NHK総合のドラマ10で放送されてきた「昭和元禄落語心中」が今夜、最終回を迎える。

ドラマでは第2話から第6話にかけて、主人公の八代目有楽亭八雲(岡田将生)の昔語りという形で、八雲が二代目有楽亭助六(山崎育三郎)とともに先代八雲(平田満)のもとで切磋琢磨しながら成長するさまが描かれた。
やがて二人は落語界のホープと目されるまでになるも、助六はその後破門され、芸者のみよ吉(大政絢)と彼女の郷里の四国へ駆落ちし、ついには八雲の目の前で“心中”を遂げる。昭和38(1963)年のことだった。
見事なドラマ「昭和元禄落語心中」竜星涼再登場7話から振り返る「心中」の真実は明かされるのか今夜最終回
『昭和元禄落語心中』原作の単行本第9巻。表紙のイラストはドラマでも印象的だった、与太郎・小夏・信之助による家族写真撮影時のエピソードから

与太郎、ヤクザの組長に啖呵を切る


続く第7話では、第1話で八雲に入門した元チンピラの与太郎(竜星涼)が再び登場した。時は第1話から10年が経った昭和62(1987)年。昭和も終わりがけ、世はバブルの真っ只中だが、落語界は衰退の一途をたどる。そんななか与太郎は将来を期待され、まもなく二つ目から真打に昇進しようとしていた。かつて八雲から破門されかけて以来、遊びも一切やめ、落語に精進した結果である。

第6話で描かれたように、助六とみよ吉が死んだあと、その一人娘・小夏(成海璃子)は八雲に引き取られ、彼と運転手兼お手伝いの松田(篠井英介)に育てられた。彼女は長じて、母の生前の芸者仲間であるお栄(酒井美紀)の経営する料亭で仲居として働いていたが、第7話で妊娠が発覚する。だが、小夏はお腹の子供が誰なのか誰にも明かさない。そんな小夏に与太郎は自分が子供の父親になるとプロポーズするも、事は簡単には進まなかった。

与太郎は、落語家仲間(その後タレントに転身)の円屋萬月(川久保拓司)の協力を得て、ひそかに小夏の子供の父親を探し続ける。その末に、ヤクザの組長(中原丈雄)に行き着いた。
この組長こそ、かつて与太郎に兄貴分の身代わりで刑務所行きを命じた因縁の相手だった。

第8話では、組長が料亭で小夏と一緒にいると聞きつけた与太郎が、座敷に乗り込み、自分は彼女と結婚すると切り出した上、お腹の子のことをはっきりさせるよう問いただす。これが組長の怒りを買い、庭の池に突き飛ばされてしまう。それでも彼は懲りない。小夏が謝るのに免じて、この際だから話を洗いざらい聞いてやるという組長に対し、与太郎は「誰が何と言おうとアネさん(小夏)のお腹の子はオイラの子でぇ! 正真正銘、天地くるりと入れ替わっても譲らねえ。いいか、あとからくれつったってぜってぇあげねえど! なーんも疑うことはねえ。だからこの話は、きょうかぎりこれっきりでおしめえだ」と啖呵を切ってみせる。それは「大工調べ」という噺に出てくる啖呵切りをアレンジしたものだった。大声で流れるように言い分を並べ立てる与太郎の話芸に、組長もすっかり聞き惚れてしまう。結局、与太郎はそれまでの精進を組長に褒められ、事は収まった。

その後、小夏は組長に以前世話になっただけで、何の関係もないことが本人の口から明かされる。与太郎は、彼女の覚悟を知って、それ以上、詮索するのをやめた。
その上で、あらためて一緒に暮らそうと持ちかけたのである。

原作からエピソードの順番を変更


与太郎は一方で、真打昇進を前に、芸についても悩んでもいた。10年にわたる修業中、八雲師との約束で、師匠だけでなく助六の芸風をそっくり身に付けたものの、自分の芸風をまだ見つからないというのだ。それは八雲もかつて通った道である。昇進披露を目前に控えたある日、八雲は与太郎の間借りする部屋(駄菓子屋の2階)をふらりと訪ねると、最後の稽古だと、「芝浜」を教える。助六が久々にして最後の高座で披露した大ネタだ。八雲と助六、両方の想いを背負って、与太郎はこの噺を真打披露で演じることになる。結果は大成功で、彼は自分の芸風をようやく見出した。

雲田はるこの原作マンガでは、与太郎の真打昇進も、小夏との結婚、そして出産も、わりとあっさり描かれている。これに対してドラマでは、二人が結ばれ、子供が生まれるまでにさまざまな障壁を乗り越えていくという展開となっていた。ただし、出てくるエピソードはほぼすべて原作に出てくるものだ。本来の話の順番を変えたというわけだが、そこを無理なく、かつ劇的にアレンジしたところに、脚本の羽原大介の手腕をうかがわせる。

第8話では、小夏が難産の末に出産するシーンも出てきたが、これは原作にはないドラマ独自のシーンだった。
第1話のレビューで、本作と同じく小夏というヒロインが出てくる映画「蒲田行進曲」との共通性を指摘したが、与太郎が無事に「芝浜」をやり終えたのを見届けた小夏に陣痛を来るという流れは、「蒲田行進曲」で、大部屋俳優のヤス(演じたのは七代目八雲と同じく平田満)の決死の階段落ちを見届けた小夏(松坂慶子)がやはり陣痛で倒れるという展開を思い起こさせた。ヤスと与太郎いずれも、自分ではない男の子供を孕んだ女をめとったという点でも共通する。このドラマにおいては、不幸にも亡くなった両親の分まで小夏が生き、命を継承していくという意味でも、出産シーンはどうしても必要だったのだろう。

ついに明かされる助六とみよ吉「心中」の真相


こうして第7話から第8話にかけて、与太郎と小夏がさまざまなハードルを乗り越えて結ばれるまでを描いたあと、第9話ではさらに7年の歳月を経た平成7(1995)年、二人が小学校に上がるまで成長した息子の信之助(嶺岸煌桜)と、八雲と松田とともに幸せな暮らしを送る様子が描かれた。それまで波瀾続きだった彼らにもようやく平穏なときが来たかと思わせるも、70歳をすぎた八雲は確実に老いを迎えていた。記憶力の衰えから稽古中、言葉がつっかえたり、高座に上がる前には、もし客の前で噺が思い出せなくなったらという不安で手が震えたりと、先代八雲の晩年と同じ境遇に悩まされることになる。

落語界自体も、三代目助六を襲名した与太郎人気で寄席に客は集まっていたとはいえ、移転前の古い寄席の建物が再建の見込みが立たず取り壊しが決まるなど(そこには、関西での地震=阪神・淡路大震災後の耐震基準の更新も影響していた)、けっして将来は安泰ではなかった。

小夏はそのころ、寄席で三味線など楽器を演奏する下座を勤めるようになっていた。一方で彼女は、かつて八雲が聞かせてくれた両親の死の話にはどこか嘘があるのではないかと疑念を抱き始める。そこへ来て、小夏の父・助六と若き日の八雲(当時は菊比古)による落語会を撮影した8ミリフィルムが四国で見つかったとの報せを受けた。それを観れば、両親の死の真相について何かわかるかもしれない……彼女のなかに期待が生まれる。

そんななか、八雲が与太郎との親子会での高座で、「たちきり」を演じ終えるとそのまま倒れ込む。だが、彼は生き延び、目を覚ますと、そばにいた小夏に、両親の死の真相を自分が何も言わずに死んだら怒るかと訊くのだった。
果たして、助六とみよ吉について八雲は何を隠し通してきたのか、今夜放送の最終話でいよいよあきらかとなる。

松田さんには割烹着がよく似合う


八雲役の岡田将生、与太郎役の竜星涼ら主要キャストの熱演が光る「昭和元禄落語心中」だが、脇を固める人たちもいい味を出している。たとえば、八雲を少年時代から世話し続ける松田さん。小夏に対しても、両親の死後は親代わりとなって育ててきただけに、妊娠発覚時には本気になって怒っていたのが印象的だった。演じる篠井英介は劇団「花組芝居」で長らく女形を演じてきたからか、割烹着もよく似合う。

松田と同じく、八雲や小夏を昔から見守ってきたお栄も、歳をとってからますます存在感が増した。第7話の時点でおそらく50代といったところだろうが、演じる酒井美紀(現在40歳)は実年齢よりかなり上のこの役に、話し方からして見事になりきっている。清純派女優としてデビューしたころから彼女を知っている世代には何だか感慨深い。
(近藤正高)

※「昭和元禄落語心中」はNHKオンデマンドで配信中
【原作】雲田はるこ『昭和元禄落語心中』(講談社)
【脚本】羽原大介
【音楽】松村崇継
【主題歌】ゆず「マボロシ」
【落語監修】柳家喬太郎(ドラマ中にも木村屋彦兵衛役で出演)
【落語指導】柳亭左龍
【出演】岡田将生、山崎育三郎、竜星涼、成海璃子、大政絢、川久保拓司、篠井英介、酒井美紀、平田満ほか
【制作統括】藤尾隆(テレパック)、小林大児(NHKエンタープライズ)、出水有三(NHK)
【演出】タナダユキ、清弘誠、小林達夫
【制作】NHKエンタープライズ
【制作・著作】NHK テレパック
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