先週からドラマ『孤独のグルメ』Season4が始まった。
原作は作・久住昌之、画・谷口ゴローによる同名コミック。個人で輸入雑貨商を営む中年男・五郎が、ただひたすら一人でめしを食べる。それだけのお話だ。いわゆるパワーランチの対極にあるのが『孤独のグルメ』である。
ドラマではオリジナルストーリーが展開されているが、原作の根っこの部分はしっかりと受け継がれている。とにかく、五郎が素朴かつうまそうなめしをがつがつと食べるのだ。
このドラマが放送される深夜12時頃といえば、だいたいの人は小腹が空く頃合いである。そこで画面で繰り広げられるのは、まさしく“夜食テロ”。ツイッターには「腹減った!」「うまそう!」という人々の叫びが乱舞し、空腹バズが起こる。視聴者の食欲をがっちりとホールドしつつ、「明日は誰がなんといおうとうまい昼めしを食べよう」と思わせる。場合によっては無謀な夜食に追いやってしまう。
Season4の第1話は「東京都清瀬市のもやしと肉のピリ辛イタメ」。仕事で清瀬駅に降り立った五郎は、南口の商店街を歩く。焼き鳥屋の店頭を流しつつ「なーんか、いいんじゃないの、清瀬」とつぶやくあたり、最近流行りの街歩くバラエティの要素も取り入れているようにも見える。
健康麻雀に励む依頼主との商談をとりまとめ、再び清瀬の商店街に戻る五郎。仕事がうまくいけば腹も減る。五郎は行きがけに見た焼き鳥屋に隣接する定食屋「みゆき食堂」に飛び込む。五郎が店を選ぶときのチェックポイントは、まず店先に張り出された豊富なメニュー。そして「出てきた客の顔がいい」。そして最後は「直感に従おうじゃないか」――。
店に入ってからも五郎は「店の雰囲気にのまれるな」「落ち着いて打つべきボールを見極めるのだ」などと独特のこだわりを心の中で呟き続ける。他の客が頼んだ注文を聞いて「なるほど、盤石の組み合わせ。
五郎が注文したのは、タイトル通り「もやしと肉のピリ辛イタメ」。大きな皿にボリュームたっぷりのもやしと肉の炒めものが乗っている逸品だ。見ただけで「これこれ、そそるなぁ」「ニラにニンジンも入ってる。こういう裏切りウェルカム」と大喜びの五郎。食べ始めてからも「間違いない。ピリ辛指数、俺にジャスト」「ここにごはんがある幸せ」と満足そうだ。これで300円なのだから恐れ入る。ついでに頼んだ「味噌にんにく 青唐辛子入り」も「これはいい! すごくいい。白いごはんに最強」と大当たり。
さらに餃子や焼き鳥を追加で頼みながら、カメラはシズル感たっぷりに食べ続ける五郎の姿をえんえんと映し続ける。残ったもやしいためを白めしにぶっかけてかきこみながら、「いいめしだ。
『孤独のグルメ』にあふれる多幸感と満足感
ところで、原作の五郎はいつも所在がない。それはめしを食べるときも同じだ。
何をどこで食べようかと迷ったあげくに飛び込んだ店は、労務者の多い定食屋、オバサンだらけの回転寿司屋、誰もいない焼肉屋……。そして所在なさげに食べるめしが、いつも当たりとは限らない。なんとなく違和感を抱えながら店を出ることも少なくないのだ。
ドラマ『孤独のグルメ』は、五郎の抱える所在なさを、食べることではなく、それ以前のドラマパートに腑分けして処理しているように見える。今回で言えば、依頼主が健康麻雀をやっているのを五郎がただ見ているだけのシーンだ。五郎は見事に所在がない。
しかし、食事のパートに入ったら、スカッとうまいものをもりもり食べる。
ドラマの五郎は漫画の五郎に比べて、満足度がとても高いのである。
これは視聴者の「食べたい!」という生理的欲求を気持ちよく刺激するための策だろう。ドラマの五郎は原作のように「俺…いったいなにやってんだろ」とわびしさを噛みしめながらコンビニめしを食べることはない。そんなことをしていては視聴者だってわびしくなってしまう。幸せな空腹感を抱えたまま、寝床に入ることができない。
ドラマの中の五郎の満足感と多幸感は、番組の最後のミニコーナー「ふらっとQUSUMI」で、ドラマに登場した店で「これですよ、これ!」「この良さがわからない人とは友達になれない!」と言いながら酒と食事を楽しむ原作者・久住昌之のエビス顔と重なるものがある。久住については、以前「食べログを否定する久住昌之の最新作『野武士のグルメ』」という記事を書いたので、よろしければそちらもぜひ。
ドラマ『孤独のグルメ』は正しく視聴者の腹を減らせるため、とても効果的に作られたドラマである。今日の放送は「中央区銀座の韓国風天ぷらと参鶏湯ラーメン」だ。なんだかわからないが、きっとうまいに違いない。
(大山くまお)