第26週「幸せになりたい!」第155回 9月28日(金)放送より
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

半分、青い。 メモリアルブック
155話はこんな話
仙台を訪ねた鈴愛(永野芽郁)はユーコ(清野菜名)が最後に残した声を聞く。
このドラマ、突如として、俳優たちがウィスパーボイスで喋りだしてきたと154話で書いたが、鈴愛、律(佐藤健)、弥一(谷原章介)と来て、155話はユーコの夫・浅葱洋二(山中崇)のウィスパー劇場だ。
ユーコが鈴愛の話ばかりしていたこと。
最適な音を選択すると豊川悦司の秋風の喋り方にも似てくる。余談だが先日放送された「LIFE!」でそれは金八先生の台詞回しにも近いことが感じられたが、とにもかくにも、北川悦吏子の台詞は最適な調子があるように思う、譜面のように。
そう思って見ていると、秋風羽織が声だけだが登場し、ウィスパーのバトンを受け継ぐ。というか真打登場である。
「人生は希望と絶望の繰り返しです」と秋風先生が速達(秋風羽織だけでなくかっこして美濃権太とまで)を出して来た。鈴愛と律に連名で。
「希望を持つのはその人の自由です」などと、律と鈴愛を励ます。
場面は再び、鈴愛と洋二。
外は雨。
洋二はユーコが自力で逃げられない患者さんと一緒に残ることを選んで亡くなったと鈴愛に伝えた。
あいつを守るために生まれた
また場面が切り替わって、律と正人(中村倫也)。
このふたりも初期からずっと北川台詞を適切な音にしてきた実力派である。
なんで、ユーコのところに一緒に行かなかったのかと正人が問うと、ユーコと鈴愛にとって特別な存在だと思って遠慮したという。
律は自分が生まれてきたのは「あいつを守るためだ」と自覚している。
鈴愛と一心同体、ソウルメイト、一蓮托生とかではなく、あくまで「守るため」ってことなのか。
なににしてもキュンとする場面である。
生きろ
155話のハイライトは、ユーコがケータイに残した声。
「生きろ」「何かを成し遂げてくれ」とメッセージが入っていた。
その言葉を聞いたあと、鈴愛は海に行き、漫画家を辞めて引っ越しをしたとき秋風塾の三人ではしゃいだときのことを思い出しながら、ユーコの好きだった「You May Dream」を歌う。
ボクテ(志尊淳)はそこにいないが、彼が渡したキャラメルを鈴愛が食べることで、三人一緒にいるようになる。こういう仕掛けはものすごく巧い!! 北川悦吏子が生き馬の目を抜く業界で生き残ってきたのはこういうキラッと光るところをポロッと出してくるからだと思う。
清野菜名
動けない患者さんと寄り添ったまま亡くなったユーコのエピソードは、昨年放送された倉本聰の昼の帯ドラマ「やすらぎの郷」で清野菜名が演じたアザミのエピソードを思わせる。
脚本家志望のアザミは「手を離したのは私」という、震災で一緒に逃げた祖母の手を離して生き残ってしまった人物の物語を脚本にして石坂浩二演じるベテラン脚本家を唸らせる。
この作者がじつはアザミの彼氏だったというオチも含め、この劇中脚本が凄まじいもので、倉本聰はこっち(オチは関係なく、祖母と孫の話)をドラマ化したかったのではないかと思ったほどだった。
この脚本に書かれた孫の悔恨を「半分、青い。」はもうひとつのあり得たかもしれない物語を描いて晴らしたようにも感じた。
名優たちにウィスパー競演のなかで、清野菜名だけは凛とした明るい声で語りかけていた。
ウィスパーだった山中崇も鼻水を垂らすほどの泣きでどうにもならない悲しみを訴えかけてきた。
ドラマで震災を書くことに関しては、154話のレビューに書いた。それが私の思うすべてだ。
生きてユーコの夢を叶える
洋二は輸入家具会社の社長でセレブらしいとユーコは語っていたが、おうちは意外と簡素であった(失礼)。
ここでひと妄想。
じつは港区から仙台の実家に戻ったのは、東京での商売が下火になって実家に戻らざるを得なくなったのではないか。それで、もともとの夢だった看護師として働き始めたのでは。それをなんとなくボカしているのでは。
これも以前にも書いた気がするが、このドラマの登場人物は実はほぼ全員うまくいってない人ばかりなのじゃないか。左耳を失聴した鈴愛を中心に、愛し方がわからない律、仕事も恋愛も実際のところどうなっているのかよくわからない正人、漫画家としては成功しているが世間的にまだまだ偏見の多いゲイであるボクテ、そして、若くして実家を飛び出しセレブになることを目指しつつ、看護師となって人の生死を目の当たりに悩むユーコ・・・と人生順風満帆とはいえない人たちが共鳴して集まって楽しく日々をやり過ごしていたのではないか。
「あなたが歌うと いつもは憂鬱な雨もサンバのリズムになる」という歌詞は、空が「半分、青い」と考える
このドラマの原点なのかもしれない。
鈴愛は「生きてユーコの夢を叶える」とそよ風ファンを作ると決意を新たにする。
これまでさまよい続けてきた鈴愛がついに、なんのために生きるか、その核を見つけた・・・と考えていいだろうか。
いよいよ最終回!
「あさイチ」朝ドラ受けでは大吉が「急げ」と一言。
ところで、「青い」も憂鬱な「青」と考えるか、明るい「青」と考えるか、見方はいろいろなのだなあとも思う。
(木俣冬)