脚本家・菊村栄(石坂浩二)が新コンシェルジュの有坂エリ(板谷由夏)と、亡き妻・律子(風吹ジュン)の墓参りをしてウッキウキという浮かれた展開からスタート。
「あの人、せっかく乗りかけて(シナリオを)書いていたのに、エリちゃんのことが気になって原稿よりもメールに気がいってますの」
夢の中で律子や、死んだ九条摂子(八千草薫)から責め立てられ、再び「道」のシナリオ執筆に戻る。
このシーン、八千草薫が体調不良で降板する以前に撮影したもののようだが、やはりいい味を出している。体調を回復しての再登場に期待したい。

特高警察と反戦男とで揺れる三角関係
ドラマ内ドラマ「道」の方も、書いている菊村が色恋で浮かれているのを反映してか、色恋ネタ中心。
根来公平(風間俊介)の思いをよそに、小枝の文通で恋を育んでいたしの(清野菜名)と三平(風間晋之助)だったが、ここに来て新たな男が参戦する。
しのは「国防婦人会」からの依頼で、町の道場まで特技のなぎなたを教えに行くことに。そこで剣道の師範代・小沼良吉(大貫勇輔)と出会う。
しのは、小沼になぎなた vs 剣道の試合を申し込むが、白目をひんむくほどの面を喰らってぶっ倒れてしまう。
気絶したしのは、菜の花畑でキラキラ~と輝く小沼と……。だいぶ浮かれた夢を見て、すっかり惚れてしまったようだ。棒の長さで表現すると、三平の5倍くらい。ヒドイ!
ここまでは浮かれたラブコメのようだが、太平洋戦争直前というご時世。単なるラブコメで済まない。
片や三平は「国家に反逆する」側の思想を持つ元・教師の室井に心酔しており、室井からの依頼で、危険思想とされる書籍を山奥に隠す手伝いまでしていた。
今週も室井の妻・小夜子(小林涼子)から呼び出され、何やらやばいメモ書きがされている雑誌を掘り起こして、焼却することを依頼されている。
以前から、しのは戦争に非協力的な室井たちの考えに反発していた。
むしろ、深く考えずに「お国のために戦う!」とか言っちゃうネトウヨっぽい思想を持っているだけに、恋愛面でも思想面でも、三平よりも小沼に惹かれてしまうのは仕方のないところか。
三平に関しては、
「弱くていつも絵ばっかり描いてて。このご時世に美術学校に行きたいだなんて、そういうこと考えている人なんです」
一方、小沼は、
「お国のために、人に嫌われても与えられた仕事を一生懸命なさってる真面目な方だって、そう思ってます」
これは勝負あった……。そりゃ小枝の返事も書かなくなるわけだわ。
しかしそれ以上に「好きな男」の話で話題にすら上がらない公平……不憫だ。
映画やドラマにはまず出てこない、葛藤する特高警察
注目したいのは、特高警察である小沼の人間性。
「武道は相手を叩きのめすためのものじゃない。特に女性には、自分の身を守るためのもの。
と、しのをたしなめていたように、ステレオタイプな特高警察のイメージからはかけ離れた人物像だ。
室井のことも知っているようで、「真面目ないい人間ですよ」「そういう(反戦)思想さえ持っていなかったら、友達になっていたかも知れない」と語っていた。
戦時中を舞台にした作品に特高警察が登場することは多いが、ほぼすべて反戦思想を持つ国民をビシビシ取り締まる権力の犬的な存在として描かれている。
「はだしのゲン」に出てくる特高に至っては、黒目がない白目オンリーの恐ろしい形相でガンガン拷問を加える、完全なる思想弾圧マシーンだ。
小沼のように、多様な考え方を認める特高警察が映画やドラマで描かれることは皆無だろう。
特高警察だと知られると、みんなから引かれるので、居酒屋などではただの会社員のふりをしているという小沼。
「普通の人間対人間として付き合って欲しいから……」
室井自身は特高に引っ張られた上に徴兵され、既に戦地へ送られているが、残された妻・小夜子や三平は反戦的な思想を持ち続けている様子。
今後、小沼と三平は、しのを巡る色恋バトルだけではなく、特高警察と反戦思想の持ち主という立場でも対立していくのかも知れない。
ネトウヨ的な思想に染まっているしのは、今のところ反戦思想を取り締まる特高・小沼の方に惹かれているようだが、その小沼が三平を引っ張るなんてことになったらどうするのか?
また、しのの「好きな人」である三平を取り締まることになった時、小沼はどうする?
映画やドラマではまず登場しない、葛藤を持った特高警察がどう描かれるのか。そして、しのちゃんのネトウヨ思想がどの段階で変節していくのか注目したい。
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
・Tver
『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日