大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第33回「糸の誓い」9月2日(日)放送  演出:石塚嘉
「西郷どん」33話。内助の功で視聴率大幅アップ。龍馬の妻役・水川あさみの入浴シーン
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テコ入れか。水川あさみの入浴シーン


いきなり坂本の妻・お龍(水川あさみ)の入浴シーンからはじまった。

33回の視聴率が、全回の10.4%からぐいっと13.2%に上がった(ビデオリサーチ調べ 関東地区)のはまさかこのせいだったらどうしよう。
んにゃんにゃ、その後に続く寺田屋で龍馬(小栗旬)が狙われる緊迫感のあるシーンで引きつけたと思いたい。
とはいえ、サブタイトル「糸の誓い」からして、33回は女のドラマだった。

負傷しながら命からがら逃げ、薩摩屋敷に匿われた龍馬。
吉之助(鈴木亮平)といっしょに薩摩に行かないかと提案され、お龍も連れて行くことに。
「わしの生命はお龍のもんぜよ」とまで言われるお龍は、龍馬命の情熱的な人物。寺田屋襲撃のときも、全力で龍馬のために動いた。

吉之助の家のことを「雨漏りの音が三味線の音のようにぎやか」と聞いていたと無邪気なお龍。
なんだかこの台詞に朝ドラ「半分、青い。」を思い出した。
こういうやつだ。
鈴愛「(前略)左側に雨の降る感じ、教えてよ…。どんなやったっけ」
律「傘に落ちる雨の音って、あんまきれいな音でもないから。
右だけぐらいがちょうどいいんやないの」
(29話より)

みんなおなごを囲っている


吉之助が薩摩に戻って来たとき、お龍と並んで現れたため、糸(黒木華)がいながら女を連れてくるなんて許せん! と西郷家一同は激怒するという勘違いドタバタシーンがはじまる。ほのぼのファミリードラマですな。
そこからお龍の武勇伝が語られ、糸はお龍のようにいつも近くで夫を助けられることを羨ましく思う。

子どもが出来ないことをコンプレックスに思う糸を「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」と励ますお龍。
とても明け透けな女性で、西郷家でみんなと囲炉裏を囲みながら、糸が京都におなごがいるんじゃないかと心配していると言い出した。
「京都に来る諸藩の人はみんなおなごを囲っている」と事実を伝えながらも「うちは許さない、殺しますえ」と龍馬にしっかり釘をさすお龍。この時代においては進歩的な人物である。

だが、この話、別のところで波紋を呼ぶ。
その前の場面で、糸と話している満寿(三村里江)を見ながら、気が重くなっている視聴者(とくに女性)は多かったと思う。32話で、大久保(瑛太)が京都のおゆう(内田有紀)と関係を持っていることが明かされていたからだ。
案の定、吉之助に女性がいるかいないか問題の話題になったとき、吉之助は満寿に視線をやる。ただそこで満寿の顔は映らない。「断じておいにはおらん」と言い訳し、そこではじめて満寿が「おいには」?と気にしはじめる。

すかさず龍馬が話題を変え、糸は複雑な顔で吉之助を見ている。
コミカルなシーンともいえるが、正妻の立場を思うと憂鬱な気分になる。「花燃ゆ」(15年)でも当たり前な感じに現地妻の話が出て来てなんだかいい気持ちがしなかったが、実際あることなのだから仕方ない。

京都の大久保


吉之助が龍馬を薩摩に呼んだのは、怪我の養生でも、ましてや場の空気を変えてもらうためでもなかった。
イギリスからハリー・パークスがやって来るので、もてなしの知恵を借りたかったのだ。
幕府はフランス、薩摩はイギリスと関係を深めようとしていた。

女性問題が気になる大久保は京都にいて、長州征伐の命をきっぱり断っていた。こんな大変な責務を引き受けさせれては、女性に癒やされないとやってられないのかも?

結局、10万もの進軍が長州に向かう。

龍馬、お龍の新婚旅行


龍馬はお龍と新婚旅行兼湯治をして、ビールやシェリー酒などを持ってきた。これでハリー・パークスをもてなそうという提案だ。
女性禁止の山に男装して登ったというお龍。
昔は糸も男と肩を並べて走っていたという吉之助。
そう、糸も本来はお龍のようになれたかもしれない女だったのが、すっかり控えめになっている。そんな彼女に「人ができんことをするゆうがか気持ちがええきに」と龍馬は励ます。


お龍はさらにずけずけと、一番めと二番めの奥さんについて聞こうとする。
要するに、龍馬とお龍の仲良さと、先進的な考えが、吉之助と糸のお互い再婚(吉之助は再再婚)であり、糸は子どもができないカラダであり、二番目の妻には子どもがいるという後ろめたさを抱えた関係を溶きほぐし、ふたりが向き合って、愛情を交わし合い、子どもが誕生するという美しい流れになっている。

「お互い難儀な男に惚れたもんやな。


31話に続いて、またしても、早朝、こっそり旅立とうとする龍馬を糸がみかけてしばし語らう。
こんな朝から起きてる苦労人・糸っていうことを表しているのかはわからないが、小栗旬と黒木華の会話場面はなぜかとても安心して見られる。台詞に書かれてわけではないが、とりわけ龍馬が糸に全服の信頼を寄せている感じが漂うのだ。

「くれぐれもお気をつけて」
「はい」
というところとかがすごくいい。

さすがの龍馬も、戦場にお龍を連れていけないと言って出ていくが、そこにお龍が寝巻き姿のまま血相変えて出てくる。
「あの人と死ぬまで一緒にいると決めている」と強い思いを吐露するお龍に糸は上着を貸して旅立たせる。

「お互い難儀な男に惚れたもんやな。
怖うて切ないけど、一生惚れ通すしかあらへんと うちは覚悟決めてます」
お龍の言葉は糸を力づける。
「西郷どん」で地味ながらずっと描かれ続ける、変革を目指して闘った男たちを支えた女の姿が、お龍によって浮き彫りになる。

いいキャラクターを得て、33話はいつになく書きたいことがくっきり書けていた印象で、それが視聴者にもストレートに届いたことと思う。男を支える女の姿は男性視聴者から見てもいいものだろう。

「なぜ宴会ばかりで重要な話しをしないのか」


ハリー・パークスが薩摩にやって来て、宴が数日に渡って催される。
だが、飲食を出すばかりで、要件を言わない吉之助たちに、「なぜ宴会ばかりで重要な話をしないのか」と激怒して帰ろうとするハリー・パークス。
日本流の要件をはっきり言わず空気でものごとを決めていくやり方が裏目に出た。こういうことは現実にもよくあることで、なんだか皮肉めいていた。

慌てて吉之助が交渉に入る。腹を割った結果、交渉は成功。吉之助が活躍する場であるが、やはり重要視されるのは糸のほうだ。
戻って来た吉之助に「腹を割って」愛加那(二階堂ふみ)に対するもやもやした気持ちを語り合う。
正妻といえども、吉之助の子を生んだ先妻・愛加那がいる限り、糸は気分的には二番目の女みたいなものでもある。愛情がどっちにあるか気になるのは無理もない。
愛加那にも後ろめたいし。
きちんと話をして糸は愛加那を大切に思うことまでまるごと吉之助を愛そうとする。
33話は女性の出番が多いながら、結果的に男性側に都合がよくできていて、男性視聴者が満足しそうな話になっていた。
(木俣冬)
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