ルネッサンスの巨匠・レオナルド・ダ・ヴィンチといえば、『モナ・リザ』や『最後の晩餐』など芸術家としての一面だけでなく、科学技術においても無数のアイデアを生み出した天才学者としての顔を持っているのはご存じの通り。元来、あくまで絵を描く延長として、対象物の内部まで知っておきたい、というダ・ヴィンチのこだわりが講じて書かれた資料から始まったとも言われているが、日本では戦国時代に当たる時期に、よくこんなことを考えたものだと驚かされる物件が数多く残されている。
そんなアイデアを現代の造形力で再現した、組み立てモデル「レオナルド・ダ・ヴィンチ 全10種類 塗装済みキット」がこのほど発売された。

日本でもなじみの深いダ・ヴィンチの図面スケッチというと、かつて全日空のシンボルマークにも使われていたヘリコプター図案だろう。ループ上の大きな羽を真ん中の軸を回転させて浮かび上がらせるという、巨大竹とんぼのようなあれだ。それをモデル化したのが写真にあるもの。

ところが実は、この羽のようなものは「ドリル」なのだそうだ。ダ・ヴィンチは空気を土と同じような一つの物質と捉えていたようで、その空気のかたまりを巨大なドリルを使ってこじ開けて上がっていく原理として、この図面を描いたという。
模型ではそのアイデアに沿って、ネジ山が切られた軸を機体が浮上していく動きを再現している。

このように、ダ・ヴィンチの図案には今の常識からするとちょっとずれたものが少なくないという。それをモデル化してしまうのも無茶と言えば無茶だが、立体モデル化されたことでダ・ヴィンチの発想の壮大さもまたわかってくる。

例えば、UFOを思わせる円形戦車。形そのものも当時としては斬新だが、まわりに付いている砲身などの大きさを考えると、怪獣映画に出てきそうなとてつもなく巨大な車体でなければならないことがわかる。それを当時の技術で作れるかも疑問な上に、そこまで巨大な戦車が必要だったかとさえ思えてくる。
それだけダ・ヴィンチの発想が、常人の粋をはるかに超えていたということなのだろう。

もう一つ、ダ・ヴィンチのアイデアには少ないエネルギーを大きなエネルギーに変える原理が目立つ。その代表例としてモデル化されたのが巨大カタパルト(投石機)だ。中世には多くのカタパルトが製造されたそうだが、その多くは投石のアームの反対側に重しを付けてテコの原理で飛ばすものだった。それをダ・ヴィンチは、バネの力を組み合わせ一人の人間が縦回転のレバーを回すだけで、遠くへ威力ある石を飛ばす原理を発案した。

その威力のすさまじさは、この模型でたちどころに体験できる。
動く画が紹介できないのが残念だが、とにかく良く飛ぶのだ。発案した当時の実用化はともかく、このシリーズ中の実用度では一番だろう(当然ですが人に向かって使ってはいけません)。

このダ・ヴィンチシリーズ、香港のメーカーのライセンス品なのだが、販売元であるプラモデルの老舗・童友社の武井さんによると、「図面しか残っておらず、大きささえはっきり想定されていないものをここまで形にしただけでも画期的」と、製品の出来映えをアピールしている。

今回モデル化されたのは2万点以上と言われるダ・ヴィンチののアイデアのうちの10点だが、その奇想天外な発想を体感するには充分なものばかり。部屋のオブジェとしても映えるが、夏休みの自由研究の一助として手にしてみるのも面白いのではないだろうか。
(足立謙二/studio woofoo)