
(→前回までの「オジスタグラム」)

明日も新作更新します。
寝たがりません、書くまでは。
皆様、この度は誠に申し訳ありませんでした。
しかし、僕は知ってる。
もう僕の謝罪の言葉には何の意味もない。
それは皆様が一番お分かりだろう。
狼少年と一緒のシステムだ。
謝れば謝るほど一回の謝罪の効力が減る。
僕はもう人生で謝罪し過ぎた。
「ご」と打てば、予測変換で「ごめんなさい」が出るし、「す」で「すみません」、「う」で「生まれ変わる」、「ち」で「遅延」と出る。
謝罪専用のシャザートフォンだ。
謝った事がない人でもこれに機種変すればスムーズに謝れるだろう。
しかし、今回ばかりは反省した。
「遅延の中にも礼儀あり」
謝罪は僕のエゴでさせて頂いてるとしても、遅延の報告だけは最低限の誠意だと思っていたし、今までそこは守っていたつもりだ。
しかし今回は遅延の報告も遅延したのだ。
遅延の報告を遅延しだしたら人間おしまいだ。
本当に反省している。
もう遅延は絶対にしない!とは言わないが、
遅延の報告の遅延は絶対しない! とはここで声高らかに言わせて欲しい。
「本当にこの度は申し訳ありませんでした。本当に反省して生まれ変わります。もう二度とこのような事はございません。ごめんなさい。私は糞です。本当にすみませんでした。遅延遅延遅延遅延遅延遅延。」
↑
とりあえず、この文を数秒で打てるシャザホを機種変更する事から始めたい。
夕日を背にニカッと微笑むおじさん
ではでは、反省はこのくらいにして二夜連続オジスタグラムの初日と行こう。
二夜連続と言っても話が繋がってるとか、伏線の回収なんて高尚なものは全くないので、そこを期待してる方はYouTubeなどで伏線回収、スペース、コントで検索して欲求を満たして欲しい。
その日の夕方、僕は最近ハマっているゲーム「ドラクエウォーク」で荻窪の公園に現れたでっかいモンスターを倒しに向かった。
芸人として何の武器を持たない僕も、ドラクエウォークの中ではガチャで最強の剣を手に入れた勇者だ。
準備は万端である。
万にひとつも負ける事はないだろう。
しかし、僕は結局でっかいモンスターを倒す事は出来なかった。
僕が公園に着き、ベンチに腰掛けてでっかいモンスターと戦っていると
「それはゲームかい?」
声の先に顔をあげると、そこには夕日を背にニカッと微笑むおじさんが立っていた。
口元から覗く控え目な歯の数を見た瞬間、僕は勇者からオジスタグラマーに転職した。

これはなんて犬種?
とゆう事で、本日のオジスタグラムは健介さん。
笑顔が「ばくだん岩」似のチャーミングな56歳のおじさんだ。
「え? じゃ、そのバケモノを倒す為にここに来たのか?」
「そうなんですよ」
「はぁー! 凄いなぁ!最近のゲームは! えー!? これは何なの?」
ベンチに座り健介さんが僕のゲームに興味を持ってくれたのも束の間。
健介さんは目に入る全てに興味を示す。
「おっ!可愛いわんちゃんだねぇ。よーしよしよし。これは何て犬種? 柴犬か!」
「なんだ!?あの鳥!?見た事ないぞ! あっ?カラスか」
「こんにちはー! これはなんて犬種?」
「おっ! 鳩だ!」
もうでっかいモンスターどころではない。
健介さんは、通りかかる犬の散歩の人にはもれなく犬種を聞くし、鳩が来たら捕まえようとする。
こんな無邪気なおじさん初めてだ。
小学生を飲みに誘う
健介君とゆう少年がここに来る途中でこのおじさんと派手にぶつかって入れ替わったと言われた方がまだしっくりくる。
半袖短パンとゆう格好も相まって、もはや小学生に見えてきた。
確かに小学生も歯が少ない。
小学生とは歯と責任が少ない生き物である。
間違いない。健介さんは小学生だ。
小学50年生のおじさんなのだ。
気付くと僕は懲役覚悟で小学50年生を飲みに誘っていた。

「かぁ~!うまい! いいの? ほんとに奢って貰って?」
「勿論です。こっちが誘ったんで。好きなだけ飲んで下さい。」
「やったー!ガハハ!」
「ケケケ!」
50年の時を経て、牛乳瓶をジョッキに持ち替えた健介さんは期待を裏切らない。
「やったー」って……。
「やったー」はおじさんが言わない言葉ランキングで常に上位をキープしている言葉だ。
どうゆう人生を歩んだら、こんな風に天真爛漫にいられるのだろうか。
大人になってしまった
健介さんの前ではみんな笑顔になる。
女性店員さんに、ちくわの磯辺揚げが美味しかった事を屈託のない笑顔で伝える健介さんを見ながら、ふと大人になってしまった自分を省みる。
小学生の時に算数の文章題が解けずに、悔しくてみんなの前で泣いた僕はもういない。
泣いてるのをみんなにバカにされて、担任の伊原先生がみんなを怒ってくれた。
「岡野君の涙をバカにする事は先生許しません! 岡野君の涙は美しい涙です!」って。
その日から僕のあだ名は「美しい涙」になった。
教育って難しい。
普通に知りたいだけ!
そんな事を思い出している横で、健介さんはまた他の女性店員さんに声をかけて、煮込みに入ってる具を詳しく聞いている。
「健介さん、煮込みの具聞いてる人初めて見ましたよ。ヘケケ」
「えー? そうか!」
「あんまり聞かれないですよね? 店員さん?」
「そうですね。エヘヘ。アレルギーとかあるなら」
「健介さん、アレルギーとかですか?」
「何にもないよ。
「ウフフフ」
さすが、小学50年生!
何でも気になった事は聞くからこの子伸びるなぁ。
なんて思っていたが、時間が経つにつれ僕は健介さんが女性店員さんにしか声をかけてない事に気付く。
この店の店員さんの男女の割合は1:1である。
こんな偶然あるのだろうか。
男性店員さんが来た時には全く声をかけず、女性店員さんが来た時には僕との会話の途中でもお構い無しに、小学生のふりをして色々聞くのだ。
思い返せば犬の散歩してたのも全部女性だった。
小学生かエロ河童か
あれ? 小学生だと思ってたおじさんはただのエロ河童だったとゆう説も出てきた。
このエロ河童おじさんは、女性が少年のような心もってる人が好きってのを絵にかいたように演じてるんじゃないかと。

お会計を済ませると、エロ河童が嘴を開く。
「今日はありがとな! 楽しかったわ!」
「いえいえ! こちらこそです!」
「御馳走様!」
「とんでもないです!行きますか」
「兄ちゃん……」
一瞬、健介さんが神妙な顔をする。
「どうしました?」
「……もう一杯だけ飲んでいい?」
普通に笑ってしまった。
「いいですよ!ケケケ!」
「やったー! ガハハ!2杯でもいい? ガハハ!」
大人になるといらない事を考えてしまう。
世の中大概どうでもいい事だ。
健介さんの笑顔を見ていると、もう健介さんが小学生かエロ河童かなんてどうでもいい。
小学50年生の最高のエロ河童だ。
今日はとことん飲む事にする。

(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)