最終回では、後述するとおり、佃製作所が社員総出で一つの問題に取り組み、一旦は挫折しながらも見事に克服した。これは原作小説にはないシーンで、いかにも泥臭さが持ち味のこのドラマらしい山場となっていた。
首相を前の対決は空振りに終わるが……
最終回の前半では、前回の終盤で話が出ていたとおり、浜畑首相を前に、帝国重工のアルファ1と中小企業連合軍のダーウィンによる無人農業ロボットの実演が行なわれることになった。
だが、本番当日、スケジュールの都合により首相が見るのはダーウィンだけと変更される。帝国重工の的場(神田正輝)はこれに激高し、自ら首相にアルファ1も見てほしいと直談判するも、逆に「中小企業をいじめないでください」と大観衆を前に諭されてしまう始末。帝国重工の下請け切りは、マスコミを通じて首相も知るところとなっていたのだ(まあ、見方を変えれば、首相が衆人環視のなかでそんな発言をしたのは、人気を取るためのパフォーマンスともいえるが)。すっかり面目を失った的場に、さらに追い打ちをかけるようにダーウィン連合の重田(ダイダロス社長/古舘伊知郎)と伊丹(ギアゴースト社長/尾上菊之助)が現れ、いかにも嫌味たらしく挨拶をした。二人としてみれば、因縁の相手である的場に対し、直接、復讐を果たした瞬間であった。
ダーウィンの実演が終わると、会場から一斉に観客が掃ける。結局、ほとんどの人はマスコミで話題のダーウィン見たさに来ていただけだった。しかし、この日のために万全を期して準備してきた佃航平(阿部寛)ら佃製作所の面々は、張り切ってアルファ1を送り出す。結果は、先のアグリジャパンでは機能しなかった自動ブレーキを含めすべてのテストをクリア、しかもタイムではダーウィンを大幅に上回った。
もっとも、そんなことはマスコミからも一般の人からも一顧だにされなかった(ただ一人、ギアゴーストの柏田〈馬場徹〉が気づいて伊丹に報告していたが)。
佃製作所、全社を挙げての大勝負へ
このあと、ダーウィンは来年7月に商品化すると発表、帝国重工のアルファ1の発売も合わせることになる。が、ダーウィン側は帝国重工の出方を見た上で、さらに発売を3ヵ月前倒しすると不意打ちを突いてきた。佃製作所としては7月でもギリギリのスケジュールであったが、それを知った的場はこれぞ佃を切る好機と、エンジンとトランスミッションを内製化に切り替えればダーウィンと並んで前倒しも可能だと、役員会議でぶち上げる。アルファ1プロジェクトのそもそもの提案者である財前(吉川晃司)はこれに慌てて、思わず反論する。
その様子を見て、社長の藤間(杉良太郎)はある提案を行なった。それは、帝国重工と佃製作所のどちらの製品が無人農業トラクターにふさわしいか、第三者機関に審査を依頼した上、その結果で判断を下そうというものであった。
藤間は財前と佃製作所に助け舟を出した格好だが、もし、審査で的場の推す帝国重工の内製品に軍配が上がれば、藤間の失脚にもつながりかねない。そうなれば、佃製作所は、無人農業ロボットばかりか、ロケットエンジンに提供しているバルブシステム(藤間はロケット開発を推進してきたが、的場はこれにずっと反対していた)からも撤退を余儀なくされる恐れがある……。
財前を通じて審査への参加を要請された佃たちは、この勝負が自社の死活につながるものだと気づくと、農業ロボットチームのみならずロケットチームも加わって全社を挙げて取り組むことになる。
チーム島津、連日徹夜でついに問題を克服する
だが、トランスミッション開発のリーダーである島津にはちょっと気になることがあった。首相に見せる前のテストで、アルファ1から異音を感じ取ったのだ。これは何か不具合の予兆か、それとも自分の思い過ごしなのか。しかし審査までに残された時間はごくわずか。
こうして連日、徹夜しながらトランスミッションの点検が続けられた。島津がギアの耐久性に問題があると気づくと、その改善に全力を注ぎ、何度もテストを繰り返すも、目標の数値にはなかなか達しない。皆、精も根も尽き果てかけたとき、立花(竹内涼真)がふと、問題があるのはギアではないかもしれないと口にする。それを聞いて島津が、はたと問題はシャフトにあるのではないかとひらめく。はたしてシャフトを改良してみたところ、耐久性が格段に上がった製品が完成した。
審査結果も、ためにためた末に伝えられ、帝国重工が「C」判定に対し、佃製作所は「A」判定と見事に勝利を収める。一方、的場たちは審査機関から、帝国重工のエンジンとトランスミッションはあまりに設計思想が古いので、内製化をめざすのなら佃製作所の指導を受けるべきだと、屈辱的ともいえる忠告を受けていた。

勝負にこだわらない佃と、なおも執着する面々
「下町ロケット」の第2部にあたる「ヤタガラス編」をあらためて振り返ってみると、ダーウィンとアルファ1が直接対決する機会は2度あったが、いずれも佃たちは土俵に上がることなく終わったことに気づく。
帝国重工の的場に対しても佃の態度は変わらない。そのことは、彼が審査結果の出る直前、別件で帝国重工を訪れた際、たまたま出くわした的場に訴えた次の言葉にも表れていた。
「これは佃製作所と帝国重工の勝負なんかじゃない。ましてやダーウィンとアルファ1の勝負ですらないんです! 俺たちは俺たちのつくるトランスミッションの先にあるもの、それを使う農家の人たちの喜ぶ姿が見たいんだよ。的場さん、どうか同じ夢を見てくれませんか。われわれがつくる農業ロボットがいつか日本の農業を救うという同じ夢を。復讐や憎しみだけじゃ未来はつくれない。夢を持つことでしか前に進めないんだ!」
しかし的場は聞く耳を持たなかった。先の審査結果に、悔しさと怒りを爆発させた彼は、何としてでも藤間を追い落とし、自分が社長になろうとますます執心することになる。
その後、ダーウィンとアルファ1(商品化にあたりランドクロウと改称)は予定どおり売り出された。
ギアゴーストでも注文に追われる一方で、ユーザーからダーウィンが動かなくなったとの連絡もあいついで届いていた。じつは社長の伊丹は、すでに首相を前に実演した際に、島津からトランスミッションに異常があるのではないかと指摘されていたにもかかわらず、ずっと放置してきたのだ。その報いが、ここへ来てじわじわと表れ始めたわけだが、果たして伊丹たちダーウィンプロジェクトの面々はこれにどう対処するのか。
勝負に我関せずの立場を貫く佃に対し、なおも勝負に執着する的場や伊丹たち。除夜の鐘が鳴っても煩悩が消えそうにない彼らに、このあとどんな運命が待ち受けるのか。正月の特別編がいまから気になるところである。的場には佃と同じ初夢を見てほしいが……。
(近藤正高)
※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎、吉田真侑子
【音楽】服部隆之
【劇中歌】LIBERA(リベラ)「ヘッドライト・テールライト」
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健太
【製作著作】TBS