以前、コネタライターもしていた矢部智子さんの著書『東京建築散歩』(ブルース・インターアクションズ)の単行本が発行されて6年。今年、文庫本になって、アスペクトより発刊された。
これは、東京にある新旧の名建築家たちによる建築を案内したガイドブック。美しいビジュアルと、わかりやすい解説で、それぞれの建築の魅力が伝わってくる。個人的にもとてもお気に入りの本なのだが、文庫化された経緯や、単行本との違いなどを聞きたいと思い、さっそく矢部さんに取材!

と、その前に出版社アスペクトの編集担当、前田和彦さんに文庫本化の経緯についてお話を聞いた。

「僕自身、ずっと前からこの『東京建築散歩』の本が好きだったのですが、『本屋さんに行きたい』という矢部さんの著書の編集を担当させてもらっているときに、ちょうど弊社で文庫シリーズを立ちあげたこともあり、この機会にぜひ、ということで提案させてもらいました。建築系の文庫本シリーズとしては第一弾に『東京R不動産』を出し、第2弾がこの『東京建築散歩』です。他社さんの単行本を文庫化するのは弊社でも『東京建築散歩』が初めての試みでもあります」

そして、矢部さんも「この本は、私の最初の本で、当時は文庫になるなんて夢にも思っていなかったので、とてもうれしく、ふたつ返事でお引き受けしました」とのこと。

今回、文庫本化するにあたり、実はレイアウトも単行本から大幅に変更したのだとか。

「小さいサイズでも写真と文章が見やすいように、レイアウトを組み直しています。単行本では写真の半分がモノクロだったのですが文庫ではすべてカラー写真で掲載しています。なので、内容はほぼそのままですが、単行本とは少し違う、新しい本のような気分で見ていただけるのではないかと思っています」と矢部さん。

なるほど。単行本を持っている人は、比べてみるのも面白いかも。
ちなみに、改めてこんな発見もあったとか。

「単行本が出てから6年が経ちましたが、移り変わりの激しい東京という街で、本で紹介した25の建築が、今も変わらず残っていたことは嬉しかったですね」

また、もともと「『近くにあるけど知らなかった』とか『知っているけど、中に入ったことがない』という人が多いのでは……と思ったことがこの本をつくるきっかけだった」と話す矢部さん。「この本で紹介しているのは、美術館や公園、図書館、教会など、誰もがふらりと訪れることができて、のんびりと時間をすごすことができる建築ばかりです。実際に訪れてみると『こんなところがあったんだ!』って、今よりもっと東京の街が好きになると思いますよ。文庫になり、さらに持ち歩きに便利になったので、秋の散歩のお供に、この本をカバンにひそませて出かけてもらえたらうれしいです」とも。

たしかに。フルカラーにもなり、しかもリーズナブル! 矢部さんのお話にもあったように、秋はもちろんこと、気軽に持ち歩けて一年中楽しめそうな一冊です!
(田辺 香)
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