10月16日(金)、本レビュー原稿の仕上げ段階に差し掛かっていた折、GLAYのニュースが飛び込んできた。新型コロナウイルス感染症の収束が未だ見えない中、予定されていた札幌ドーム公演を断念、代わって12月19日(土)・20日(日)のさいたまスーパーアリーナ2DAYSを開催する、との発表である。
ファンにも様々な立場があるため、悲喜こもごもの反響を巻き起こすことは予測されたが、熟慮の末の決断だったのだろうことは確信。それは、これまでのGLAYの誠実さを見てきて育まれた信用があるからだ。
本連載では、未曽有の困難に誰もが直面する中、より一層際立って感じられるGLAYの強さ、その魅力を掘り下げ、コアファンの方々以外にも広くお伝えすることを目指す。
デビュー26周年を迎えたGLAYが稀有なバンドである理由
GLAYは‘88年、郷里の北海道・函館市で結成。’94年のメジャーデビュー以降、‘99年の伝説の20万人ライブ『GLAY EXPO’99 SURVIVAL』、ベストアルバム『REVIEW』の出荷枚数500万枚超えなど数々の記録を打ち立て、平成という時代と並走してきた国民的ロックバンドである。ライブには老若男女が詰めかけ、今や親・子・孫三代にわたる家族ぐるみのファンも少なくない。アコースティックギター1本で弾き語りしても成り立つ情感豊かなメロディーと、その感動を何倍にも増幅させるハートフルなバンドアンサンブル。
4者4様に異なる個性的なキャラクターと、その4人の間にある強い連帯感、会話が始まればたちまち放課後の部室のようなムードになる底抜けの楽しさ。音楽への支持はもちろんのこと、メンバー同士の仲の良さがファンにもたらす安心感と幸福感はバンド多しと言えど群を抜いており、大きな支持理由として挙げられるだろう。
2005年、GLAYは当時の所属事務所から独立。2010年には自主レーベルを立ち上げ、以後、ポニーキャニオンを販売のパートナーとしながらも、インディペンデントな活動を繰り広げている。
独立後は、オリジナルコンテンツ満載のGLAY MOBILE、公式通販ストアG-DIRECT、公式サブスクリプションサービスGLAY appを次々と開設。SNSの普及によって現在のようにアーティスト自らの発信が一般化するよりもずっと早く、GLAYはプラットフォームを整え、自分たち専用のメディアを手にしていた。
作品やグッズの制作・販売に留まらず、テレビ番組すら自前で制作し、完成品として局に持ち込んだこともある。もちろん、開発には初期費用も掛かり、成功の保証もなかっただろう。しかしGLAYは4人の結束を起点に、何事も人任せにせず、ピンチをチャンスに変えて乗り越え、独自の手法で支持を積み上げてきた。その不屈のDIY精神と柔軟性に学ぶところは多く、閉塞した時代を突破する上での大きなヒントを与えてくれる。
GLAYの活動に感じる、社会貢献への強い使命感
2020年4月。GLAYは、コロナ禍を鑑み、メジャーデビュー25周年イヤーのクライマックスとなるはずだったナゴヤドーム、東京ドーム2DAYSの計3公演を中止すると発表した。苦渋の決断であったことは言うまでもない。TERUがオフィシャルインタビューで語っているように、中止発表のタイミングは、遠征のため宿泊先や交通手段を手配しているファンにキャンセル料を負担させずに済むよう早目に、と考慮したという。
さらにGLAYは、すぐさま社会のためにも動いた。深刻なマスク不足が叫ばれていた当時、ドームツアーのスタッフ用に備蓄していた5000枚のマスクを医療機関に贈呈すると同時に、1000万円を寄付。また、5月22日には彼らの地元である北海道の地域医療を守るためとして、北海道庁へ1000万円の寄付を行った。それは、GLAYというバンドの徳の高さのようなものが伝わってくる紳士的な振る舞いだった。
ドーム中止が本人たちにとって悔しくなかったはずはないが、リモートでの楽曲制作活動に精を出すと同時に、フロントマンTERUが次なるアクションを起こす。
TERUの誕生日6月8日に行ったソロ配信に続き、第2回目はTAKUROを招いて函館から、第3回目はHISASHIをゲストに湘南で、第4回はJIROを迎えてクラシック・アレンジで……と次々にメンバーを呼び込んで、実験的な試みを重ね、10月31日(土)のvol.5にはハロウィン企画を予定している。
また、去る7月31日の“GLAYの日”には、函館の活火山・恵山での野外無観客ライブを実施し、GLAY Official YouTubeにて公開。様々な形でコンテンツを制作、発表し続けている。
GLAYの活動からは、支え続けてくれたファンへの感謝、そしてさらに視野を広げ、社会貢献への強い使命感を感じ取ることができる。2011年の東日本大震災以降、東北へ寄り添う姿勢が揺らぐことはなく、2014年の20周年イヤーには10年ぶりの“GLAY EXPO”を仙台で開催し、東北史上最多となる5万5000人を動員した。
記事を書く者として自戒しなければならないことでもあるのだが、集客規模の拡大ばかりが注目を集めてしまい、メンバー自身が開催意義を見出せないでいたGLAY EXPOを“祈りと鎮魂の場”として再定義し、地域の復興に捧げたのである。
震災や台風被害に限らず、以前から行っていたゆうばり市への支援も継続中。自分たちの手ですべてを把握・管理しやすい運営体制を整えた上で取り組んできた活動のベースにあるのは、“自分たちさえよければ”という発想とは対極の“利他”の精神。もちろん、日本を代表するベテランバンドとしての責任感も当然あるだろう。
しかし大きな原動力となっているのはもっとシンプルな想いで、GLAYというバンドは、その土地々に暮らすファンの存在をリアルにイメージできていて、放っておくことなどできないからではないだろうか? 人を愛し、大切にするバンド。一見スケール感の大きな活動も、そんな原点から生まれているように思える。
2012年、長居スタジアム公演のMCにおける「GLAYは解散しません!」というTERUの言葉を初めて耳にした時、ロックバンドらしからぬ安定感に驚いたものだが、この不安な時世を迎えて思うのは、それこそ最も実現が難しく、だからこそ尊い約束だったのだ、ということ。
決意表明とチャレンジを含んだ公約を高く掲げ、ファンという名の賛同者を募り、邁進する民主的なバンド運営システム。2019年に掲げたGLAY DEMOCRACYというスローガンは、GLAYらしさに満ちていた。
しかし同時に、音楽制作は聖域。何にも誰にも媚びず己の表現を貫き、決して誰にも手出しさせないNO DEMOCRACYを突き付け、アルバムタイトルとした。安心感とスリル、GLAYはその両方を味わわせてくれる。
4人の結束の証はこんなところにも……
ナゴヤ、東京ドーム公演が中止になった後、GLAY appでリモートトーク映像が配信された。それを観て驚愕したのは、メンバー4人の会話の呼吸がピッタリと合っていたこと。物理的に同じ場所にいない、というぐらいのことは彼らの結束の前には障壁にならないのか、と感じ入ったのである。逆に、これまでに行ってきた彼らの集合インタビューを振り返ると、4人が同時に話していることが多く、全員の言葉を聴き分けて文字起こしするのに時間が掛かったことを思い出した。「我先に!」と話し、互いにツッコミを入れたり笑ったりし合う微笑ましい様子が脳裏に蘇ってくる。
音楽の追求、バンド活動よりもまず、彼らにとっては“GLAYであること”が最優先事項。4人が4人でいることを本気で楽しんでいる姿は、寄る辺ない心に、大きな精神安定作用をもたらす。
コロナ禍により、発表前に中止となった幻の九州ツアーが5月に予定されていた。ドームツアーで訪れることのできない九州のファンを思っての企画だったのだろう。
札幌ドームでの開催が叶わなかったことには胸が痛むが、悲しい想いをしたファンに対し、GLAYはいつか必ず何らかの形で返してくれるはず。そう信じることができ、応援していることが誇りに思え、自己肯定感すら高めてくれる存在。そんな稀有なバンドがGLAYなのである。
(大前多恵)
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ライブ情報
【GLAY DEMOCRACY 25TH “HOTEL GLAY GRAND FINALE” in SAITAMA SUPER ARENA】会場:埼玉・さいたまスーパーアリーナ
2020年12月19日(土)開場15:30 / 開演17:00
2020年12月20日(日)開場14:30 / 開演16:00
チケット:S席 ¥9,900、A席 ¥6,900、着席指定S席 ¥9,900(各税込)
※「着席指定S席」はHAPPY SWING会員、GLAY MOBILE会員の方を対象に、枚数限定で販売
※3歳未満の入場不可、3歳以上チケット必要
問い合わせ:ウドー音楽事務所(TEL. 03-3402-5999 / 月・水・金12:00-14:00)
詳細:https://www.glay.co.jp/live/