小規模なものまで数えたら、ごまんと存在するパリの博物館。そんな中で面白い場所ある。
その名も偽物博物館。本物を陳列するのが普通の博物館だが、ここは偽物をメインに展示する珍しい博物館なのだ。

同館はパリの16区という閑静な住宅街が広がる地区にある。まず、入館するには入口のベルを鳴らして「見学したいんですけど」と伝えないと扉の鍵を開けてくれない。じつはここ、パリを本部として知的財産権の保護活動をおこなっている国際的な団体、ユニオン・デ・ファブリカンが運営する博物館。館内に入ると服飾品からはじまり化粧品、電化製品、美術品、果ては自動車部品まで、ありとあらゆる偽物がディスプレイされ、その隣には比較対象として本物も飾られている。

同館によると統計では、フランスにおいて最も押収品として多いものは、衣服などの繊維関係、テレビゲームや玩具。それらで押収品の約半数になるそうだ。また、フランス以外についても欧州を中心に様々な偽押収品が展示されている。例えば、フランスで生産される高級スパークリング・ワイン、シャンパン。シャンパンはフランスのシャンパーニュ地方において、定められた方法で醸造されたワインしかシャンパンを名乗れない。しかし同館によれば、イタリアではその偽物が時に流通しているという。
本来2ユーロ(約200円)が妥当な廉価なイタリア産スパークリング・ワインをシャンパンと偽り15ユーロ(約1500円)ほどで売っているそうだ。ちなみに本物のシャンパンは安くても30ユーロ(約3000円)前後する。日本製品については、例えばニンテンドーDSとその偽物など、ゲームコーナーに本物として多く陳列されていた。

日本人として“本物”の側に自国製品が類されていることに誇りを感じつつ館内を見学していると、なんと食品コーナーで偽物に分類された日本製品を見つけてしまった。それはボルビック(Volvic)と並んでいた、ビクビック(Vicvic)という商品。一見、ミネラルウォーターの類似品かと思いきや、ペットボトルの商品説明をよく読んでみると「適量を取り、ぬるぬるラブ・マッサージや潤滑剤としてお使いください」。……これは! ミネラルウォーターではない。パッケージはどう見ても偽物と間違われても仕方ないデザインだが(実際ボルビックを販売するダノン・グループから抗議を受けたようだ)中身と用途は別物。もしビクビックが食品の偽物としてカウントされているのなら統計も多少変わるだろうし、何よりも食品としてではなく製造されたビクビックが、食品とみなされ展示されていることが不憫で……と色々とおせっかいな思考が頭を駆け巡った結果、現在パリの(ごく少数の)日本人の間では、コピー認定された同博物館内にあるビクビックの一部名誉回復運動を、たぶん検討中です。たぶん。
(加藤亨延)
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