魚釣りをしながら社長面接。「釣り部採用」の狙いとは
釣り部採用HPより『釣れれば大量・釣れなくても採用』

タクシー業界のドライバー不足が叫ばれる中、名古屋のタクシー会社、中央交通株式会社では、8月9日より、魚釣りをしながら面接を行う「釣り部採用」の募集を開始しました。
今回はこの独特な採用をプロデュースする、株式会社アドヴァンテージにお話を伺いました。


堅苦しい面接はやめて釣りに行こう


魚釣りをしながら社長面接。「釣り部採用」の狙いとは
中央交通株式会社 大和社長


――釣り部採用とは?

「堅苦しい面接はしないで、一緒に釣りに行きましょう。釣りをしながらざっくばらんに話をしてお互いの素を知り合いましょう。知り合った上で価値観が合えば一緒に働きましょう、という採用イベントです。当日朝に集合して、釣りを行う海や川、湖までバスで移動します。その後社長と釣りを楽しみながら面接という流れになっています。道具の貸し出しも行いますので、釣りに興味があれば、釣り初心者の方も歓迎です。8月9日に募集を開始してから、すでにちらほらと応募をいただいている状況です」

――ホームページを見ると『面接時の船代会社負担』『採用された方には希望の釣具10万円相当をプレゼント』とあり、採用に対する本気度を感じます。


「中央交通では社長さんや採用担当者さんが採用に対して非常に熱心で、就職説明会は全国で開始していますし、良い求職者がいれば遠方にも会いに行っています。フットワークが軽く、直近では福岡まで面接に出向いていました。釣具プレゼントについては、社員さんからも『一回辞めてもう一度受けなおそうかな』という声が出るほど、うらやましがられていますよ」

――釣り部採用はどのような経緯で実施されたのでしょうか。

「ひとつめの背景として、中央交通の社内にある『釣り部』の存在があります。社長さんが大の釣り好きで、一泊二日の旅行にたびたび出かけたりと、かなり本格的な活動をしています。もうひとつの背景としてはタクシー業界全体の人材不足ですね。
シニア歓迎、ブランクありOK、未経験関係という部分はこれまでも打ち出していたのですが、それだけでは同業他社との差別化ができず、なかなか採用につながらないという悩みがありました。そこで中央交通独自の面白味として、釣り部の活動をアピールした採用活動をしてみてはどうだろう? ということで提案させていただいたことが、釣り部採用が生まれた経緯です。『もちろん仕事は頑張るけど、趣味の方も充実させていきたい』そう考える求職者さんはたくさんいるはずですし、その中でも『釣り』という部分で共感してもらい、入社していただきたいという思いがあります」

――従来の採用とは違う手法ですが、どんな方が応募してくることを想定していますか?

「『良い人に長く働いてもらいたい』というのが基本的な思いなので、そういう意味では採用の仕方こそ奇抜なんですが、求める人材像が変わったわけではなく、入り口を少し広げたというイメージです。中央交通では、仕事において『何をするか』だけでなく『誰と働くか』を大事にしているので、仕事だけではなく、釣りという共通の趣味を通じて内面の理解を深めていき、長く活躍してくれる方に出会いたいですね」

タクシー業界は実は働きやすい?


――タクシー業界では人材不足が叫ばれていますが、いくつかのタクシー会社の求人票をチェックしてみると、賃金の面でも労働時間の面でも、それほど条件が悪いわけではないように感じます。なぜ人が集まらないのでしょうか?

「タクシー業界に根付いてしまっているネガティブなイメージが大きな要因ですね。『タクシーなんておじさんがやる仕事』『ずっと運転しているだけでつまらなそう』そんな印象から、タクシーのお仕事を敬遠されてしまう求職者の方は残念ながら多い。ですが実際には、働きやすくしっかり稼げる仕事ですし、それはマイナスイメージを排して見てもらえれば理解していただける部分でもあります。
今回の釣り部採用にしても、業界のイメージを自分たちの手で変えていくための取り組みという一面もあります。実際、SNSなどでも拡散してもらい、そういった意味ではある程度の手応えも感じています」

――若者や未経験者が入社するメリットは。

「中央交通が属しているつばめグループには、未経験者に優しい制度や仕組みが充実しています。例えばお客さんが集まりやすい時間や場所を、過去の乗車履歴から分析して事前に検知してくれるシステムを、世界ではじめて導入しています。従来はドライバーの経験知や長年の勘に頼っていた部分を、システム化することで、未経験の方でもすぐに活躍できるようになりました。未経験者歓迎を謳っている以上、未経験者が働きやすい環境を整備するのは当然という考え方ですし、ライフワーク、一生続ける仕事として考えた時にも、安心してもらえるだけの材料が実はきちんとあります」

魚釣りをしながら社長面接。「釣り部採用」の狙いとは
株式会社アドヴァンテージ 広報:佐藤さん


『誰でも良いから来て欲しい』では採用出来ない時代


――アドヴァンテージでは釣り部採用だけではなく、過去にも『焼肉採用』や『野球採用』などユニークな採用イベントを手掛けています。現在の採用市場にはどのような傾向があるのでしょうか?

「これまでの採用は『説明会で200人集めましょう。
そこから書類選考で50人に絞りましょう。さらに何度か面接をして最終的に5人採りましょう』というように、募集の段階ではターゲットを限定せず、とにかく応募人数の母数を増やして、そこから絞り込んでいくというやり方が主流でした。ですが現在では、特に中小企業の場合、就職説明会に100人とか200人を集められないので、そのやり方で人を採ることが難しくなっています」

――従来の手法が通用しなくなっている。その中で企業が人を採るためには何ができるのでしょうか?

「欲しい人材像を明確にする必要があります。『こんな人に来て欲しい』『こんな働き方をしてほしい』といった部分を事細かに定めて、その人に向けて発信することで、マッチングする人材にメッセージが届くようになります。結果、例えば応募が6人しかなかったとしても、そのうち5人が会社にマッチングする人材であれば採用は成功です。
よくある失敗としては、『誰でも良いから欲しい』とか『本当に人が足りなくて困っている。工数をさばけなくてみんな疲弊している。どんな人でも構わないから来て欲しい』というケースです。誰でも良いといっている段階ではなかなか採用に結びつきません」

――就活を恋愛に例えると……というのは使い古された例えですが、『誰でも良いから付き合って』と言うよりは『こういう人と付き合いたい』と言っていた方が結果的に良い出会いがありますよね。

「そうですね。その上で我々が提案させていただいていることとしては、自社の採用サイトを持ちましょうと。
従来の求人広告ですと文字数やフォーマットに限りがありますし、大手企業がたくさん掲載されている中に、同じフォーマットで中小企業が広告を出しても目立つわけがなく、目も向けてもらえないという状況になってしまいがちです。一方で自社の採用サイトでしたら、自由度が高く、伝えたいメッセージを好きなだけ書けますし、そこに自社のメッセージを100%表現することで、はじめてマッチングする人材に届く。という手法が結果を出しています」

社長からのメッセージ


――最後に、釣り部採用に応募を検討している方や、興味を持っている方に向けて何かメッセージがあれば。

「中央交通の社長さんからメッセージをいただいています。釣り好きの方に対しては『趣味を大切にして活き活きと働ける環境があります。ぜひ一緒に釣りをしたいです』。職種転換を考えている未経験の方に向けては『一生続ける仕事を選ぶ際、タクシーという選択肢も魅力的だということを是非知っていただきたい。しっかり稼げる、安定して長く働ける仕事ですし、未経験でも安心して働ける土壌や、すぐに活躍できるための新しいシステムも登場しています。業界に対するマイナスイメージはあるかもしれませんが、実際にはやり甲斐もある、すごく面白い仕事なので、まずは釣りをしながらお話を聞きに来てみませんか』ということです」

(辺川 銀)