『エール』第16週「不協和音」 77回〈9月29日(火) 放送 作・清水友佳子 演出:鹿島 悠〉

音、婦人会に参加する
佐智子もシズ子も、音楽教室の生徒が続々辞めて、華(根本真陽)と弘哉(山時聡真)のみになった。正確にいえば、華は娘だから、生徒は弘哉だけに。彼女たちに語りかける音(二階堂ふみ)はすっかり声が小さい。【レビュー】『エール』第16週「不協和音」毎日レビュー<あらすじ>
雨のなか、傘をさして音が配給に並んでいると、吟(松井玲奈)がやって来て、国防婦人会に参加するよう勧める。出席しないと配給にも差が出るからと。なんだか最近雨が多い。
音はしぶしぶ参加して、婦人会の心得を唱えたり、竹槍を作ったりする。「私共は日本婦人であります」 音の声の小ささは、こういうときに生きてくる。班長・佐々木克子(峯村リエ)は大きな声で、音にももっと大きな声を出すように迫り、音はそこでようやく声を大きく出す。皮肉にもその落差が妙味となる。
婦人会の帰り、音は喫茶・竹に行って愚痴る。竹槍のあとの喫茶・竹。すると、保(野間口徹)と恵(仲里依紗)が婦人会のことを声に出して批判することを注意する。婦人会のちからは大きいのである。
今、世の中は、婦人会の力が強く、婦人会に参加しない者の立場は弱い。音の声の小ささは、多数派に属していない遠慮もあるだろう。あるいは、好きなことを自由に語れなくなっていることの表れでもあるだろう。どんなときでもハキハキ元気なヒロインもいるけれど、音は自分の気分や世界の空気に正直なヒロインである。以前だったら、吟に口うるさく言われたら、同じようなテンションでやり込めていただろうが、音は黙って吟と腕を組む。それは成長なのか諦念なのか見る者の想像に任される。
それに比べて、婦人会の人たちは、「私共は日本婦人であります」とハキハキと元気。でも、彼女たちの声の大きさ、強さは無理して頑張っているように見える。
婦人会の班長の声の強さ、音の声の弱さ、登場人物の声の大きさの違いは、この世界のバランスが崩れているように感じさせる。今週のサブタイトルは「不協和音」。妙に強い音、か細く元気のない音がてんでバラバラに鳴っている。
音、家庭菜園をつくる
こんなときでもマイペースなのが、保と恵。材料不足のなか、代用デザートの試作に余念がない。「少し前まで普通だったことが普通じゃなくなってますものね」と音はますますしょんぼりする。
音楽教室の最後の生徒・弘哉が軍事教練で忙しくなって、それでも音に気を使い、無理して来てくれていることに気づいた音は、教室を閉じることにする。音楽をやりたくなったら好きなときに来ていいということにして。
弘哉と母・トキコ(徳永えり)が挨拶に来て、お土産のかぼちゃを煮てみんなで食べる。そこで音は、家庭菜園をやることを思いつく。「よし決めた」と言うときの声は久しぶりに腹から声が出ていた。

畑作りでは、裸足。音の生命力はただ眠っているだけだ。やっぱり音は元気が似合う。この日は明るい日差しが差し込んでいる。
そこへ、報国音楽協会から、音楽挺身隊の勧誘の手紙が来た。
音は完全に今の世のなかに対して希望を失っているが、裕一の立ち位置は微妙である。なにしろ、作曲家としては順調なのだ。どんどん仕事が来ていて、それは彼の自尊感情をくすぐることであろう。自分の曲をたくさんの人が聞いて反応してくれることはやっぱり歓びには違いないのである。国民を一致団結、戦争に向かわせることがどんな結果を生むか、まだ想像できていない。新聞を読んでいるとき真剣な顔をしているが、おそらく、音ほどは明確に現状に不満や疑問を感じていないだろう。というか、今は仕方ないという気持ちになっているから、音が「一致団結かあ」と言ったあと、うんうんと自分に言い聞かせるような顔をする。
そのとき、五郎(岡部大)が再びやって来て、問題は先送りになる。なにか真面目に考えなければいけないことがあるけれど、日々、大小様々なことが起こって、ついあとまわしになっていく。
窪田正孝は結果から逆算して演技をしていない。今、この瞬間の裕一を演じている。これから裕一がどんな気持ちになっていくか、そこがこのドラマの見どころであろう。
朝ドラ国防婦人会
ドラマで気になった点を書きます。そういうのが読みたくない方はスルーしてください。婦人会で「古山音です」と挨拶したとき、班長たちはなぜ「あの古山裕一さんの?」と盛り上がらないのだろうか。吟に対しては、彼女の義弟が「露営の歌」や「暁に祈る」の作曲家だと知って盛り上がり、婦人会の曲を作ってほしいとまで言い出し、吟が聞こえないふりしていた。そこですこし関係性がぎくしゃくしていた班長に、音を紹介したら話の蒸し返しになりそうなものだが、そのへん、どうなっているんだろう。班長、もう諦めちゃったのだろうか。
(木俣冬)
【前回レビュー】『エール』76話 いつかまた福島三羽ガラスで楽しい曲を――戦時色深まるなか3人が再びバラバラに
【レビュー】山崎育三郎 “華がある”存在そのもの 「ミュージカル界の王子」と称される由縁
【レビュー】古川雄大 「エール」で強烈インパクト 絢爛豪華な物語世界に深く誘ってくれるミュージカル俳優
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主な登場人物
古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。
古山華…根本真陽 古山家の長女。
関内梅…森七菜 音の妹。文学賞を受賞して作家になり、故郷で創作活動を行うことにする。
田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子になることを諦めて、梅の婚約者になる。
関内吟…松井玲奈 音の姉。夫の仕事の都合で東京在住。
関内智彦…奥野瑛太 吟の夫。
廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。モデルは古賀政男。
梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。
佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。
藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。
御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。

番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和