電車やバスの中で飲んだり食べたりしても大丈夫な日本とは違って、香港では飲食禁止ということをご存知だろうか?
香港での暮らしがスタートして2年半。未だに慣れないのだが、地下鉄やバスの車内には飲食禁止のマークがあるし、アナウンスでも呼びかけている。
特に地下鉄では「paid area」、つまり改札を入った瞬間から、電車に乗って目的地の改札を出るまでは飲食禁止なのだ。そんなわけで、私はよく改札の直前であわてて水を飲んでいる。
もちろんペットボトルで水分を飲んだり、子どもにお菓子をあげたり、パンのようなものを食べている人々もいることはいる。しかしごく少数で、大半の乗客はおとなしく守っているといえるだろう。
2012年の1月には、こんな事件が起きた。中国本土から来た女性が、香港の地下鉄車内で子どもにお菓子を食べさせていたところ、地元の乗客がそれを注意した。すると女性は「私たちは本土から来た」「子どもなんだから」と反論し、地元の乗客は「とにかく謝れ」と周囲を巻きこんだ口論に発展。口論の様子が動画サイトに投稿されると、ネット上で大きな話題になった。
私も以前はなぜ飲食禁止にするのか、その理由がよくわからなかったのだが、周囲に聞いてみたところ「車内が汚れる、衛生面でもよくない」とのこと。
ファストフードやカフェでは自分で片づけるのが当たり前、セルフサービスの食堂なども多い日本と違って、香港では例えマクドナルドであっても、片づけ専門の人間がいるのが普通。「食べるのは私、後片づけは他人の仕事」が常識の香港では、てっとりばやく飲食禁止にしたほうが車内の清潔さを保つために有効だ、という結論なのだろう。確かにいつ見ても車内はピカピカ、お菓子の袋ひとつ落ちているのを見たことがない。
実は、香港の面積は東京都の約半分。とても小さな地域なので、そんなに長く電車に乗っているということがない。個人的な実感としても、5~6駅ぐらい乗ると「ああ、今日は長く乗ったなあ」と思うぐらい。そういうこともあって、飲食禁止にしてもさほど困るということがないのだろう。
もちろん日本でも、車内での飲食マナーについては近ごろインターネット上での激論が交わされている話題。しかし、通勤電車であっても飲み物やちょっとしたお菓子ぐらいならばとやかく言う人は少ないのではないか。一律に禁止にしてしまうことは簡単だが、個人的には今のままの環境であってほしい。
新幹線でのビールとおつまみ、長距離列車での駅弁。冷凍みかんにアイス。バスの中で食べる遠足のおやつ。日本人の生活と文化は、昔から交通機関での飲食と深いかかわりがあると思うのだ。通勤電車内での飲食はまた事情が違うのは当然だが、そこは時間に追われる日本人。
もちろん香港の交通機関でも、水をひと口飲んだとたんに職員が飛んできて「罰金を払え!」と言われるようなレベルで飲食禁止が徹底されているわけではない。ただ、小心者の私は子どもがぐずってお菓子をあげるときも緊張してしまうし、(私は今まで何か言われた経験はないけれど、友人は乗客に注意されたと言っていた)目的地まで急いでいて、ふと電車を待つ間に水分がとりたくなっても改札内では飲めなかったりするたびに、日本はいいよなあと思う。そして日本に帰るたびに、駅のホームや電車の中で堂々と飲み物を飲みながら「この解放感、周りの人にはわかるまい」とひとりで幸福をかみしめている。
(宇田川理絵)
香港での暮らしがスタートして2年半。未だに慣れないのだが、地下鉄やバスの車内には飲食禁止のマークがあるし、アナウンスでも呼びかけている。
特に地下鉄では「paid area」、つまり改札を入った瞬間から、電車に乗って目的地の改札を出るまでは飲食禁止なのだ。そんなわけで、私はよく改札の直前であわてて水を飲んでいる。
もちろんペットボトルで水分を飲んだり、子どもにお菓子をあげたり、パンのようなものを食べている人々もいることはいる。しかしごく少数で、大半の乗客はおとなしく守っているといえるだろう。
2012年の1月には、こんな事件が起きた。中国本土から来た女性が、香港の地下鉄車内で子どもにお菓子を食べさせていたところ、地元の乗客がそれを注意した。すると女性は「私たちは本土から来た」「子どもなんだから」と反論し、地元の乗客は「とにかく謝れ」と周囲を巻きこんだ口論に発展。口論の様子が動画サイトに投稿されると、ネット上で大きな話題になった。
私も以前はなぜ飲食禁止にするのか、その理由がよくわからなかったのだが、周囲に聞いてみたところ「車内が汚れる、衛生面でもよくない」とのこと。
ファストフードやカフェでは自分で片づけるのが当たり前、セルフサービスの食堂なども多い日本と違って、香港では例えマクドナルドであっても、片づけ専門の人間がいるのが普通。「食べるのは私、後片づけは他人の仕事」が常識の香港では、てっとりばやく飲食禁止にしたほうが車内の清潔さを保つために有効だ、という結論なのだろう。確かにいつ見ても車内はピカピカ、お菓子の袋ひとつ落ちているのを見たことがない。
実は、香港の面積は東京都の約半分。とても小さな地域なので、そんなに長く電車に乗っているということがない。個人的な実感としても、5~6駅ぐらい乗ると「ああ、今日は長く乗ったなあ」と思うぐらい。そういうこともあって、飲食禁止にしてもさほど困るということがないのだろう。
もちろん日本でも、車内での飲食マナーについては近ごろインターネット上での激論が交わされている話題。しかし、通勤電車であっても飲み物やちょっとしたお菓子ぐらいならばとやかく言う人は少ないのではないか。一律に禁止にしてしまうことは簡単だが、個人的には今のままの環境であってほしい。
新幹線でのビールとおつまみ、長距離列車での駅弁。冷凍みかんにアイス。バスの中で食べる遠足のおやつ。日本人の生活と文化は、昔から交通機関での飲食と深いかかわりがあると思うのだ。通勤電車内での飲食はまた事情が違うのは当然だが、そこは時間に追われる日本人。
朝食を食べ忘れた学生やお昼を食べる時間もないサラリーマンなどが、さりげなく栄養補給できる場であってもいいのではないだろうか。もちろん、最低限のマナーは必要だが。
もちろん香港の交通機関でも、水をひと口飲んだとたんに職員が飛んできて「罰金を払え!」と言われるようなレベルで飲食禁止が徹底されているわけではない。ただ、小心者の私は子どもがぐずってお菓子をあげるときも緊張してしまうし、(私は今まで何か言われた経験はないけれど、友人は乗客に注意されたと言っていた)目的地まで急いでいて、ふと電車を待つ間に水分がとりたくなっても改札内では飲めなかったりするたびに、日本はいいよなあと思う。そして日本に帰るたびに、駅のホームや電車の中で堂々と飲み物を飲みながら「この解放感、周りの人にはわかるまい」とひとりで幸福をかみしめている。
(宇田川理絵)
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