答してもらった結果をもとに点数を算出した。
トヨタ自動車が1位
日本を代表する企業の圧倒的強さ
「機械・金属」業界のメインプレイヤーは自動車である。中でもトヨタ自動車は、日本を代表する大企業として衆目の集まる存在だけあって、SDGsに関する注目度も高く、総合順位で1位(26.3点)。同業種では日産自動車が2位(19.0点)で総合では6位だった。
SDGsには17の「ゴール」が設定されているが、「SDGsゴール別」(※2)での評価を見ると、両社で大きく差がついたのは、「ゴール8:働きがいも、経済成長も」で、トヨタ自動車11.3%、日産自動車7.9%で3.4ポイント差だった。「ゴール7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」がトヨタ自動車20.5%、日産自動車18.3%で2.2ポイント差、「ゴール9:産業と技術革新の基盤を作ろう」がトヨタ自動車16.6%、日産自動車14.5%で2.1ポイント差なども差がついた。
※2「SDGsのゴール別評価」については、SDGsで設定されている17のゴールそれぞれについて、「各社が取り組んでいると思うもの」を選んでもらった(複数回答可)。本記事の表には記していない。
大気汚染や地球温暖化の要因となる自動車の排気ガス(CO2)が世界的な問題となる中、環境にやさしいエコカーは、すべての自動車メーカーの課題となっている。トヨタ自動車は、「クルマの持つマイナス要因を限りなくゼロに近づけるとともに、社会にプラスをもたらすこと」を目指す「トヨタ環境チャレンジ2050」という方針を打ち出している。
燃料電池自動車(FCV)やハイブリット自動車(HV)の高性能化や普及を進めるだけではなく、まちづくり・社会づくりにまで広げた取り組みが評価されている。
「ゴール8:働きがいも、経済成長も」「ゴール9:産業と技術革新の基盤を作ろう」の点数が高いことについては、日本の産業界をリードする存在としての期待の表れだと推測できる。
大躍進の日産自動車ゴーンショックのイメージ払拭
一方、日産自動車は、総合ランキングでは前年の116位から6位へと躍進した。
「もともと、国内で初めて電気自動車(EV)の量産に取り組んだイメージがあり、SDGsの取り組みへの評価は高いといえる。しかし、2018年11月にカルロス・ゴーン前会長が東京地検特捜部に逮捕された「ゴーンショック」が尾を引き、社会的なイメージに影響を与えていたと考えられる。今回の調査からは、ようやくその負のイメージが払拭されたかたちだ」とブランド総合研究所の田中章雄社長は分析する。
SDGsに関する情報取得先として、トヨタ自動車、日産自動車、共にテレビCMからが最も多い(※3)。日産自動車は2020年8月から、タレントの木村拓哉氏をCMキャラクターに据え、ロゴを20年ぶりに変更してブランド戦略を大々的に刷新している。こうした効果も大きそうだ。
※3 「各社のSDGsに関する情報は主にどこで入手しましたか」の設問に対し、「テレビ番組やニュース」など12の媒体(入手経路)の中から選んでもらった(複数回答可)。本記事の表には記していない。
業種別4位(14.6点)の本田技研工業は、SDGsの取り組み評価で「知らない、わからない」が22.4点。他の自動車メーカーと比較しても、取り組みが知られていないことがわかる。
9位(13.5点)の三菱重工は、「ゴール9:産業と技術革新の基盤を作ろう」でトヨタ自動車に次ぐ15.0点。総合重機の最大手で三菱グループ中核企業ならではの評価である。
また、ESG(環境・社会・企業統治)イメージ(※4)では、トヨタ自動車をはじめ自動車各社は「環境に配慮している」「商品やサービスが信頼できる」における点数は高いが、日産自動車は「国際化が進んでいる」が比較的高く、「女性が活躍している」ではトヨタ自動車をはじめ、各社をしのぐ。トヨタ自動車は「若い世代を活かしている」が高い結果となった。
ただし田中社長は、「トヨタ自動車は2年連続1位のSGDs の優等生企業だが、必ずしもすべての項目がトップというわけではない。
※4 ESG(環境、社会、ガバナンス)に関する11の項目について、「各社の企業活動について、あなたの考えやイメージに合うもの」を選んでもらった(複数回答可)。本記事の表には記していない。
【電機・電子】項目ごとの平均値が安定した
キャノンが1位に
一方、電機・電子業界では、「SDGs評価」でキヤノンが1位(17.6点)となった。しかし、表には記していないが、17項目に及ぶ「SDGsゴール別」の合計点では、パナソニックが80.4点でキヤノンの74.5点を上回る。同じく合計点では、3位のソニーが80.9点、4位東芝が84.3点と、キヤノンを上回っている。
つまり、キヤノンはSDGsへの取り組みについてのトータルイメージに関しては高いが、個別の点数の積み重ねでは東芝、ソニー、パナソニックの方が高いというわけだ。この結果から想像されるのは、後者の企業群の方がSGDsにおける具体的な取り組みを認知・評価されているということだろう。特に東芝は、「ゴール7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」が9.1%と高い。上位企業の中では唯一、重電も抱えており、原子力発電所をはじめとする電力事業を柱にしていることが認知されているようだ。
ESGイメージでは、キヤノンは「商品やサービスが信頼できる」19.4%、「科学技術の発展に貢献している」11.7%、「環境に配慮している」9.3%の順。
そんな中、4位のEPSONは「商品やサービスが信頼できる」15.6%、「環境に配慮している」11.6%、「社会貢献活動をしている」10.0%という順であることが特徴的だ。
最後になるが、「ゴール9:産業と技術革新の基盤を作ろう」への評価について、機械・金属業界は9.7%、電機・電子業界は9.8%と、全10業界の中でひときわ目立っている。
田中社長は、「機械・金属も、電機・電子も、日本のものづくりを支える業界。それぞれの業界を代表するトップ企業が上位を占め、上位50位までのほとんどを製造業で占めている。日本の産業の源泉がものづくりにあることがわかる結果となった」と結論づけた。
(フリーライター 西嶋治美)