連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第19週「ただいま。おかえり。」第113回 8月11日(金)放送より。
 
脚本:岡田惠和 演出:黒崎 博
「ひよっこ」113話。田植えのやり方はカラダが覚えていた
イラスト/小西りえこ

113話はこんな話


雨の中、田植えがはじまった。
手際よく苗を植える実(沢村一樹)を見て、家族は目を見張る。

笑って忘れる


田植えだけで15分。この牧歌的なパターンは、「ひよっこ」では土曜日によくあること。113回は金曜日だが、祝日、3連休のはじまりの日なので、なっとくだ。
家の傍らに、鯉のぼりがあって、5月らしさがそこにも出ていた。美術スタッフの細かい仕事が、故郷をより素敵なものに見せていた。

「まだお父ちゃんには戻ってねえんだ」 
そうちよ子(宮原和)が言うように、実は、弟の宗男(峯田和伸)のこともわからないし、きよ(柴田理恵)に初恋の相手だと冗談を言われても否定もできない。
でも、自転車や水泳は一回覚えたら忘れないというのと同じく、田植えのやり方はカラダが覚えていた。

「いいんだよ笑っちまえば」と豪快に笑い飛ばすきよ。
「私だってさできることなら全部忘れちまいたよ、嫁に来てからのこと」と続ける君子(羽田美智子)。
そういえば、以前、君子は、祭りの勢いで結婚してしまったらしきことをこぼしていたっけ。17話レビュー

「強いね茨城の女は」とみね子がしみじみするが、女たちは、とにかく笑う。
女たちの笑い声や歌声は、空気を明るく変えていく。

実、みね子、宗男が次々泥んこになって、笑いはどんどん大きくなる。
有村架純が果敢に泥んこになっていたことを讃えたいが、なんといっても峯田和伸のでんぐり返しの勢いが群を抜いていた。

「おてんとうさまは見てくれてるはずだから、がんばっていればきっとだいじょうぶ」と信じるみね子。
雨もいつの間にかやんでいた。
ロケの日が、終日雨でなく、田植えの終わりのシーンでは晴れていて、ほんとうに良かった。「ひよっこ」、視聴率のアップといい、ツキに恵まれてきていると思う。

話は逸れるが、「おてんとうさまは見てくれてる」というと、「あなたのことはそれほどでも」(4月〜6月に放送されたTBS のW 不倫のドラマ、「ごちそうさん」の東出昌大と「あさが来た」の波瑠が夫婦役で出ていた)を思い出してしまいました。

「まだお父ちゃんには戻ってねえんだ 」


さらに余談だが、ちよ子のこの台詞を聞いて、お父ちゃんがまるで、変身ヒーローものでよくあるエピソードの、変身したきり元に戻れなくなってしまったキャラに見えてきた。
そういえば、沢村一樹も、ヒデ役の磯村勇斗と島谷役の竹内涼真と並び、ライダー仲間だ。16年、磯村も出ていた「劇場版 仮面ライダーゴースト 100の眼魂とゴースト運命の瞬間」に出演し、仮面ライダーゼロスペクターに変身した。
ライダーというと若者俳優の登竜門的なイメージがあるが、沢村一樹、そのとき、とっくに40代。仮面ライダースペクターのお父さんという設定だった。

「ひよっこ」での沢村一樹は、お父さん、働きマンに変身したまま、なんらかのアクシデントで元に戻れなくなってしまったの巻を、目下演じていると、ひと妄想。

さらにいえば、「美女と野獣」や「千と千尋の神隠し」など、ファンタジーにつきものの魔法を、記憶喪失に置き換えて考えても、「ひよっこ」は成立するのではないか。豊かな自然の風景を見ていると、そんなふうにも思えてくる。
故郷・奥茨城村で、茂(古谷一行)の言うように「ゆっくりでいい」から、魔法が溶けますように。
(木俣冬)
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