連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第12週「結婚したい!」第68回 6月19日(火)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

68話はこんな話


鈴愛(永野芽郁)は上京して2年、二十歳の夏、ついにデビューを果たした。

68話 も引き続きテレビ局ぽい


北野(近藤芳正)がガーベラから青年誌に異動になると聞いて、ユーコの漫画をそこで連載するように進言する秋風(豊川悦司)。
自分の漫画をゴールデンタイムのテレビドラマにして、最終回は映画でと欲望を語るユーコ(清野菜名)。

67話のレビューでも書いたが、この時代、角川書店を先頭に漫画のメディアミックスが流行っていた。豊川悦司の『NIGHT HEAD』も劇場版で完結を迎えた。この手のお祭り企画はフジテレビが得意で、奥菜恵が奥菜恵役でデビューした『パ★テ★オ』もドラマをやったあと完結編は映画でという趣向だった。完結編は映画でというやり方は視聴者にはあまり評判がよくないが、21世紀になってもいまだに行われている。

メディアミックスになるかならないか知らないが、こうしてユーコはビッグイブニング、鈴愛はガーベラで連載がはじまった。
トントン拍子のようだが、なかなかうまくネームが描けない鈴愛。

そんなときユーコが助言をしてくれる。
ユーコはユーコで進行が滞って、現実逃避に部屋の掃除からの模様替えをしていた。
気分転換にグルグル定規で遊ぶふたり。シーナ&ロケッツを歌いながら。

68話の名場面は、「これは私達が無駄にした時間の集積だ」という台詞と、グルグル定規で書いたおびただしい数の模様が映されるところであろう。ひとつとして同じ模様のない複雑な図柄はまるでたくさんの人間の人生のようだ。
みな、それぞれに美しい。
「半分、青い。」68話。秋風の視点が漫画家というより脚本家である件
「NHK ドラマ・ガイド おんなは度胸」日本放送出版協会 
泉ピン子の温泉写真が表紙! 隣は桜井幸子(義理の次女役)

橋田壽賀子の朝ドラ


秋風は、メディアミックスの研究に朝ドラ「おんなは度胸」(92年)を見る。
関西の老舗温泉旅館に後妻に入ったヒロイン(泉ピン子)の奮闘記で、夫(藤岡琢也)とは年の差婚、自分と同じ年頃の義理の娘(藤山直美)ができるという複雑な環境下、母として、妻として、女将(おかみ)としてたくましく生き抜いていく。泉ピン子と藤山直美というものすごいキャスティングが見どころ。

「おんなは度胸」のガイドブックの泉ピン子のインタビューが面白い。
“今や若者のトレンディドラマ最盛期、おばさんたちは向こうへ行ってろ、みたいな風潮のなかで私、思っったわね。人間誰だって必ず年をとる、どうだい、ババァになってからどれだけステキに生きられるか、それをじっくり見せようじゃないのって。


“NHK連続テレビ小説→全国的→視聴率最高→朝の清潔な顔。だから、私、いじめぬかれる役なんだけど、決して眉間にしわ寄せる顔しない。だってドラマのヒロインは皆、元気印なんだもの。”

92年当時の流行、朝ドラの認識がよくわかる発言だ。インタビューを生き生きとした口語体で再現したライターの技量にも注目したい。

秋風「泉ピン子の台詞は冴え渡っている。
わたしには書けない」
菱本「橋田先生ですか」
秋風の視点は完全に脚本家の視点にすりかわっている。これに関しての考察は67話のレビューで書いたのでそちらを読んでいただきたい。

ちなみに北川悦吏子は、00年「ビューティフルライフ」で橋田賞と向田邦子賞を受賞しており、いまさら橋田先生にアピールする必要はないので、これは純粋に朝ドラファンへのサービスと考えたい。

追記:ツイッターで、北川悦吏子が「泉ピン子の台詞は冴え渡っている。わたしには書けない」の台詞はカットしてもよかったが豊川悦司が言いたいと言って残ったものと紹介していた。豊川悦司、何かにつけてすばらしい。


シスターフッドも取り入れて


ユーコは、昨日見た夢を床いっぱいに紙に描く。
海上をスケート靴で滑る夢。
夜を徹して、ふたりでおしゃべりしながら漫画を描く。
朝の光のなかで、
ユーコ「私、鈴愛好きだ」
ナレーション(鈴愛の気持ちの代弁)「生まれてはじめて人に好きと言われた。はじめて告白された。女の子やったけど」
とキラキラした感情の交歓が行われる。

自分のことをしゃべれないふたりの心を柔らかくしてくれたというユーコ。
なんでも正直に言う鈴愛にはそういういいところがある。
近年、流行りのシスターフッド的なエピソードを盛り込むところも抜かりないが、そもそも、「素顔のままで」(92年)がそれである。鈴愛とユーコはきっとこのドラマを見て、雰囲気盛り上がっちゃったのだろう。
ドラマ見て登場人物の気分になることは多感な時期にはありがちだ。

赤ん坊のとき律といっしょに生まれ、
漫画家としてユーコといっしょに生まれたと思う鈴愛。
これまで律しか見えてなかった鈴愛は、こうしてようやく律離れをしはじめたのだと思うが、菜生(奈緒)とはそういう関係にはならないんだなあと思うとちょっとさみしくもある。
菜生とブッチャーがロンバケパロディで出てくるよりも、鈴愛の漫画デビューを祝いに出て来てほしかったと思うのは常識的でつまらない考えなのだろう。それでは話題にならないし、視聴率も上がらない(たぶん)。
これでいいのだ。
(木俣冬)