
ドラマ好きを喜ばせる仕掛けが随所に 『半沢直樹』6話
日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜 よる9時〜 TBS系)第6話(8月23日放送)は、帝国航空の再建に乗り出す半沢にいよいよ国家権力の魔の手が伸びてくる。国土交通大臣・白井(江口のりこ)と弁護士・乃原(筒井道隆)の半沢(堺雅人)に対する冷ややかで陰湿な対応を見ると、「沈・没!」の大和田(香川照之)や、金融庁にまた戻ってきた「やる気、満・満!」の黒崎(片岡愛之助)、ふたりの半沢への、飼い主に飛びつく犬のような熱いアクションは可愛く見えてくるほど。彼らの言動はもはや半沢愛にしか見えない。
また、黒崎の部下役で人気声優・宮野真守が出演するも台詞は「はい」のみで、あとは表情で見せるというある意味アグレッシブなアプローチもあって、視聴率は24.3%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)だった。
なにより『半沢直樹』第2シーズンが盛り上がっている要因は、ほかの池井戸潤作品とのリンク。今回は、半沢が帝国航空の再建案のひとつ・社員を転職させるため、その転職先を探すときに、『下町ロケット』の“帝国重工”や、『ノーサイドゲーム』の“トキワ自動車”などの名前が出てきて、SNSは盛り上がった。
第1話でも、株価のエピソードで、『下町ロケット』の佃製作所、『陸王』のダイワ食品、アトランティスなどの名前がさりげなく株価が記された電光掲示板に登場している。たしか諸田(池田成志)が帝国重工とメールしている描写もあった。
半沢と同じ世界に、あの熱いドラマの登場人物たちが生きていると想像させる愉快な仕掛けは、同じくTBSのドラマ『MIU404』でも、同じスタッフが作った『アンナチュラル』の登場人物が出てきて盛り上がっていることと同じ。ドラマ好きはこういうリンクが大好きなのだ。
極めつけは、『半沢』の公式Twitterで紹介された、劇中に出てくるICレコーダーは『七つの会議』の電機メーカー・ゼノックス製であること。半沢が勝ちに出られる重要な裏のやりとりをいつも録音することに役立ちまくっているICレコーダーがゼノックス製!
今回もまた、帝国航空財務部長・山久(石黒賢)と、半沢を嫌っている東京中央銀行審査部次長・曾根崎(佃典彦)のやりとりを高音質で録音することで、半沢は危機を逃れる。音声データからの大逆転の展開、何度目だよ? とは思うが、ゼノックス製だったから許す(何様)。
池井戸作品は金融業、製造業と我々の生活に密接に関わっている企業の物語を描いているから、すべてがリンクしていることになんの違和感もない。
巨大な権力の被害者、曾根崎に同情
と思ったら、第6話では、大和田がすこしまともなことを言っていた。白井の提案するタスクフォースを真っ向から否定して会社を再建させようとする半沢は白井から睨まれてしまうが悪びれない。半沢が個人であればいいが、彼は東京中央銀行の社員。彼のしたことは結果的に頭取(北大路欣也)に返っていく。白井は銀行を訪ね、頭取に“業務改善命令”を出すとチラつかせる。危うい空気を呼んで謝罪する紀本乗務(段田安則)。この状況を見て大和田が半沢に忠告する。
「君が謝らなかったのはある意味では正しい。
そして謝った紀本常務も正しい。
政治というのは常に理屈では割り切れない問題があるんだよ。
しかしなにより大事なのは頭取のお立場をお守りすることだ。
ごもっとも。大和田がこんな常識的なことを言うなんてびっくりした。ただ、この頭取の立場を守るために社員が犠牲になっていいのかという問題が浮かび上がってくるのだが……。確かな信念のもとに、たとえ頭取のためにならずとも闘うのが半沢。頭取のためと言って結果的に出世を求めているのが紀本、大和田、曾根崎。
曾根崎は、再建案の内容を一部変更し、それを山久の間違いにすることで誤魔化そうと暗躍したが、半沢がICレコーダーで密談を録音し、陰謀が明るみに。
彼は紀本に頼まれてやっていただけで、いわゆるトカゲのしっぽ切りをされてしまったわけだが、それも彼の信念の置所が倫理感に欠けたものだった結果である。それと比較されるのが、具合が悪くなるほど社員を思う山久である。
大和田も紀本もしらばっくれて、曾根崎は土下座させられる。「ただただただただ……」と曾根崎を攻め立てる大和田、ひどい。
『半沢直樹』の世界は大和田や黒崎などをはじめとして極端な演技をしているので、複雑なことを考えずに、半沢の悪者退治を楽しんでしまうのだが、今回の曾根崎は、確かにいやなやつなんだが、半沢にこんなにガンガン叩きのめされ、大和田や紀本には、あーあ、という顔をされ(演技で)、頭取にも見捨てられ、あっけなく地位を追われてしまうと、この人にも生活があるだろうにとか、この人はどうしてこんなふうになってしまったんだろう……と危うく心を寄せてしまいそうになった。
『半沢』では、徹底して力技で様式的に演じないといけないんだなあと感じさせた場面であったが、曾根崎からこぼれでた巨大な権力の被害者としての弱さを支持したい。
佃が主宰する劇団B級遊撃隊も、コロナ禍で公演が延期になっている。早く再開できますように。

半沢は大和田と紀本の思惑をわかっていて、次は彼らを追い詰めようとする。曾根崎に向かって怒鳴っていた言葉は、じつは彼らにも向けられていたに違いない。
顔芸だ、ギャグだと言われつつ、一社員が正義を糧に巨大な組織に立ち向かっていくのはやっぱりしびれる。こういうふうに感じられるのは、紀本役で参加した段田安則の力も大きいように思う。これについてはいずれまた。
(木俣冬)
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番組情報
日曜劇場『半沢直樹』毎週日曜よる9:00〜9:54
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/