どうやら、ネットではその辺について不満が噴出しかけているよう。せっかく伝えたいテーマや真意があるのに、視聴者へ届く前に攻撃されてしまうのは勿体ない。本稿でも、今回ばかりはサラッと指摘しておこうと思う。11月1日放送の第5話が、打ってつけの回だったのだ。

家出を図る綾瀬はるかに全然共感できない
主人公の伊佐山菜美(綾瀬はるか)は、近所のママ友である大原優里(広末涼子)と佐藤京子(本田翼)の2人と共に、カルチャースクールの太極拳講座へ通うことに。
そしてその週の日曜、3人の主婦はそれぞれの家庭内で夫への不満が沸点に達してしまう。
京子は夫・渉(中尾明慶)の母親である良枝(銀粉蝶)と同居中。彼女の悩みは、いわゆる嫁姑問題だ。四六時中一緒にいる姑から「早く子どもをつくれ」とプレッシャーを掛けられる毎日。しかし、仕事で疲弊する渉は子づくりに乗り気ではない。
遂には、良枝から「子どもができないのは女としての魅力が足りないから」とまで言われてしまった京子。さすがに耐えかね、休日にいつまでもベッドから出ない渉へ「ラブホテルに行く。
優里の家庭は、夫の啓輔(石黒賢)が“理解しない夫”の典型。家事を手伝ってほしいのに「忙しいんだ」と取り付く島もなく、ビールを飲もうと冷蔵庫を開けるも、そこに無いとわかるや「(買い忘れたのは)嫌がらせか?」と、あり得ないことを言い放つ始末。
一方、菜美の家庭はどうか。3ヶ月前に夫・勇輝(西島秀俊)とガーデンセットの購入を約束するも、せっかくの日曜に夫は外出して買い物することに乗り気ではない。しかし、菜美の怒りの形相を見て思い改める勇輝。ウキウキの菜美と共にショップへ繰り出すが、店内で彼は商品よりも観葉植物に夢中。帰宅しても勇輝はだらしがなく、部屋で脱いだ靴下をそのままで放置し、菜美は呆れ顔。「何度目?」と勇輝を詰めに行き、勇輝が「これから気を付けるよ」と返すや、「そのセリフも何度目?」と怒りが収まらない。
「何度言っても同じ失敗をする」、「妻の話を記憶にとどめない」という“あるある”を描写したのが、伊佐山家だ。
こうして、優里の呼びかけを契機に家出することにした3人。しかし、この展開に至る説得力がどうにも不足しているのだ。
優里の不満はわかる。「仕事に出たい」と主張するも夫は聞く耳を持たず、それでいて家事を手伝う素振りはまるでない。息が詰まるだろう。京子も、姑からのプレッシャーと嫌味にさらされ、しかも夫は嫁姑問題に関わろうとしない。家庭内の居心地の悪さは、想像を絶する。
しかし、菜美に限ってはあまりにも共感できないのだ。そもそも、怒りの原因が家出するほどじゃない。夫に注文を出してる割に自分は料理がてんでダメで、専業主婦を全うできていない。
なのに、勇輝は優しい。「僕たちが思っている以上に家事をこなすのは重労働で、自由と呼べるような時間は少ないと思う」と、菜美に理解を示している。
細かいと言うなかれ。設定の細部一つで、メッセージ性の説得力は一気に失われてしまう。“主婦の不満”を伝えるつもりが他に目につく要素が出てきてしまい、途端にブレるのだ。
広末涼子を家庭に縛り付ける石黒賢、家出されてもブレない
問題点ばかりを突っついていてもしょうがない。第5話は、大原家を中心に注目していこうと思う。
妻が家出したと知るや、置いていかれた3人の夫たちは伊佐山家に集合した。この場では、啓輔の言動が注目に値する。
「私は帰ってきたら、キツく叱るつもりでいます。あなたたちも、そうした方がいいですよ」
「私たちが汗水たらして働いてる中、自由にやってるじゃないですか」
しかし、妻の不在に寂しさが募り、いつしか本音が出てしまう。大学教授の啓輔にとって、優里は元は教え子であった。
「一目惚れでした。付き合い始めてすぐに、『誰にも奪われたくない』『自分だけのものにしたい』と思いました」
そして、ある秘密を打ち明ける。
「優里は元々、キャリア志向だったんです。社会に出てバリバリと働くことを願っていました。しかし私は、優里を社会へは出したくなかった。正直に言えば、優里が社会に出て出会うであろう男たちに嫉妬をしたんです。だから、卒業を前に意図的に妊娠させました」
妻を家庭に縛り付けようとした夫の姿が、浮き彫りになった。
素直に秘密を告白した啓輔であったが、反省しているようで実はそうでもない。
「私はその分、優里を幸せにするために頑張ってきたつもりです。経済的に困らせたことは一度だってないし、浮気だってしたことはない! それなのに、一体何が不満だと言うんでしょうか?」
一方、家出した3人の妻たちは気晴らしに、かつて優里が通っていたクラブへ繰り出した。久しぶりに夜の街で羽目をはずす3人であったが、店内である男たちに目をつけられてしまう。まず、京子は泥酔してダウンしたところ、男たちにVIPルームへ拉致されてしまった。この一件は例によって、得意のアクションで解決している。
問題は、優里の方だ。
働きたい主婦と、家事と子育て
しかも、ある出来事が優里を追い詰めていた。
「私、乳がんかも。(中略)今のところ、乳がんの可能性は半々ってところかな……」
後に彼女が乳がんではなかったことが判明したが、この経験は“一度しかない人生”を強く感じる契機になった。
改めて優里は、「働きに出たい」と夫に申し出る。しかし、この期に及んで理解しない啓輔。
「君の一度きりの人生において、いちばん大切なものは何だい。僕や啓悟(長男)じゃないのか?」
そんなタイミングに、LINEで主婦仲間から合コンに誘われた優里。すると彼女、「詳細を教えて」と興味ありげなリアクションをしてしまう。
現代の女性を取り巻く問題が各話ごとにフォーカスされるこのドラマだが、優里の抱える悩みは多くの女性にとって、今までで最も身近な問題。菜美のアクションが最小限に留められていたため、図らずも第5話は女性にとってシンパシーを覚えやすいストーリー展開だったように思う。
今までは助走? 第6話からの金城一紀の爆発に期待
エンディング間際の、合コンのくだりには裏がある。優里を合コンに誘った主婦仲間は、ある組織の手先であった。
件の主婦は「この子は旦那と揉めてるって噂なので、うまくいくと思います」と、LINEでのやり取りを上司に報告。この主婦を操る男として登場したのは、玉山鉄二である。
『奥様は、取り扱い注意』の脚本を務めるは、ヒットメイカーの金城一紀。彼の名に惹かれ、ドラマを観始めた視聴者も多いだろう。
しかし、勧善懲悪が貫かれ、予定調和に着地する今までの展開は予想外。『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(フジテレビ系)や『BORDER』(テレビ朝日系)のような意表を突く“金城らしさ”は、第5話までに顔を見せていない。
しかし、このままで終わるとは思えない。本領は、不穏な匂いがいよいよ放出されるであろう第6話以降にあると期待したい。
何より、勇輝が“いい夫”すぎるのが気になる。ネット上では、綾瀬はるかと西島秀俊の間で起こる“ある展開”が確定事項として扱われており、そこへたどり着くまでには大きな二転三転があるはずだ。
金城一紀が脚本を務め、これだけの豪華メンバーが集結し、予定調和が貫かれたまま話が落ち着くなんて、どうしても思えないのだ。
(寺西ジャジューカ)