映画の都といえば、ご存じハリウッド。1兆円にも及ぶといわれるその市場規模は、他の追随を許しません。

しかし、映画の制作本数でいうと、アメリカは791本で世界第3位。第1位はインドで、なんと1907本。実に米国の2.5倍近くもの映画が、この南アジア最大の国家でつくられているのです。ちなみに第2位はナイジェリアで、997本だといいます(2015年・UNESCO Institute参照)。

日本でも密かなブームのインド映画


現在、国内における作品のほとんどが、ムンバイ(旧称:ボンベイ)で制作されていることから、「ボリウッド」などと呼ばれているインドの映画産業。同国の映画といえば、出演者が歌って踊る、いわゆるミュージカル的な明るいノリの作品が多いことでもお馴染みです。

加えて近年では、じっくり見せるタイプのヒューマンドラマも好調。加熱するインドの学歴社会に疑問を投げかける社会派青春群像劇『きっと、うまくいく』(2009年)、聴覚障害の純粋な青年との出会いを通じて、2人の女性が人生を変化させていく『バルフィ!人生に唄えば』(2012年)、運命に翻弄される男女3人の恋愛模様を描いた『命ある限り』(2013年)など、国際的に評価される作品も多数登場しています。

そんな隠れた映画大国・インドの評判がはじめて我が国に伝え広まったのは、今から約19年前の1998年。『ムトゥ 踊るマハラジャ』が公開されたことに端を発します。
渋谷区にある映画館『シネマライズ』での単館上映ながら、同年のミニシアター系観客動員記録を樹立する空前絶後のヒット作となり、インド映画としては異例のロングラン上映を果たしたのです。

クセが強過ぎる?『ムトゥ 踊るマハラジャ』


筆者自身、この『踊るマハラジャ』をはじめて観たときの衝撃は、今も忘れられません。

当時、『王様のブランチ』をはじめとしたさまざまな情報番組で、散々「話題作」だと煽られていたため、いったいどんな快作なのかと期待してみて観たら、これがびっくり。ダサい・クドい・ムサいの三拍子揃ったキワモノ映画だったのです。

しかも、上映時間が3時間近くもありました。そして、主演・ラジニカーントの顔が、ひじょうに暑苦しい。
そのため、途中の小休止タイム(※インド映画は長時間の作品が多いため中盤でインターバルが入る)で観るのを止めてしまいました。

あまりにも特殊なインド流映画の鑑賞法とは?


おそらく当時、こんな感じで拒絶反応を示した人は、少なくなかったのではないでしょうか?
インド映画とは、たとえば鑑賞方法一つとっても、劇場で歓声を上げてもよし、ダンスしてもよし、野球の応援みたいに鳴り物を鳴らしてもよしという、物音一つ立てるのにも気を遣う日本とはまったく異なる文化・風習の中で育まれていったもの。
つまり、日本の観客とインドの観客とでは、感性がまるで違うのです。だからこそ、何の前提知識もない中でいきなり鑑賞しては、「ナニコレ!?」と思ってしまうのも無理はありません。

けれども、こうしたキワモノ感こそ、『踊るマハラジャ』がウケた理由の一つ。最初のうちは違和感しかなかった俳優陣の暑苦しい顔やベタな演出も、何度か鑑賞しているうちに、次第に「アリだな」と思えてくるのだから、慣れとはおそろしいものです。

結果、同作は社会現象ともいえる人気を博し、主演女優のミーナが来日したり、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』で全編インドロケの映画『ナトゥ 踊る!ニンジャ伝説』がつくられたりするなど、さまざまな発展を見せていたものです。
きっとこれからも、日本においてインドの新しい話題作が公開される度に、『踊るマハラジャ』はマサラムービーの入門作として取り上げられ続けることでしょう。

(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりムトゥ 踊るマハラジャ[Blu-ray]
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