連続一家心中事件、認知症の老人介護、アル中によるDV、夫に尽くそうとするあまり精神を病む妻、老人ホーム詐欺、執拗に結婚を迫る女、人間に火をつけるという残酷な行為・・・ドラマ「家族狩り」(TBS金曜10時〜)は、ひたすら辛いことばかり起こり続けて、いたたまれない。案の定、視聴率は苦戦状態だ。

裏番組の攻撃は容赦ない。ジブリ3連弾のあとには、ヱヴァ3連弾(プラス『巨神兵東京に現る 劇場版』まで)が控えていて、これはもう、日本テレビによる裏番組狩りではないか。

こうなったら、徹底的に痛ましさを描き続けていただきたい、と半ば、マゾヒスティックな気分で見ているのだが、この痛ましさは、主に女性の登場人物が担っている。みなさん、どこか、病んでいる。

まずは、ハイテンション女・馬見原佐和子(秋山菜津子)。
刑事である夫・光毅(遠藤憲一)の仕事がハードで、精神疾患を煩ってしまったものの、もう一度、家族をやり直そうと、健気にがんばっている。
夫のケータイの電話番号を自分のケータイに「入力して、入力して、入力して」とハイテンション。仕事中にかけてくるな、と言われたにもかかわらず、日中電話してきて「出たー」とはしゃぐ。
そのとき、夫は、妻に隠れて、心の癒しにしている子持ちの綾女(水野美紀)をそっと見守っているところ。電話を切ったあとの佐和子の表情は、何かを感づいているんじゃないかとも思わせる。
そして、綾女の夫で刑務所からでてきたばかりの、危ないひと・油井善博(谷田歩)の策略で、綾女に、バラの花束を無邪気に届けに行く(カードには、目の前の女は馬見原の妻と書いてある。こわ!)。

朝、妻がクスリ(抗鬱剤のようなもの? 飲むと気分がハイになる)を飲むところを、コップと口元のアップで見せ、それを見た夫がそそくさと出かけようとするところは、妻の妙に高いテンションが辛いんだなあと思わせる。遠藤憲一(夫)が、物腰が柔らかく、やや薄幸そうな綾女に癒しを求める気持ちもなんとなくわかる・・・。

次は、責任転嫁女。氷崎游子(松雪泰子)の母・民子(浅田美代子)。
認知症の夫・清太郎(井上真樹夫)の介護に疲れ、老人ホームに預けることを決意。思い立ったが吉日とばかり、早急に自宅を売却、1千万円をつくって、業者に振り込んだら、なんと詐欺だった。

「急ぎ過ぎ」と注意していた游子に、「ちゃんとした老人ホームを探してくれていたら、こんなことにならなかったのよ」と責め、「何度も何度もいわれなきゃわからない。私は年をとってるんだから」と完全に開き直る。
どう考えても、脇目もふらず、慌てて、老人ホームと契約して、夫を厄介払いしようとしていた感じなのに。
いたたまれなくなった游子が家を出て行くと言うと「いてくれないと困る」とわがまま放題。こんな母親いやすぎる!
それにしても、詐欺に遭ったことを知り愕然となる母娘が、キッチンの床にしゃがみこむ姿が、物寂しかった。

そして、レビュー第一回で話題沸騰の「わたし、生むから女」こと清岡美歩(山口紗弥加)。
恋人・巣藤浚介(伊藤淳史)に、お店の中で、一目もはばからず「えっちしたよね」「責任とって」と大声で問いつめたかと思えば、両親を家(浚介の)に呼んで、一気に結婚に持ち込もうとする。
設定では、美歩は、浚介より7歳年上。「七つ違いは鉦や太鼓で探せ」と好まれるはずなのだが、全然、ありがたいところがない。

美歩は、結婚問題だけでなく、対人関係に問題がいっぱい。1話では、近所で悲鳴が聞こえたら、「猫の声」だと言い張り、関わり合いにならないようにしてしまうし、3話では、登校拒否をしている担任の生徒を、学校の方針で訪ねたものの、ちゃんと本人と話さない。その子に対するあからさまな嫌悪感をあらわにする。


他者に対する思いやりがまったくなく、ひたすら自分の欲望達成のために邁進する美歩。「愛し合う夫婦が、家族をつくり、子供をつくり、支え合いながら生きる。それがひとの幸せでしょ」と語るが、前提である愛に対する認識が間違っちゃっているのだから、困りものだ。こういう人が教師やっているなんて、世も末。

嗚呼、もう、どいつもこいつも、身近にいたら、うんざりしてしまうような人物描写。
実際、かかわりあう者たちの神経は苛まれるばかり。
だったら、かかわりを断てればいいのに、「家族」という血のつながり、もしくは、婚姻届による契約、交接による仮契約的な認識が、そうできなくしている。
「家族」という名の鎖は、ほんとうにそんなに強固なのか。ほんとは、外すことができるのに、外さないだけなのでは? そんなこと思いながら、ドラマを見続けていると、いとうあさこのネタではないが、無性にいらいらするのだ。

さすがに、これ以上、空気を沈めるのは限界だったか、3話では、気分を上向きにしようという努力が見られた。
アル中でDVの駒田幸一(岡田浩暉)から遠ざけられて、保護施設に入れられた娘・玲子(信田真妃)が、ご飯を食べないという抵抗を試みると、游子は「私が憎かったら本気で倒しにくればいいじゃない。ご飯をしっかり食べて力つけてかかってきなさいよ」と発破をかける。
辛いことばっかりの世の中でも、游子は絶対に「負けない」ガッツのある人物として描かれる。とはいえ、さすがに、老人ホーム詐欺では落ち込んでしまうと、浚介が「現実なんて私が変えてやる。バンバン(机を叩く音)でしょ」と励ます。
で、遊園地の乗り物に乗りながら、叫んで、気分転換したのち、あっという間に、老人ホーム詐欺問題は解決。しかも、それは、あの認知症の清太郎の、過去の行いが良かったからで、游子が現実を変えたわけではない。むむむ。こうなるとちょっと拍子抜けしてしまった。
負けない女も、病みの一種だと思う。

それにしてもこのドラマ、とことん辛い悲劇を描く中で、病んだ女性ばかり登場させるのは、なぜなのか?
さて、3話のおわり、浚介が、ホームレスの火あぶりにする男たちの巻き添えになってしまう。4話でもまだまだ悲劇は続きそうだ。
(木俣冬)