「MIU404」6話 志摩が星野源であることの意義は「志摩が抱える絶望とそれを隠して生き続ける悲哀」
イラスト/ゆいざえもん

休みの日の物語「MIU404」6話

「よっ。 相棒殺し」

伊吹(綾野剛)、率直すぎ。綾野剛と星野源がMOBILE INVESTIGATIVE UNIT(機動捜査隊)のバディを組んで24時間働くMIU404(TBS系 毎週金よる10時〜)、7月31日放送の第6話「リフレイン」は休みの日の物語。
伊吹が九重(岡田健史)と共に志摩(星野源)のトラウマの原因を探る。

「相棒殺し」は「鬼殺し」みたいなものではないのかとすっとぼけ、九重から説明を聞いて「マジか」と慌てる伊吹。うそ〜〜ん。伊吹、いい意味で天然、悪くいえば鈍感。ただ、敏感すぎて、これ言ったら悪いかなと気にして何も言えないと結果的に相手の真実はわからないままになってしまうことがあるもので、たとえ「聞き方に工夫がない」と志摩にダメ出しされても、伊吹のように無邪気にぐいぐい間合いを詰めていくことも時には必要だと感じる。少なくとも志摩のような性格の人物にとっては。

気にしすぎて本当のことがわからなくなってしまう例は、桔梗(麻生久美子)が、自宅の給湯器の修理に仕事でなかなか立ち会えないため困っているという話をしたところ、志摩が気を利かせて自分は休みにすることもないので代わりに立ち会うと持ちかけると、「パワハラになってない?」と心配するところにも現れている。

いまの時代、何を言ってもやっても「パワハラ」「モラハラ」になりそうで、余計なことは何も言えない。その悩みは陣馬も抱えている。「酒ハラスメント」「筋(トレ)ハラ」となんでもハラスメント。飲みニケーションなんて言葉はもはや死語。若い相棒・九重はそういうものを好まない。
おかげで本当のハラスメントを抑止できるようになった反面、ハラスメントではないコミュニケーションの可能性まで閉ざされたというデメリットもある。

ところが、陣馬の熱さが徐々に固い岩を崩してきたのか、九重はついに酒のちからを借りて話を深める術を知る。酒……もとい朱に交わればなんとやらで、徐々に影響を受けているようである。

「MIU404」では画が饒舌にもの語る

2013年8月8日(タコの日)、当時捜査一課にいた志摩の若き相棒・香坂(村上虹郎)が亡くなった。事故か自殺か――。屋上で、飲めないウイスキー(志摩の好きなグレングリアン)を大量に飲んでいたことで他殺の線も。それには、当時、捜査一課が追っていた「タリウム連続毒殺事件」が関係していた。この件の真相はすでに調査済みで、部外秘として収められており、志摩は伊吹にそれを語らない。そこで伊吹は休みの日を使って、真実を知ろうと動き出す。

コップに入ったお酒がゆら〜んとハイスピードカメラで揺れるのと、志摩が桔梗の部屋で、ハムちゃんがあげたおくれ髪が揺れるのとが合図のように、物語は過去、2013年へと遡っていく。

酒を飲みながら事件の推理をしていく伊吹と九重。興が乗って二人は休みの日にもかかわらず署に行って、もっと当時のことを調べようとする。署で酒臭いと騒いでいる伊吹と九重は、大学生の青春のようだ。


それを見て眉をひそめる桔梗。相棒のために昔の事件を調べたい伊吹に「相棒なんて一時的なものでしょ」とドライな桔梗に、伊吹は相棒として全力で走るためには、相手のことを知りたいと訴える。その表情は無垢そのものだ。

九重が以前、志摩から聞いたピタゴラ装置のスイッチのように、偶然、機捜に異動してきた伊吹が、志摩のスイッチになり得ると伊吹は桔梗に言う。すでに解決済みの事件を、志摩が教えてくれないからといって、自分と志摩の関係性のために調べようとする実直な伊吹。

「何だか人生じゃん」
「一個一個大事にしてえの」

セリフのすべてはもったいなくてここには全部引用しない。ドラマ開始20分以降に発せられるとだけ記しておく。

セリフもいいけど画もいい。自分がたまたま機捜に入ったことを「玉突き」という言葉で表した伊吹のセリフを聞いて、1話のカーアクションの玉突きが脳裏に浮かんできた。1話のあの派手な画は志摩と伊吹の出会いのメタファーだったのだろう。

酒臭さを桔梗に咎められ、シャワーを浴びて、伊吹の着替えを借りた九重がまさに大学生のように赤いトレーナー(伊吹の置きウェア)を着た姿も、彼の心の変化が徐々に変わってきている象徴のようだ。絵画に謎が塗り込められているように「MIU404」では画が饒舌にもの語る。
容疑者の女性宅に小さい冷蔵庫がふたつ(3つ?)並んでいるところなんて美術スタッフの仕事も細かい。

誰かと誰かの出会いが人の道を変えていく

香坂の事件の真相を知った九重は、自分の失敗を志摩に言えるだろうか、とつぶやくと、陣馬は「最初から裸だったらなんだってできる」と励ます。ここのセリフのすべてももったいないから引用しない(35分くらいに出てきます)。

香坂と九重は若さという点で同じである。香坂は未熟ゆえ、仕事がうまくできなくて叱られることをおそれて誰にも言えずに道を間違えてしまったが、九重は、陣馬や伊吹に出会ったことで、同じ過ちを繰り返さずに済むかもしれない。

そして、志摩。香坂を救うことができず、あれからずっと後悔に苛まれていた志摩に、伊吹は手を差し伸べる。志摩を徹底的に知ろうと行動した結果、伊吹は未だ誰も知らなかった事実を見つけるのだ。

誰かと誰かの出会いが人の道を変えていく――「MIU404」は繰り返し繰り返しそれを描いている(リフレイン)。

人生で出会うもの「一個一個がスイッチ」と伊吹が言うように「MIU404」の脚本は一個一個にスイッチが仕掛けられている。それがひとつひとつ小さく起爆していって、最後に主題歌「感電」で大きな爆発をするように端正に設計されている。

美しき設計図に沿ってスタッフが丁寧に作り上げたドラマの34分頃。九重が、香坂の検死記録を読み上げて、それがとても丁寧に調べられているのを感じると、映った検体者記録の執刀医の欄には「アンナチュラル」の三澄ミコトと記されている。
ミコトは執刀しながら何を考えていただろうか。彼女の記録が数年ののち、九重や伊吹の推理脳を駆動する。これもひとつのスイッチであろう。

志摩はあのとき何もしなかったこと、香坂に「進退は自分で決めろ」と突き放したことを後悔したが、それは必ずしても不幸のスイッチであったか……。

人生のなかで、あとになってあのときこうしていれば……と後悔することは少なくない。伊吹のように野生の勘で敏感に何かの声を受け取ることはなかなかできないことだけれど、みんなが伊吹のようになれたらいいのに。

志摩は無理してマッチョなキャラを演じているような気がする。銃のホルダーして胸張っている姿にはどこか違和感がある。志摩が星野源であることの意義とは、志摩が抱える絶望とそれを必死で隠して生き続ける悲哀であろう。

九重が方言を時々出すようになったように、桔梗が亡夫とは仕事の話でなく、たわいない日常会話をしたときに見せる無防備な笑顔のように、志摩にもきっと人に見せない顔があるのだろう。硬い硬い志摩の殻が破れるスイッチとは何か。

2話でほうとうを食べながら「おまえは長生きしろよ」と志摩は伊吹に言っている。
そして6話で伊吹は「殺しても死なない男、それが伊吹藍」と長い生命線を見せている。ドラマでこういう表現をするときはあとで必ず何かあるもの(いわゆるフラグ)。そんな不吉な予想を覆してほしい。

「いま心の底からいらっとした」と伊吹に背を向けた志摩の滲んだ境界線のような顔がもう。
(木俣冬)

番組情報

TBS 金曜ドラマ『MIU404』
毎週金曜よる10:00〜10:54

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/
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