1月28日に放送された『99.9-刑事専門弁護士-SEASONII』の第3話は、一際テンポの良かった回。驚くほど、サクッと観ることができた。
とても60分観ていたとは思えないスピード感である。

第3話あらすじ


人気ロック歌手・ジョーカー茅ヶ崎(宇崎竜童)は、違法カジノに出入りしていた事実をジャーナリストの安田尚樹(伊藤高史)に握られ、恐喝される。その後、安田が殺害される事件が起こり、動機のある茅ヶ崎が逮捕された。

加えて、事件当日に安田の事務所から茅ヶ崎が出てきた瞬間を目撃したフリーライター・石川敦子(安達祐実)が、就寝中に自宅で襲撃される事件が起きた。この時、凶器として使われたモアイ像の写真立てからは茅ヶ崎の指紋が検出されている。

意識を取り戻した石川に話を聞くと、証言がどうも曖昧だ。就寝中に襲われたにもかかわらず写真立てが凶器だと認識していたり、事件当日は髪を下ろしていたはずの茅ヶ崎について「特徴的な髪型(リーゼント)をしている」と口にしたり、いちいち辻褄が合わない。
この時、石川の挙動がおかしいことに深山大翔(松本潤)は気付く。婚約者である村野正義(永岡卓也)に話しかける彼女の視線が、なぜか宙を泳ぐ。彼の居場所を把握していないのか……?

事件当日と同じく土砂降りとなった日、深山らは目撃時に石川がいたカフェへ彼女を呼び出した。深山が窓から見える幼稚園の名前を石川に質問すると、彼女は「王泉幼稚園ですよ。あんなに大きな看板、見えないんですか?」と回答。しかし、前日に弁護団は看板を張り替えており、そこにあるのは「奈ッ楠幼稚園」という看板であった。

要するに、石川には目の異変がある。彼女の目撃証言の信憑性が、一気に怪しくなった。
松本潤「99.9−刑事専門弁護士−」3話でようやくこぼれ落ちた木村文乃の可愛さと鶴瓶の「悪瓶」
イラスト/まつもとりえこ

注目すべきは心理描写


冒頭で「テンポの良い第3話」と評したが、それは「高くない密度」と言い換えることもできる。トリックに関して言えばこのドラマ、毎回さして大したものではない。

今回の事件の主任弁護士を務める尾崎舞子(木村文乃)は、法廷でモアイの写真立てを改めて石川に確認させた。裏には「相思相愛」とメッセージが書かれているはずが、そこには「相思相も愛」のメッセージが……。
石川と村野がお揃いで持っているモアイの写真立て、村野が持っている方にだけ石川は「も」(も愛→モアイ)の文字をいたずら心で付け加えていた。自室の写真立てと村野の写真立てが入れ替わっていることに気付いた彼女は、自分を襲った犯人が村野であると認識。「茅ヶ崎さんは犯人ではありません!」と真相を告白する。

では、なぜ凶器に茅ヶ崎の指紋が残っていたか。まず、村野はモアイ像の写真立てから裏のガラスのみ他の写真立てに移した。そして、ファンになりすまして茅ヶ崎から写真立てにサインをもらい、その過程で茅ヶ崎から指紋を採取。次に、そのガラスから茅ヶ崎のサインを消し、モアイ像に戻した……という塩梅だ。


何度も言うが、大したことない。茅ヶ崎のサインをモアイの写真立てに残す経路を考えれば出来上がってしまうトリックである。
作り手側も謎解きに関してそこまで重視していないように思える。だって60分の間、トリック解きに関しては終盤にチョロっと潜り込ませた程度で済ませているし。

そういうことなのだろう。このドラマは、決して“謎解き”が主軸ではない。登場人物のキャラクターや心理描写にこそ注目すべきだ。

「ゲコゲコ」を追及され、顔を抑え狼狽する木村文乃


そういう意味で、第3話で特に注目すべきは尾崎だった。今回の彼女は“感情の揺れ”が顕著だ。

例えば、以前は「法廷での証拠」を最重要視していた彼女だったが、今では深山主導の検証実験に前のめりで参加している。ちょっと前までは、検証実験を不毛にさえ考えていたのに!

行きつけのうどん屋で裁判官時代の同僚と顔を合わせた彼女は、弁護士に転向した今の思いを語る。
「法壇から降りて違う立場になって気付いたことがあります。刑事裁判は圧倒的に検察側が有利です。
しかも、検察が出した調書が全てとは限らない。それなのに私は何の疑いも持たずに公平に判断できていると思っていました。自分の傲慢さに反省させられているんです」

かつての先輩・遠藤啓介(甲本雅裕)からは「弁護士に成り下がって」と吐き捨てられた尾崎だったが、以前の彼女は遠藤と決して大差なかった。そう考えると、深山と出会ってからの尾崎とそれ以前の差は歴然だ。

あと、とにかく第3話の尾崎が可愛い。前回まではプライドの高さばかり際立ち、ムカつく瞬間さえあったが、ここに来てようやく可愛く思えてきた。特筆は、自分の指を使い「ゲコゲコ」言う癖の理由が明かされた場面だ。
「中学時代、腹話術部にいて、うまくなるのに日常的に練習する癖がついてしまったんです!」
狼狽しながら顔を抑える様子と言ったら……! ルックスに関しては、そりゃもう文句無しなのだから、それまではどれだけつっけんどんだったのかっていう。“成長”に比例して“可愛らしさ”が顔を覗かせているという流れも、言うことない。

「川上憲一郎」は鶴瓶を当て書きしているとしか思えない


SEASONIIの“ラスボス”とも言える川上憲一郎(笑福亭鶴瓶)が、3話目でようやくストーリーに参戦してきた。ということは、今シリーズの本題である「弁護士」と「裁判官」の攻防がいよいよ本格始動するということである。

普段の川上は、至極人当たりがいい。
裁判官を辞める判断をした尾崎に理解を示したり、山内徹(松尾諭)に「お前が正しいと思ったことを信じて進んだらええ」と励ましたり。
この言葉を受け、今回の裁判の延期を決断した山内。結果、尾崎と深山の粘りによって真相は明らかとなり、山内は正しい判決を下すことができた。しかし、今回の“公正な判決”は、必ずしも川上の本意ではないらしい。
「山内は、東京で裁判官続けるのは向いてないかもしれんなあ」(川上)
茅ヶ崎に無罪判決を下したことを受け、山内は北海道へ飛ばされてしまう。川上の言う「ええ判決せえよ」とは、“公正な判決”とイコールではなかった。

自分の意にそぐわない者は、冷徹に排除する川上。好人物の皮に隠された冷徹さは、「目の奥が笑ってない」と後輩芸人から囁かれる笑福亭鶴瓶の姿と重なって見える。事実、若干の悪意を含んで「川上憲一郎」というキャラクターを凝視すると、鶴瓶と被る要素は多い。
人情味あふれる訓戒を述べる川上に向かい、深山は「全てを知ってるわけじゃないのに人生を説くなんて、なんて無責任なんですかね」と挑発していたが、この指摘には既視感がある。周辺の人物による評判を見聞きしたのみで、ゲストの人柄をしみじみと総括する『A-Studio』。タモリに「偽善芸」と指摘されていた、アレだ。


こんな風に勘繰ると、「川上憲一郎」というキャラクターは鶴瓶を想定して当て書きしたとしか思えない。密かに武闘派であり、知る人ぞ知る“遊び人”の鶴瓶だが、彼の中の「悪瓶」の部分が肥大化して出来上がったのが、川上。
そう捉えると、ドラマへののめり込み度がグッと増してくる。応援の感情も憎しみの感情も、どちらも増幅するのだ。

やはり、『99.9』は登場人物の“キャラ立ち”を楽しむドラマであった。
(寺西ジャジューカ)
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