又吉直樹作、第153回芥川賞受賞作品「火花」。“一杯目からハイボール”“別れ際のおやすみ”徳永、神谷の影響がますます強くなってきた。


あらすじ


神谷が上京してきて、二人の日々が始まった。徳永の神谷への憧れはどんどん増していく。しかし、オーディションではメチャクチャに言われ、しょうもない後輩から神谷への陰口を聞かされ、理想と理想に準ずる事が出来ない自分との間に壁を感じていた。そんなある日、突然、手応えを感じなかったオーディションの合格の連絡を受けた。
又吉直樹原作ドラマ「火花」徳永はなぜ自転車に乗らないのか
イラスト/小西りえこ

夜は、息が出来る……


徳永はおそらく自転車を持っていない。もし、持っていたとしても普段使用することはなさそうだ。駅からも遠そうな金のない高円寺暮らし、自転車は必ずではないがまぁ持っておいた方がいいはずアイテムだ。コンビで行動する時は必ず相方の山下(井下吉井・好井まさお)の後ろに乗せてもらう。相方の自転車を公園で乗り回しているシーンから、乗る事自体は好きそうにも見える。

ではなぜ歩くのだろうか? それは考え事をしたいからだ。歩いていたら新しい企画のアイデアを思いついた、物思いにふけりすぎて気づいたら家だった、誰しも経験がある事だろう。

もちろん徳永が何を考えているかと言ったらネタの事だろう。相方と別れた後はインコの事ばかりを考えて歩いているはずだ。しかし、集中しながらも通行人や看板や話し声にぼんやりと眼と耳を傾ける。
「街の知らない誰かが喋った事を、インコが喋ったら面白い」となる可能性もあるからだ。そして家に帰ってノートにそれをまとめているのだ。

そんな描写は一切ないが、徳永は夜寝る前に考え事をすると眠れなくなるタイプに思える。ネタの事を考え出すと、布団に入っても目が覚めてしまう。そこで家に帰る前に全てをまとめ、ノートに書くことでスッパリとスイッチを切る。もちろんそんなに上手くいくかはわからない。だが、その為に徳永は自転車を使わずに歩いているのだ。

吉祥寺から高円寺までの2時間


しかし、そんな徳永も他の事を考える事もある。それが神谷の事だ。神谷が言ったことを整理する為に、第2話ではその神谷の誘いを断ってまで、吉祥寺から高円寺まで歩いて帰った。おそらく2時間ぐらいだろうか。「批評をやり始めたら、漫才師としての能力は絶対に落ちる」「もし俺が人の作った物を批判ばっかりしたら、その時は殺してくれ。
漫才師で俺はありたい」。徳永にとって神谷の金言を咀嚼するには、もしかしたら2時間では足りないのかもしれない。

第3話、スパークスは一足先に大きな舞台で漫才をすることになる。この事で師匠と弟子という関係にどういった変化が訪れるのだろうか。再放送は日曜午後4時10分からだ。

(沢野奈津夫)
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