近年、フランス人のライフスタイルを紹介する書籍が何冊も刊行されています。タイトルを見ると、「年をとるほど美しい」「太らない」「夜泣きをしない」などなど。
暮らしの参考になる点がたくさんあるようですが、SNSなどでは「フランス人に幻想を抱きすぎでは?」という声もあります。そこで、『地球の歩き方』特派員でパリ在住のジャーナリスト・加藤亨延さんに「フランス人すごい本」を検証してもらいました。

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『フランス人は年をとるほど美しい』のはなぜか【フランス人すごい本を検証】

ドラ・トーザン著『フランス人は年をとるほど美しい』は、フランス人がフランスのことを書いているという点では本当のフランス本だ。同書では「女はボルドーワインと同じ。時間を経て美味しくなる」というフレーズを核に、日本女性(もしくは日本人全般)は年齢や社会にある固定概念にとらわれず、もっと自分自身に正直に生きてもいいのでは、ということを自国フランスと比較しつつ提案している。

ジェニファー・L・スコット著『フランス人は10着しか服をもたない』など英語から翻訳されたフランス本とは異なり、エッセイスト・国際ジャーナリストとして日仏を行き来している著書が、日本人に向けて書いた本である。

日本人はもっとわがままに生きるべき


まず本書は、冒頭で「正しく年をとるにはどうすべきか?」と読者に問いかける。

自由に生きる。自分らしく生きる。我慢しない。わがままになる。いつまでも女であり続ける。美味しいものを食べる。
アムール(愛)を忘れない。


引用に含まれる「わがまま」というのは、著者の定義によれば「自己中心的な振る舞いではなく、自分らしく生きるためのちょっとした自己主張の方法」ということ。自由に生きることは自分を幸福にし、その醸し出される幸せにより、周囲も幸福にする。例えば、「わがまま」な著者は人から好かれても嫌われることはなかった、と自らの経験を引き合いに出している。

自分に正直に生き、馬の合う人と時間を過ごし、自分が欠点だと思っていることがあっても視点を変え、年齢にとらわれず、もっと自分を好きになり、人生を楽しく生きることが大切なのだ、と著者は言う。何歳になっても自己肯定感を高めれば人間的に魅力は増していく、というわけだ。
『フランス人は年をとるほど美しい』のはなぜか【フランス人すごい本を検証】

加えて、フランス人女性のように「女性であり続ける」「シンプルシックに暮らす」ために、「香水をつける」「呼吸しているように『愛している』と言う」「ワードローブは選び抜いたアイテムをそろえる」「自分の時間について考える」といったパリジェンヌ流の秘訣も紹介している。


日本人と比べて自己肯定感が高いフランス人


著者が言うように、日本人と比べてフランス人は自己肯定感が高い人たちなのだろうか? 日本を含む7カ国の13~29歳の若者を対象に内閣府が行なった「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」で、こんな結果が出ている。

「自分自身に満足しているか」という問いに対し、「そう思う」と答えた人の割合は日本では45.8%だった。しかしフランスでは82.7%とかなり高い(ただし同調査ではフランスだけ突出しているわけではなく、米国、英国、ドイツも8割を超えている)。
「自分には長所があるか」との問いにも、日本の68.9%に対しフランスは91.4%(前出の問いと同様に、米国、英国、ドイツも9割前後で推移)。「40歳になった時に幸せになっているか」では「そう思う」と答えた人が日本は66.2%、フランスは87.4%という結果となった(米国、英国、ドイツも8割後半)。

つまり日本とフランスを比べると、フランスの方が自分に対して肯定的な人は多いのだ。
同調査と照らし合わせる限りでは、著者が言うように「日本人はフランス人のように、もっと自分のことを知り、好きになるべき」という主張は、うなずける面があると言えよう。
『フランス人は年をとるほど美しい』のはなぜか【フランス人すごい本を検証】


一方向のみの考察で終わった残念さ


ただ本書で惜しむべきは、フランス人の良い面の提案に終始したということである。もちろん、その提案理由には一理あるのだが、良い面のみを並べただけにより、内容が起伏のないものになってしまった。何事も光があれば影もある。フランス人のように各々が主張を曲げず貫いた結果、そこには何も問題は生じないのか。フランスの利点は挙げても、その利点が引き起こすだろう影の部分と、その対応策にはほとんど触れなかった。

「フランスの方が良い」「日本の方が良い」というのではなく、日仏両国の社会をつなげ精通している著者だからこそ、文化や慣習、およびそれらが取り巻く功罪をもう少し深く精査し、重層的にフランス人というものを読者に提示できたはずだ。

本書の通読には、普通の速さで読み進め、終えるまで1時間ほどだった。カフェでおしゃべりをするように足取りは軽くページが進むものの、同じような感覚で、内に入った言葉が次々と外へ走り去ってしまう。著者はシンプルシックな暮らしを勧め、「消費が娯楽、消費が豊かさ、という感覚がない」と、大量消費社会に対してフランス人が持つ批判的気風を紹介する。しかし、それを説いている肝心の本書が、多面的な考察も少なく大量生産品のような形になってしまったことに、とても悔やまれるのである。
(加藤亨延)
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