「スカーレット」59話「男と女の痴情のもつれや、わからんやろ」
連続テレビ小説「スカーレット」59話。木俣冬の連続朝ドラレビューでエキレビ!毎日追いかけます

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連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「スカーレット」59話「男と女の痴情のもつれや、わからんやろ」

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第10週「好きという気持ち」59回(12月6日・金 放送 演出・鈴木 航)


58回でなにやら憂い顔をしていた直子(桜庭ななみ)がそのわけを常治(北村一輝)のいない間に話し出す。
仕事で辛いことがあったわけではなかったのだ。
直子はまず百合子(福田麻由子)に席を外すように言う。
子供だからわからないと。
次に喜美子(戸田恵梨香)まで。
「男と女の痴情のもつれや わからんやろ」と過激なことを言われ、そのときの目と口を丸くする喜美子がかわいい。そして、百合子とふたり膝を抱えて向かい合って聞き耳立てるところもかわいい。
なんだかんだ言ってマツ(富田靖子)にだけは話す直子もかわいい。

牛田が来た


新人指導係の牛田さんにいろいろ面倒見てもらったことを羅列する直子。そのたび「新人指導係やもんなあ」「新人指導係やもん」「新人指導係やし」と現実に引き戻すマツがいい仕事している。
語尾だけ微妙に変えて。

「牛田さん」は、フカ先生が弟子入りした「森田隼人」と同じく、出てこないけど名前だけ印象的というキャラであろうか。その牛田さんは新人指導係なのに映画に誘ってくれて(ここのマツの顔は「新人指導係…の役割を超えたように思っている」顔になっていた)、直子の「ここんとこに」キスしてみたものの、彼には恋人がいて妹のようにしか見ていないのだった。ここで、「ここんとこ」とは頬か額かなどと喜美子と百合子がジェスチャーしている。ジェスチャーゲームがここで生きた。

ちっとも痴情のもつれじゃない、たわいない恋の話だが、マツに「自分の中の好きいう気持ちに気ぃついて、好き言う気持ちを大切にしたんやろ」と優しく言われ、直子は東京に戻るとすっかりすっきり。


それをふすまの向こうで聞いていた喜美子は「好きという気持ち」について考えているのだろう。

「好きな人ができたら世界が広がるよ」


59回では喜美子が、直子、草間(佐藤隆太)、八郎(松下洸平)の順に、「好きという気持ち」に近づいていく。
草間は、常治に頼まれて、直子を連れて東京に帰る前に喜美子の絵付け火鉢を見ながら、「これからもっといろんな経験や出会いを」して、例えば、「好きな人ができたら世界が広がるよ」と助言をする。
草間さんには別れた妻との出会いがそれのひとつだった。

草間さんが、喜美子が言語化できない創作意欲を言葉にし(「こう自分の手でなにかを生み出す作業が好きなんだな」)、彼女の潜在意識を刺激したことと、直子のこともあってか、八郎の陶芸作業見学の際、喜美子は彼の横顔をじぃーっと眺める。でも手付きでなく顔を。ぴたりと接近して横顔を見つめられているのが恥ずかしい八郎は、喜美子に実作業をさせる。

八郎は喜美子の後ろから陶芸指導をする。
おそらく、はじめて家族以外の男性に体を触れられているのではないか。信作(林遣都)と照子(大島優子)と押しくらまんじゅうした以来では。

八郎役の松下洸平がこの大役に選ばれたわけは、骨っぽさかなと思う。喋り方や顔は穏やかだが、粘土を扱う手指が存外、男っぽい。白くて長いが、白魚の……というのではなく、ほどよくごつっとしている。
ひじから手首まではすっと細いが、手は四角い。お父ちゃんのように匂い立つような労働者のたくましさではないが、さりとて女性的でもない。爪に向かって細くなっていくのではなく均等に四角い。節々のでっぱりも小さな顔の下の首から突き出す喉仏もくっきりしている。肌が白く石膏像みたいなひんやりした熱情が漂う。機械と人間の間みたいな。

父とも自分とも違う生き物に触れられた喜美子の世界が広がっていく。

陶芸ラブといえば「ゴースト ニューヨークの幻(90年)が有名だが、令和になってもまだ有効なんだろうか。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)


●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。中学卒業後、大阪の荒木荘に女中として就職。三年働いた後、実家の経済事情の悪化により信楽に戻り、丸熊陶業に就職。深野心仙に弟子入りし、絵付けを学び、丸熊陶業初の女性絵付け師として一人前になる。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。
気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。オート三輪を無理して買ったうえに捻挫して働けなくなって喜美子を呼び戻す。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。東京の熨斗谷電機の工場に就職する。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉→住田萌乃 末っ子でおとなしかったが、料理もするようになり、直子が東京に行くと気丈になっていく。家庭科の先生になるため大学進学を目指す。

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。喜美子とは幼いときキスした仲。京都の短大を卒業後、婿をとり、身ごもる。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。娘には甘い。昭和34年、突然死。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母。敏春を戦死した息子の身代わりのように思っている。
熊谷敏春…照子の婿。 京都の老舗旅館の息子。新商品開発に意欲を燃やす。先代の突然の死により
社長となる。

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の幼馴染。子供の頃は心身共に虚弱だったが、祖母の死以降、キャラ変し、モテるように。高校卒業後、役所に就職する。

大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。マツの貯金箱を預かったことで離婚の危機に直面する。

●信楽で出会った人たち 幼少期
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。

草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいて、帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道(草間流柔道)を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。
…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

●信楽 丸熊陶業の人々
城崎剛造…渋谷天外 丸熊陶業に呼ばれて来た絵付け師。気難しく、社長と反りが合わず辞める。
加山…田中章 丸熊陶業社員。
原下…杉森大祐 城崎の弟子。
八重子…宮川サキ 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
…西村亜矢子 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
西牟田…八田浩司 丸熊陶業の中堅社員。

深野心仙…イッセー尾形  元日本画で戦後、火鉢の絵付け師となる。喜美子を9番目の弟子にする。
若社長の代になり、長崎の若手陶芸家・森田隼人に弟子入りすることにする。
池ノ内富三郎…夙川アトム 深野の一番弟子。深野組解散にあたり、京都に就職。
磯貝忠彦…三谷昌登 深野の二番弟子。深野組解散にあたり、大阪に就職。

藤永一徹…久保山知洋 陶器会社で企画開発をやっていて、敏春に雇われる。
津山秋安…遠藤雄弥 大阪の建築資材研究所にいて、敏春に雇われる。
十代田八郎…松下洸平 京都の美術大学出身。祖父が買った深野の絵をお米に代えた過去がある。

森田隼人…長崎の陶芸家。深野が弟子入りを申し込む。

●大阪 荒木荘の人々
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者だったが、不況で、尊敬する上司・平田が他紙に引き抜かれたため、退社。女性誌の記者となり、琵琶湖大橋の取材のおり、信楽の喜美子を訪ねる。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。

●大阪の人たち 
マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。
平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。

ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。

あらすじ


第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第五週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。
第六週 昭和31年 喜美子、信楽に戻り、丸熊陶業で働きはじめる。
第七週 昭和31年 喜美子、火鉢の絵付けに魅入られ、深野心仙の弟子になる。
第八週 昭和34年 喜美子21歳 「信楽初の女性絵付け師ミッコー」として新聞に載る。
第九週 昭和34年夏、丸熊陶業の社長が亡くなり深野組解散。秋、喜美子の絵付け火鉢が完成する。


脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき