池井戸潤原作、役所広司主演の日曜劇場『陸王』。老舗の足袋屋・こはぜ屋の面々がランニングシューズ“陸王”開発に奮闘する姿を描く。
先週放送された第2話の視聴率は少し下がって14.0%。やっぱり1週空いたのが影響したようだ。

ところで先週は2019年放送の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』の出演者が発表されたが、『陸王』でライバルの大手シューズメーカー営業部長・小原役を演じるピエール瀧が、『いだてん』で“マラソン足袋”開発に打ち込む足袋屋役で出演することが判明して話題となった。中村勘九郎演じる主人公の金栗四三の名も『陸王』に登場していたし、さらに役所広司も金栗の恩師・嘉納治五郎役で出演するとあって、もはや『いだてん』と『陸王』は地続きのドラマだと言っていいんじゃないだろうか。しかし、嘉納治五郎って身長160センチ足らずのはずだけど、役所広司(179センチ)じゃ大きすぎない? 

ヤキが回っているが『アウトレイジ』感のない寺尾聰


「陸王」2話。役所広司と寺尾聰のプロポーズ合戦じゃないか。日曜の夜にふさわしい重厚なドラマ今夜も
イラスト/Morimori no moRi

それはさておき、第2話ではランニングシューズ“陸王”の鍵を握る男、飯山(寺尾聰)がクローズアップされた。ランニングシューズを作るにはソール(靴底)が肝心。だが、足袋屋のこはぜ屋にはソールを作る技術がない。そこで、坂本(風間俊介)から紹介された、繭で作られた特殊素材「シルクレイ」に着目する。その特許を持っているのが飯山というわけ。それにしても、坂本ちゃん、万能すぎる……。

ドラマの冒頭、こはぜ屋での会議で宮沢(役所)がこう言う。
「今のウチに必要なものは二つ。実績と、新しいソールだ」

第2話でクリアすべき課題がめちゃくちゃわかりやすく提示されている。
実績とは、ダイワ食品陸上部の茂木(竹内涼真)に“陸王”を履いてもらうことを指す。そしてソールとは、言うまでもなく飯山が特許を持つ「シルクレイ」のことだ。

ところがこの飯山という男がワケアリだった。「シルクレイ」の開発に資金をつぎ込みすぎて自分の会社を倒産させており、恨みを買ったシステム金融に追われて妻の素子(キムラ緑子)とひっそり暮らす身。いわば、かなりヤキが回った男なのだが、それでも死蔵特許となった「シルクレイ」で一攫千金を狙っているのだからタチが悪い。やってきた宮沢(役所)と坂本をけんもほろろに追い返す。

ソフトでダンディなムードの役柄が多い寺尾聰だが、しゃがれ声とぶっきらぼうな態度などを駆使してヤキが回った男の雰囲気を出すのに成功している。高額な契約を持ちかけてきた外資系企業からもらったお土産と、宮沢が持ってきた行田市名物・十万石まんじゅう(うまい、うますぎる)を比較するような持ち方をするいけ好かない振る舞いも効果的だ。しかし、それでも『アウトレイジ』感がまったくないのが寺尾聰。このあたりがキャスティングの妙である。

池井戸流、男をオトす必殺技・会社見学!


飯山は宮沢に年間5000万円という法外な特許料をふっかける。こはぜ屋には到底無理な金額だ。さらに外資系企業も飯山の特許を狙っている。
まったく勝ち目のない戦いだが、宮沢はとにかく押しの一手。不審者ギリギリのラインでしつこく飯山に食らいつき、こはぜ屋の会社見学を提案する。

会社見学は同じ池井戸潤原作のドラマ『下町ロケット』でも中小企業の社長・阿部寛が大企業の幹部・吉川晃司をオトすときに使われた、いわば必殺技。働く者のハートは働く者たちの現場に触れることで呼び起こされるはずという池井戸哲学だ。

宮沢の押しに負けた飯山は、渋々こはぜ屋の会社見学の誘いに応じる。縫製課を見て「バアさんばっかりじゃないか!」と悪態をつくが、どこか上機嫌だ。動かなくなった年代物のミシンを手際よくバラすところなんて、非常にイキイキしてる。やっぱり完全にダークサイドに堕ちていたわけではなかったのだ。ミシンの部品が外れるとき、一緒に体をビクッとさせる役所広司の芝居が細かい。そして、そんな飯山の様子を興味深そうに見つめる大地(山崎賢人)。これは第3話以降の伏線となる。

会社見学の総仕上げにかかった宮沢は、“陸王”の失敗作の山を見せながら「シルクレイ」を完成させた飯山を褒め称える。


「誰も考えつかなかったことを成し遂げた。そういう努力は、小狡い人間や、性根の座ってない奴にはできない。私は、飯山さんを信用します」

そして頭を深々と下げ、さらに畳み掛ける。

「飯山さん、一緒に戦いませんか? あなたのシルクレイを、陸王に使わせてください! お願いします!」

プロポーズというか、『ナイナイのお見合い大作戦!』の告白シーンのようだ。それ以前に、こはぜ屋の半纏のことでイチャイチャしていたりしたから、なおさらである。

返事をしないで帰った飯山だが、結局、外資系企業に契約を断られて大ショック。急転直下、宮沢の求めに応じることを決断する。まぁ、そりゃそうだよね。

実は原作では、会社見学の前に外資系企業との契約を反故にされており、それゆえ飯山は会社見学に応じたことになっている。返事を先延ばしにするのは一緒だが、それは飯山がひねくれていたからだ。一方、ドラマ版では会社見学の時点で契約の話が続いており、視聴者は気を揉むことになるのだが、その直後に契約の話がなくなって、急転直下、飯山が宮沢の求めに応じるドラマティックな展開になっている。

もう一つ、原作では会社見学は縫製課の富久子さんの言葉がヒントになっていたが、ドラマ版では就活で失敗し続けている大地の「世の中から自分が全否定されてる気がして」という言葉がヒントになっていた。
自分の会社を倒産させた飯山も世の中から全否定されている人間だ。飯山の努力と功績を認める人はいない。だから宮沢は飯山を褒め称えて「信用する」と言い切った。飯山の心が動くのも道理である。ちなみにこのセリフも原作にはない。脚本の八津弘幸の仕事が光る。

ついに竹内涼真が“陸王”を履く!


飯山、大地のほかにもう一人、世の中から全否定されている男がいた。怪我をしてしまったダイワ食品陸上部の茂木だ。レースに出られない陸上部員なんて、存在意義がない。アトランティスの営業担当・佐山(小藪千豊)は茂木へのサポートを打ち切ることを通告する。代わりにサポートを受けることになったのは、ライバルの毛塚(佐野岳)だ。

焦る茂木はメチャクチャなトレーニングを行うが、陸上部の城戸監督(音尾琢真)が身を挺して阻止する。
そして茂木を徹底的に罵倒する城戸。「もう、終わりさ」と言われたときの、目を潤ませながら食ってかかるような竹内涼真の顔が何とも言えず良い。城戸はミッドフット着地に変えるようアドバイスを与えて去っていく。「這い上がれ、茂木!」。TEAM NACSの音尾琢真も大熱演だ。

アトランティスからサポートを打ち切られた茂木にとって、ミッドフット着地を実現するためのシューズは“陸王”ということになる。ついに茂木は“陸王”に足を入れる。

かくして宮沢はシルクレイの特許を手に入れ、茂木は“陸王”を履いた。飯山を乗せた宮沢のトラックが走る緑の田園の中の道と、茂木が一人で走る緑の田園の中の道のシンクロも心地良い。第2話の冒頭で提示された2つの課題を見事にクリアしたことになり、視聴者は素晴らしい満足感とともに、日曜の夜を過ごすことができる。「明日から仕事がんばるぞ!」と思うんじゃないだろうか。ストレスを与えることなく、前向きな活力をもたらす、日曜の夜にふさわしいドラマだ。


今夜放送の第3話には、ドラマの舞台・行田市で観光大使を務める鳥居みゆきがメガネの高校教師役で出演! 今夜も15分拡大だ。こうなったら毎週拡大でもいい!

(大山くまお)
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