いや、プライベートな場ならまだいい。会議等の大事な席で不毛な雑談が繰り広げられると、眠くなるわ、結論は出ないわ、帰りが遅くなるわ。
朗報です。実は今、こんな物が開発されているらしい。栗原一貴氏(産業技術総合研究所)と塚田浩二氏(お茶の水女子大学)という技術者2人によって研究が進められているのは、新しい装置。その名も、『SpeechJammer(スピーチジャマー)』である。
詳しくは、こちらの動画を観ていただきたい。図書館で周囲への配慮なしに携帯電話での通話を止めない者。会議で持ち時間を大幅に超過しつつもプレゼンが止まらない者。もう、鬱陶しいなぁ……。
そんな時。話を止めさせたい相手に銃を向け、レーザーを相手の口に当てがい、撃つ。すると、対象となった者は不思議と口ごもる。要するに、その人のスピーチをジャマすることができるのだ。
これは、不思議な……。それにしても、どういう原理なんだ?
「人間は言葉を話す時、自分で発話した音を自分の耳で聞き、上手く話せているかをチェックしています。その際、自分の声が100ミリ秒単位の遅れの後に聞こえる状況に置かれると、脳が『自分は上手く話せていない』と勘違いし、発話を調整しようとしてしまいます。元々上手く話せていたのを調整してしまうので、結果として話が上手くできなくなってしまうのです」(栗原氏)
『SpeechJammer』を駆使すると、人工的な形で対象を上記のような状況に置くことができるわけだ。
そして、この銃の構造について。
「遠隔地からでも遅れを伴う声を発話者にピンポイントで聞かせられるよう、非常に狭い範囲で音を集音するマイクと、同様に非常に狭い範囲で音を届けられるスピーカーを組み合わせてできています」(栗原氏)
そうですか。いやはや、何ともスゴい技術だな……。
ただ、この装置は良薬にも劇薬にもなると思う。
「そうですね。やはり、会話のルールが決められているにも関わらず、それを破っている人に使うべきだと思います」(栗原氏)
話すという行為は、皆で共有している資源“空気”を使って成立しているもの。しかし一度に2人以上が話すと、いわゆる「クロストーク」状態になり、理解がしにくくなってしまう。発話を悪用する人は、とにかく大声で話し続けて他の人の割り込みを許さなかったり、他の人の発話に発話を重ねて妨害してしまう。
「悲しいことに、これらは我々の指導者たる政治家の皆さんの間でも横行しています。21世紀は“対話の時代”と呼ばれており、対話こそが紛争解決のための適切な手段です。決められたルールの上で対話ができて、初めて平和的な問題の解決が図れるのではないでしょうか。『SpeechJammer』を使うことで、“決められたルールの上での対話”の実現を助けることができるといいなと思います」(栗原氏)
これほど崇高な理念があったとは! 実は栗原氏、以前より「話し合いの場で、どうやって“公平で達成感のある議論”ができるか」をテーマにした研究を推し進めていたそう。その一環として開発が果たされた、この『SpeechJammer』である。
だとしても、このコンセプトは想像以上だよ……。
ではでは、最後に将来的な話を。
「まだ研究の初期段階ですので、人によって効果がまちまちだったり、効果に慣れてしまったりすることがあるので、効果を確実にするのがまず第一です。その後は、まだ考えていません」(栗原氏)
しかし、反響は続々と寄せられている。インターネットで『SpeechJammer』の動画が話題となり、世界中(特に、言論統制が問題となっているような地域)から問い合わせが来ているそうなのだ。
「平和のために世の中で使われていけば良いな、と思います」(栗原氏)
私も常々思っていた。もう大きい声を張り上げて、それだけで相手を押し切る時代ではないだろう。話が苦手な人にも、公平に意思表示の機会を与えたい。
そのために、この“発話阻害銃”はできあがった。
(寺西ジャジューカ)