TBSの日曜劇場「下町ロケット」(夜9時〜)は、いよいよ先週放送の第6話から今シリーズの第2部にあたる「ヤタガラス編」が始まった。
「下町ロケット」無人トラクターと戯れる阿部寛可愛いと思う間もなく裏切りの嵐が「ヤタガラス編」始動6話
イラスト/まつもとりえこ

宇宙と大地を結びつける新事業が始動!


ヤタガラスとは、日本版GPSとも呼ばれる準天頂衛星システムで、佃製作所がバルブシステムを提供する帝国重工のロケットにより7機が打ち上げられてきた。しかし、帝国重工内では、ロケット開発に反対する“反社長派”の的場(神田正輝)が次期社長候補として力を持つようになる。
これまで藤間社長(杉良太郎)のもとでロケット開発を推進してきた財前(吉川晃司)も、的場に目の仇にされ、前回にはついに宇宙航空部部長から宇宙航空企画推進グループに異動させられた。宇宙航空企画推進グループとは、一言でいえば、既存の人工衛星を使って新たな事業を創出しようという部署らしい。

異動にあたり、財前は部下や佃製作所社長・佃航平(阿部寛)に、新天地での最初の課題として「瀕死の日本の農業を救うこと」を宣言した。だが、一体、宇宙と農業がどう結びつくのか? 第6話では、それがあきらかにされた。運用開始されたヤタガラスにより、GPSなど従来の衛星測位システムでは約10メートルあった誤差がわずか数センチにまで改善されていた。財前は、これを利用すれば、トラクターが自ら位置を計測しながら、無人で農作業を行なうシステムがつくれるのではないかと考えたのだ。
実現すれば、高齢化のため将来が危惧される日本の農業の起死回生策となるに違いない。

帝国重工にはトラクター用のエンジンやトランスミッション開発のノウハウがないため、財前は佃に協力を求めてきた。しかし、無人運転の技術はどうするのか。そこで財前が目をつけたのが、北海道農業大学で無人農業ロボットの研究開発を手がける野木教授(森崎博之)だった。じつは野木は、財前の大学時代からの友人であり、父親の工場を継ぐか悩んでいた彼を、夢だったロケット開発の世界へ後押しした恩人でもある。なお、野木を演じる森崎博之は、本作で佃製作所の技術開発部長・山崎を演じる安田顕も所属する演劇ユニットTEAM NACSのリーダーだ(リアルでは、彼の大学時代からの友人は佃社長ではなく技術開発部長ということになる)。


財前は佃に声をかける前に、すでに野木に打診していたが、断られていた。それというのも、かつてキーシンというベンチャー企業に共同研究を求められ、受け入れたものの、いきなり一方的に契約を打ち切られたあげく、開発データを盗まれるという目に遭っていたからだ。このキーシンの社長・戸川を演じるのは甲本雅裕。善人役のイメージの強い甲本をあえてヒールに起用したあたり、「ゴースト編」の中村梅雀と同じく配役の妙を感じる。

裏切り、裏切られる登場人物たち


それにしても、「下町ロケット」の今シリーズはやたらと裏切り、裏切られる人間が出てくる。トランスミッションメーカー・ギアゴースト社長の伊丹(尾上菊之助)は、先に描かれたとおり、小型エンジンメーカー・ダイダロス社長の重田(古舘伊知郎)にそそのかされ、帝国重工在職中の上司である的場に復讐しようともくろむ。そのために、これまで二人三脚でやってきた副社長の島津(イモトアヤコ)を切って捨てていた。
そもそも伊丹が的場に恨みを抱くようになったのも、相手に裏切られていたことを知ったからだ。

佃は、島津のエンジニアとしての才能を買うだけに、自社に誘うのだが、「まだ気持ちに整理がつかない」とやんわり断られてしまう。それだけ同志からの裏切りがこたえたということだろう。野木もまた共同開発者からの裏切りにより猜疑心が生じていた。財前の依頼を断るのも無理はない。佃は北海道まで飛んで野木と会い、旧交を温めたタイミングをねらって財前と引き合わせる機会をつくるのだが、それでも野木はなかなか承諾しない。


佃も佃で、伊丹からは島津と同じく手痛い仕打ちに遭っていた。以前、佃がギアゴーストにバルブを提供して、ヤマタニに納品する予定だったトランスミッションの計画を棚上げにされてしまったのだ。もちろん、ギアゴーストがダイダロスと提携することになったためである。伊丹はまた、別の農機具に納品を予定しているが、そのトランスミッションのバルブには、佃ではなく以前コンペで争った大手の大森バルブを採用するという。わざわざ先方に出向いたにもかかわらず、コケにされた格好になり、佃も思わず「こんな裏切りにあったのは初めてだ!」と声を荒らげてしまった。

伊丹との一件を伝えられた佃製作所の社員は、その直後、居酒屋でギアゴーストの社員たちと鉢合わせた。
そこで、島津に代わってギアゴーストの技術主任に就いた氷室(高橋努)という男から、佃や島津の悪口を言われ、技術開発部の若手・立花(竹内涼真)が思わず殴りかかろうとする。どこにでもいやなやつはいるものだ(第6話ではまた、佃が元経理部長の殿村[立川談春]をその郷里の新潟に訪ねたおり、彼が農林協の職員から嫌味を言われるところに遭遇していた)。そういえば、この手のいやなキャラといえば、佃製作所の技術開発部には軽部(徳重聡)という“逸材”がいたのを思い出した。軽部が居酒屋にいなかったのは、いつも定時退社で、まっすぐ帰宅しているからだろうが、ここしばらく出番がないのが、ちょっと寂しい。

福澤朗の役はじつは重要な役だった!?


帝国重工とのプロジェクトのため、最初の難関となった野木については、後日、彼が学会で上京したところを、佃がうまく誘い出して、ある場所へ連れていく。そこは帝国重工本社で、佃製作所の開発したバルブシステムの試験が行なわれている最中だった。試験の結果に一喜一憂する社員たちの姿に野木も心を動かされる。
佃は野木をさらに自宅に招くと、新潟の殿村が送ってくれた米を食べさせ、高齢化の進む農業の現状を語って聞かせるのだった。ここまでされるとさすがに野木も折れて、協力を約束する。

さて、佃製作所が帝国重工から農機用のエンジンやトランスミッションを請け負うとなると、それまで取引をしていた農機具メーカーのヤマタニにもあらかじめ仁義を切っておかねばならない。そこで佃自ら本社に赴いたのだが、担当者の蔵田(坪倉由幸)と入間(丸一太)はむしろ歓迎するようなそぶりを見せる。それもそのはずで、ヤマタニは佃を切り、ダイダロスとギアゴースト、さらにキーシンの連合軍(?)と組んで何やらプロジェクトをたくらんでいたからだ。

そこへ来て佃は帝国重工から、いきなり今回のプロジェクトの総責任者が財前から的場に替わると告げられる。これは的場による佃つぶしの始まりだった。的場はこのあと財前に、トラクターのトランスミッションとエンジンは帝国重工が自前でつくるとして、佃を切れと命じる。このとき、トランスミッション開発を任されたのは、福澤朗演じる機械製造部長の奥沢だった。この奥沢、単なる的場の腰ぎんちゃくかと思っていたら、何と「ミスター・トランスミッション」とまで呼ばれる技術者だったらしい。

他方、的場がプロジェクトの総責任者となったと伝え聞き、伊丹と重田は色めき立つ。まさに復讐の機会がめぐってきたというわけである。こうして登場人物たちそれぞれの思惑が渦巻くなか、佃は否応なしに巻き込まれようとしていた。果たして帝国重工に切られた佃は、どんな手に打って出るのか。今夜放送の第7話も目が離せない。

現実にも実用段階に入った無人トラクター


第6話では、実際に無人で動くトラクターも登場した。それは佃が野木の大学を訪ねた場面。歩いている学生がトラクターが近づいてきたのに、ヘッドホンをしているせいかよけるそぶりをまったく見せない。佃は大声で知らせるのだが、トラクターは無事、学生が横切ろうとしたところで停車した。当の学生は佃に気づくと「これ、勝手に停まるんで」と平然と言ってのける。でも、トラクターが近づいてきたら、自動的に停まるとわかっていても、反射的によけるのでは? いや、最近の新人類は違うのか……。それはともかく、このあと佃が調子に乗って、トラクターの前に何度も立ちふさがって停車させる様子が、おかしくもあり、自分で試さずにいられないところはさすがエンジニアと思わせた。

「ヤタガラス編」の重要なモチーフとなる衛星測定システムを用いた無人トラクターは、いままさに実用段階に入ろうとしている。昨年6月には、「下町ロケット」のスポンサーでもあるクボタが自動運転できるトラクターの試験販売を開始、他のメーカーも今年以降、続々と自動運転農機の商品化に乗り出そうとしている。こうした先端の技術を活用する農業は、「アグリテック(アグテック)」(アグリカルチャー=農業とテクノロジーを掛け合わせた造語)、「スマート農業」などと呼ばれ、2018年は「アグリテック元年」になるとの声もある(『週刊エコノミスト』2018年4月17日号)。

今月1日には現実の日本の準天頂衛星システム「みちびき」の運用が開始されたが、これに先立ち、昨年10月にはみちびきを利用した農業用トラクターの自動走行実験が、各メーカーと北海道大学が参加して北海道で実施されている。北海道大学では、大学院農学研究院の野口伸教授らのチームがこの分野の先駆的存在として長らく研究開発を進めてきた。このチームの次なる目標は遠隔操作による完全無人運転だという(「Sankei Biz」2017年7月17日)。

「下町ロケット」の「ヤタガラス編」はもちろんこうした現状を踏まえている(前出の野口教授は「下町ロケット」でも無人トラクター監修を担当している)。ドラマの公式サイトには、クボタによる農業機械や技術の解説も掲載されており、こちらも興味深い。読んでおくと、ドラマがより楽しめるのではないだろうか。
(近藤正高)

※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎、槌谷健、神田優
【音楽】服部隆之
【劇中歌】LIBERA(リベラ)「ヘッドライト・テールライト」
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健太
【製作著作】TBS