宮本武蔵は、ほとんどお風呂に入らなかったらしい。理由は諸説あるのだが、私が聞いたのは「入浴中に敵に襲撃されるから」。

なるほど、確かに浴室にいる人間はスキだらけだもの。逆に言えば、素を垣間見ることができる。人間味に溢れている。……それって、興味深くないですか!? 思わず、風呂場でマンウォッチングしたくなってきたな。

そこで、この書籍をオススメしたい。昨年の10月に東京キララ社から発売された写真集『SENTO』が、かなりの反響を巻き起こしているのだ。

「好奇心がものづくりの基本だと思うんですね。未開のジャングルや世界遺産など、存在は知っているけど行った事がない。そんな領域に、書籍で触れさせてあげたいという思いがありました」(同社・担当者)
その意志は、見事に写真集のクオリティとして表れている。男湯内で体を洗っていたりシャワーを浴びている様子はもちろん、湯船でくつろぐ成人男性のお湯の中の様子も水中カメラを駆使して撮影されているのだから。

ちなみに、この写真集。『SENTO』のタイトルそのままに、男性器がもろに掲載されているのだが、ここまでの振り切りに躊躇はなかったのだろうか?
「この写真集には男湯内の様子が収められています。
そこで考えていただきたいのですが、裸の状態で普通にしていたら男性器は露出してしまいますが、女性器は露わになりません。そして、男湯の写真集で性的興奮を覚える人はほとんどいないと思うんです。では、どうして女湯なら法に引っ掛らず、男湯だと引っ掛ってしまうのか?」(担当者)
確かに! 猥褻なものにわいせつ罪が適用されないのに、猥褻ではないものが取り沙汰されるなんて矛盾しているのではないか? 同社の言い分である。

ここで声を大にしておきたいのだが、この写真集は断じてインパクトを狙っただけの一冊ではない。銭湯の中でくつろぎ、英気を養っている人々の日常が見事に切り取られている。
それも、そのはず。
『SENTO』は、世界的にも評価の高い写真家・吉永マサユキ氏による作品を一冊にまとめたもの。その唯一無二のアート性を体験していただきたいのだ。
「20年ほど前の大阪の銭湯が撮影されたもので、吉永さんが知られるきっかけとなった作品でもあります」(担当者)
実は今まで、数々の出版社から「ウチで出したい!」というオファーが吉永氏に寄せられたそうだが、そこに必ず付けられたのは「モザイク付きで……」というエクスキューズであった。しかし、それは作品への冒涜になる。結果、東京キララ社が手掛けるまで20年の時を待たなければならなかった。

そして、待った甲斐があった。
今年の4月にパリで開催された「インターナショナル・フォトブックアワード2012」に、この写真集はノミネートされている。世界中から30数点しか選ばれておらず、日本からは『SENTO』を含めて2冊しかノミネートされていないそうで、評価の程は推して知るべしだろう。
「アワードには2冊送ったのですが、『自腹を出すから5冊送ってくれ!』とリクエストされました(笑)」(担当者)

ところで、素朴な疑問を。今さらなのだが、どうしてテーマに「銭湯」がチョイスされたのだろう?
「実は吉永さん、昔は“不良”だったんです。そして、一日の終わりには必ず銭湯に集まるという日常を送っていたそうです。そんな、皆と交流する場であった『銭湯』を作品に残しておきたいという愛情が、今回の一冊になりました」(担当者)
最近は、銭湯の外観を写真に収めるカメラマンが増えているという。
それならば、内側を記録に残す写真家がいてもいいのではないか。というか、内側の方が人間味があるじゃない!

ところで、この写真集はどこで買えるのだろう。ここまでチャレンジした一冊をそこらの書店で入手できるとしたら、本当に幸せなのだが。
「発売当初は、タコシェさん、NADiffさん、新宿・蒼穹舎さんでのみの取り扱いでしたが、次第に趣旨に賛同し、支持を表明してくれる書店さんも増えてきました」(担当者)
最近では代官山と六本木のTSUTAYAでも取り扱いが開始され、特に代官山店では大々的に『SENTO』の販売が展開されている模様。もちろん、同社ホームページから購入することもできる。

最後に、主な購入層は?
「男性だけでなく、女性も多いんです。
そして、やはりアーティストの方による購入が多いですね。70年代は規制も少なく好きなものが作れましたが、現在は自主規制も含めて好きなものが作れない時代です。本当は、そんな状況に反発するのがアーティストですから」(担当者)
ものづくりの面白味、そして日本のアート性が発揮された写真集である。もしかして、『愛のコリーダ』以来の挑戦ではないだろうか?
(寺西ジャジューカ)