テレビ東京系「孤独のグルメ Season8」が10月4日に放送開始。個人で輸入雑貨商を営む井之頭五郎(松重豊)が、1人で食事を楽しむ様子を描いただけでSeason8。
もはや偉業だ。

毎週楽しみにしてもいいし、休日に一気見しても楽しいし、とりあえず流しっぱなしにして家事のBGMにも使える、とりあえず録画しておいて損はないタイプのドラマ。別にワンシーンくらい見逃したって平気なので、「観るぞ!」という気合がいらない、再生ボタンを気軽に押せる嬉しいドラマだ。
「孤独のグルメSeason8」大魔神佐々木と五郎さんがアヒルのパリパリ揚げを手づかみで食べた理由は?

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人生に悩む八嶋智人と、店探しに悩む五郎さん


では、食べてるだけで話に繋がりがないのか?と言われればそうでもない。個人で輸入雑貨商を営む五郎さんは、ほぼ毎回、取引先とのやりとりを終えて、「腹が減った……」と出先で店を探すのだが、このドラマパートがグルメパートに関係していたりしなかったりする。

第1話は、占い師・ワン先生(八嶋智人)が、占い師でありながら自分の人生に“悩む”という話だ。今回の五郎さんの店探しは、いつもより徘徊が多めで、明らかに“悩んで”いた。
まぁ、だからなんだってレベルの繋がりなので、前述した通り見逃したって支障はないが、気付いたら気付いたでちょっと楽しい。ドラマパートとグルメパートのつなぎ目には、「腹が、減った……」と「腹が、減ってきた……」の2通りがあるのだが、もしかしたら細かな心情の違いで使い分けているのかもしれない。

佐々木主浩の常連感と大魔神感


迷いに迷った五郎さんは、「中華釜飯」に惹かれて広東料理「南粤美食」(なんえつびしょく)に入店。
「ピータンに紅ショウガって合うね」

「はい〜、丸鶏の塩蒸しで〜す」

と五郎さんの耳には、さっそくこの店ならでは会話が飛び込んでくる。孤独を愛するクセに人から影響を受けまくる五郎さんは、こういった情報を見逃さない。

「郷に入っては郷に従え」が流儀なのか、わからないことは店員さんに聞くし、人が食べていて美味しそうなものがあったら「あれを下さい」と頼む。普通のグルメ番組では当たり前の行為だが、ドラマでやるから素直でかわいい。


横浜中華街だからか、「南粤美食」には、元横浜ベイスターズの大魔神こと佐々木主浩が常連客としていた。佐々木は、頼んだ「アヒルのパリパリ揚げ 梅ソースつき」を手づかみでかぶりつく。小さな骨はついているものの、箸なんて使わず、バリバリかぶりついてはビールをゴクゴク飲む。その豪快さには、常連感も大魔神感も滲み出ていて気持ちがいい。

郷に入っては郷に従え


そんな気持ちのいい食事を見せつけられたのだから、ミーハーの五郎さんは注文せずにはいられない。さっそく店のお母さん(榊原郁恵)に注文し、アヒルが油を何度もかけられてパリパリになっていく様を見届ける。

「この音、俺のアヒルが鳴っている」

五郎さんは、食事を最大限に楽しむコツを知っている。
スマホや新聞なんか読まずに、調理場を覗くことで、自分が注文した料理の期待値を上げ、さらに腹を空かせる。こうして届いたアヒルのパリパリ揚げを、郷に入っては郷に従え、佐々木と同じように手づかみでかぶりつく。

「うわ、こ、これはやられた。お手上げ、これだけで本日の中華勝負、ほぼ勝利確定」

じんわり緩める表情とは裏腹に、一気にテンションが上がる様が、「孤独のグルメ」の大きな見どころのひとつ。普通のグルメ番組ではありえない、内々に秘めた心の食レポが、人の腹を空かさせている。

榊原郁恵の「美味しかった?」


他にも、腸詰め干し肉貝柱釜飯、香港海老雲呑麺、丸鶏の塩蒸し焼き(半羽)を注文した五郎さん。
お会計はランチにしてなんと4710円だ。酒も飲まずに一心不乱に食べまくった五郎さんに、榊原郁恵は「美味しかった?」と声をかける。

このトーンがまた絶妙。年齢もそう離れていない初めて会う大男に、タメ口で「美味しかった?」。まるで近くの高校の野球部連中に声をかけるように、「美味しかった?」だ。周りの目を気にせず遠慮なく食欲を全開にした五郎さんを、榊原郁恵はフレームの外で微笑みながら見守っていたことが伝わってくる。
店の自慢の料理を本気で楽しむ五郎さんの姿が嬉しかったのが伝わってくる。五郎さんの心の声を、榊原郁恵は聞いていたのだ。

満足げに店を去る五郎さんと、それを見送る榊原郁恵。そこには、グルメ番組にはない確かなドラマがあった。
(沢野奈津夫)

・「孤独のグルメ Season8」
放送時間:金曜24時12分〜
出演:松重豊、八嶋智人、榊原郁恵、佐々木主浩、フィガロ・ツェン
原作:原作/久住昌之・画/谷口ジロー
音楽:The Screen Tones
久住昌之、フクムラサトシ、Shake、河野文彦、栗木健
オープニングテーマ:「Goo,Goo,Goro!」
作曲:久住昌之
演奏:The Screen Tones
エンディングテーマ:「五郎の12PM」
作曲:久住昌之
歌:伝美
脚本:田口佳宏 児玉頼子
演出:井川尊史 北畑龍一 北尾賢人