アンダーグラウンド・エクストリーム・ミュージックの祭典「OBSCENE EXTREME ASIA 2015」に行ってきた。
バナナの着ぐるみ大暴れ「OBSCENE EXTREME ASIA 2015」

母体となる「Obscene Extreme Festival」は1999年にチェコで誕生。
そのワールドツアー版がこのフェスだ。
開催は、2015年11/20(金)~23(月)。会場は、20・23が「浅草 Kurawood」、21・22が「吉祥寺Club SEATA」だった。全日程に通うことは叶わず、20・22の2日間のみの参加となった。

この週末は、他にもオジー・オズボーン主催の「OZZFEST JAPAN 2015」(11/21/22)、スラッジ/ドゥームバンドの大御所Melvinsが出演する「Hostess Club Weekender」(11/22)があり、ラウドミュージック・ファンは大いに悩んだことだろう。

私はといえば、Melvinsだけはものすごーーーく見たくて迷ったが、同イベントに他に見たいアーティストがいなかったため諦めたのだった。


何でもアリのお祭り騒ぎ


「Obscene Extreme Festival」は、ライブ・イベントではあるが、基本「お祭り」だ。しかも、限りなく自由な。

「ここから先は入っちゃいけません」という仕切りもナシ。バンドの演奏中にステージに登ってもOK、ステージダイブももちろんOKだ。なんならコスプレしたって構わない。ヴィーガンフード(菜食料理)のお店を入れていたのも、そうした主義・思想の自由を表明してのことだろう。

ちなみに、ケータリングを担当していたのは高円寺のヴィーガン料理店「VESPERA」
長丁場ゆえに途中でお腹が空き、ここの「ファラフェル・サンド」をいただいた。おからコロッケをめちゃくちゃクリスピーにしたような味・食感(正確には、ファラフェルの材料はひよこ豆だが)で、スパイスの香りが食欲を誘う。「動物性の原料は一切使っていないけど、パンチのある味」と説明があったが、まったくその通りだった。すっかり気に入ってしまった。
バナナの着ぐるみ大暴れ「OBSCENE EXTREME ASIA 2015」
ヴィーガン料理店「VESPERA」のファラフェル・サンド。動物性の原料不使用でこの味はスゴイ!

もはや“人種のるつぼ” ワールドワイドな出演者たち


私が行った2日間の出演バンドは、以下の通り。


11/20(金)@浅草 Kurawood
ANAL VOLCANO(日本)
RECTAL SMEGMA(オランダ)
2 MINUTA DREKA(イタリア)
ROMPEPROP(オランダ)
MERZBOW+SELF DECONSTRUCTION(日本)
S.O.B.(日本)

11/22(日)@東京 Club SEATA
CORBATA(日本)
NOT A NAME SOLDIERS(日本)
SU19B(日本)
FUCK ON THE BEACH(日本)
GONGURI(韓国)
SEDEM MINUT STRACHU(スロバキア)
DECHE-CHARGE(カナダ)
ANATOMIA(日本)
MELT BANANA(日本)
MALIGNANT TUMOUR(チェコ)
MASTER(アメリカ)


こんなにもさまざまな国のバンドが一堂に会する機会は稀だろう。

グラインドはダンス・ミュージックです。


どのバンドも面白かったが、とりわけ印象に残ったものをいくつか紹介。

まずは11/20(金)。

RECTAL SMEGMAは、ヴォーカルのマッチョな上半身同様に、演奏がめちゃくちゃタイト。即身体が反応してしまう音・リズムに、フロアはモッシュとダンスがごちゃ混ぜになったカオス状態に。誰が持ち込んだのか、ダッチワイフが飛び交い、バナナの着ぐるみの人が暴れ、セーラー服姿の男が宙を舞う。ピカチュウ(?)を模したとおぼしき全身タイツの人もいた。


2 MINUTA DREKAは、Judas Priestのロブ・ハルフォードがヘンタイ化したようなルックス(要するにスキンヘッド+サングラス)のヴォーカルが、曲紹介のたびに片言で卑猥なフレーズを連呼。さらには、マイクをやたらと股間に擦りつけ「ヘンタイでーす!」などと叫ぶ。独特のネットリ感をたたえた演奏が耳に残った。

ROMPEPROPは、今回もっとも楽しみにしていたバンドの1つ。陽気なオープニング曲から怒涛のグラインド・チューンに突入すれば、あとはもう一気呵成に踊り/暴れ狂うのみ。下水道を思わせるゴボゴボヴォーカルを生で聴けて大満足。
メンバーの血まみれルックも格好いい。

そして、そんなパーティー・パートの浮かれムードを一瞬にして変えたのが、ジャパニーズ・ノイズ・ミュージックのパイオニアMERZBOWと、グラインドコア・バンドSELF DECONSTRUCTIONのコンビ。空間を埋め尽くす濃密なノイズと、それを切り裂く女性ヴォーカルの気合入りまくった絶叫が圧巻だった。終了後、空になったステージを前にしばし呆然……。

ベテラン勢による貫禄のステージ


11/22(日)は、20日に比べるとやや落ち着いた雰囲気であった。会場が浅草に比べて広く、ゆったり見られたことも影響していたかもしれない。また、SU19B、GONGURI、ANATOMIAといった、暗くヘヴィな曲調のバンドが多かったことも無関係ではないだろう。


そんな中、最初にカッ飛ばしてくれたのがFUCK ON THE BEACHだ。まだ早い時間(15時台)だったこともあり、十分にノリがいいとは言えない観客を前に、最後の曲「FUCK ON THE BEACH」を披露。短い曲なので、あっと言う間に終わ……らない! 終わりそうになると、また頭から曲がリピートされる。そして、「とはいえ、そろそろ終わるよな」という予想を延々と裏切り続け、結局2分程度の曲を10分近くにわたって演奏していた。これには皆大受け。さすがベテラン、これぞ“芸”である。

そしてこの日、もっとも客席を沸かせたバンドの1つがMELT BANANAだった。いわゆる楽器のみの演奏の後に、彼らのようなPCを用いたバンドが演奏をすると、迫力面で弱さを感じることも多い。しかし、活動歴20年以上のこの2人組に、そんな心配はまったくもって無用だった。血管に興奮剤をブチ込まれたかのように、会場は一瞬にして沸騰! 

それでもって、トリも1983年結成のベテラン、デスメタル界の重鎮Masterである。曲間のMCこそ穏やかだが、曲が始まれば途端にまがまがしい雰囲気が会場に満ちる。そして、激しくも、渋い。ガキには逆立ちしても出せない凄みある音である。本来、若者の音楽であったロックの(しかもデスメタルの)、1つの円熟のカタチを見た。サイズ切れでTシャツが買えなかったことだけが悔やまれる。

多様な“過激さ”に満ちたフェス


バナナの着ぐるみ大暴れ「OBSCENE EXTREME ASIA 2015」
会場の床に落ちていた、ちぎれたギター弦がライブの激しさを物語る。

近年、日本でもエクストリーム系音楽のフェスが盛んだ。

例えば、SUMAC、BORIS、ENDONなど轟音系のバンドを多数集めた「leave them all behind 2015」や、Downfall of Gaia、Vampilliaなどハードコア〜(ポスト)ブラックメタル系バンド14組を集めた「TJLA FEST 2015」などは、質・ボリューム共にひじょうに充実した内容だった。

こうした国内外の個性的なバンドをまとめて見ることのできる貴重な機会のなかでも、
「OBSCENE EXTREME ASIA 2015」の多様さ、間口の広さは特筆に価する。

グラインド、ノイズ、ハードコア、ドゥーム/スラッジ、ロックンロール、デスメタル……。

この、エクストリーム・ミュージック見本市のごときフェスに登場するバンドの音楽性は、じつにさまざま。しかし、大きな共通点がある。それは、どのバンドも各々のスタイルで、各々が志向する“過激さ”に向けて、めいっぱい針を振り切っていることだ。

カッティングエッジであり続けることの矜持に満ちた、素晴らしいパフォーマンスの数々に、「また来年も」を期待せずにはいられない。

(辻本力)